シュタイナー伯爵 ロンサール侯爵夫人 6
母の主張は、理解できる。
侯爵家の事業のほとんどは、国の認可を父が根回しし、シュタイナー伯爵と母が実務を担うことで成り立ってきた。しかも、初期の侯爵家の資本金は、カーライル伯爵家の製薬事業の利益から半分以上出しているのだ。
経営が順調とはいえ、農産物が中心の領地では、それほど大きな利益は見込めない。国の中枢にいる父は、早くに限界を感じ、経営主体を切り替えた。確かに、有能な当主であり、為政者ではあるのだろうが、これでは完全に契約違反だ。
「・・・なぜ反対だと、言わなかったんですか?」
「反対?初めて聞いたのが、あの昼餐会だったのに?」
「・・・!それは、本当ですか!?」
「本当よ。わたくしは、二人に事業を一部譲渡するという話を、あの場で初めて聞いたのよ。既に話が出来上がっているのに、どう反対しろというの」
セルマンは、アマンダと正式に婚約し、両家顔合わせの昼餐会を思い出した。あの時、父は、弟達に事業の一部を譲渡すると言い、セルマンとアマンダに協力するよう求めた。
突然の話に戸惑いはしたが、アマンダと二人ならば、今後の新事業を軌道に乗せ、規模を大きくすることが可能であり、その一部を持参金として二人に譲渡するのは理に適っている。シュタイナー伯爵が了承しているなら、反対する理由はなかった。
だけど、まさか母に何も言っていなかったとは―――――!
「わたくしは、確かにあの二人を、貴方と分け隔てなく育てたし、愛情、とまではいかなくても、それに似た感情も持ってはいてよ。侯爵が婿入りの持参金として、それなりの用意を、と考えるのもわかるわ。家の事業采配は、全て当主に権限がある。でもね」
「それとこれは、話が別なのよ」
譲れないものがある。先ほどの言葉が重みをもつ。
「わたくしは、契約を守った。だから―――――今度は、侯爵の番よ」
「私に相談を、とは考えなかったのですか。そうすれば、少しは・・・」
「彼女は気づいたわ」
「彼女?・・・アマンダですか?」
「そう。あの後、訊かれたのよ。❝あのお話で、よろしいのですか❞って。だから、わたくしも答えたわ。❝当主の決定ですよ❞と」
つまり、アマンダは、母の真意を問い、それに当主の決定だと答えたのだ。敏いアマンダならば、母の不満に気付いただろう。当然、母が何らかの反撃を決意していることも。つまるところ、セルマンとアマンダの婚約は、初めから波乱含みだったのだ。
セルマンが、何一つ気づかなかった己の不甲斐なさに、改めてため息を吐いた時、
「貴方たちを巻き込むつもりはなかったけれど、伯爵夫人が、貴方とヴィアンカ嬢が恋をして、アマンダ嬢が婚約解消を考えている、と相談してきて」
侯爵夫人が、新たな爆弾を投下した。




