シュタイナー伯爵 ロンサール侯爵夫人 5
侯爵家の問題が明らかになってきました。
実は侯爵夫妻、夫人の方が5才ほど年上なのです。
仕事に邁進して嫁き遅れた令嬢と、かたや適齢期になったばかり、優秀な宰相補佐で眉目秀麗、かつ名家の嫡男という超優良物件。
セルマンは、色彩、見た目共に侯爵夫人によく似ているので、侯爵夫人はそれなりの美貌の持ち主。対する侯爵は金髪碧眼の美丈夫で、なかなかお似合いなのですが、家柄、年齢など考えると、ちょっと不穏な取り合わせですね。
――――ロンサール侯爵家の後継ぎは、自分だけ――――
セルマンは、その言葉の意味を考える。加えて、父と母、両方の血を継ぐ者が後継者たりえる、という新たな契約。その二つから、導き出される答えはただひとつ。
兄弟の中でセルマンのみが、母の血を引いているということに他ならない。そして、セルマンがいる限り、父は、自分の子以外の子供を家に入れるようなタイプではなく、弟たちは嫡子の身分を持っている。
「それは・・・父上に愛人がいる、という解釈でいいですか」
そう言葉にしながらも、内心、父と愛人という存在が結びつかない。何より、この母が愛人の子供を自分の子として迎え入れるなんて、これは、青天の霹靂というやつだ――――。
「そうねえ・・・愛人というよりは、契約の一環、ということになるかしらね」
しばしの沈黙の後、意を決して尋ねると、思いのほか事務的な答えが返ってくる。
「契約?子供二人が三人に増えているのに?」
「だから、新たに契約加えたのよ」
セルマンは、事務的に質問を重ね、母もあっさりと答える。感情が入れば、おそらくこれ以上話は続かない、とお互い判断してのこと。
「貴方を産んだ後、わたくしは二回流産しているの。その後生まれたブライアンは身体が弱くて――――まあ、いわば念のためにもう一人、ね」
つまり、流産の後子供を望むのは難しくなったから、他の女の腹を借りた、ということなのだろう。あの父が子供を産ませる以上、相手は貴族の令嬢に間違いない。
「母親は、誰です?」
「一族の籍を持つ、困窮した男爵家の末娘。社交界デビューもできなくて、裕福な平民の後妻として嫁ぐところだったのを、侯爵家の事業利益を一部譲渡する条件で話を持ち掛けたそうよ」
「本人は納得したのですか。正式な妻よりも、愛人の方がいい、と?」
「愛人とは違うわね。本家の侯爵家の嫡子を産んで、家の存続を買った。本人は、今も実家で悠々自適に暮らしているわ。子供が平民になるのを望まなかったそうだから、悪くない取引と言えるかしらね?」
――――本人にしか、わからないでしょうけれど――――
そんな声が聞こえた気がした。
貴族の一員と認められるには、デビュッタントに参加して、社交界デビューを果たさなければならない。言い換えれば、デビューしなければ、貴族として扱われないということを意味している。
社交界デビューをしていない令嬢、令息は、貴族籍を持っているだけ。よほどのことがない限り、縁づけるのは平民。準男爵や騎士爵を持つ、一代限りの準貴族と結婚出来れば、望外の幸運と言える。だから、貴族家は、どんな家でも子供のデビュッタントだけは、神経を尖らせているのだ。
実家の零落と平民落ちが決定している未来と、貴族籍と永続的な不労所得が保証された、何不自由のない生活。産まれた子供は、宰相家の嫡子になる。
愛してもいない男に身を任せるのが幸福かどうかはともかく、結婚してもそこは変わらないのならば、考えようによっては、そう不自然な取引ではないのかもしれない。
―――――問題は――――。
「母上は、納得したのですか」
「納得も何も・・・契約を履行できなかったのはわたくしなのだから、受け入れるしかないでしょう」
「――――そういうモノですか?」
「愛人ではないし、二人が必要以上に会うこともない。子供が生まれてからは、一切関わってもいない。それで、どう文句を言えというの?」
「それも契約のうちですか」
「そう。いくら約束とはいえ、わたくしにも譲れない事はあるものなのよ」
そう言う母は、どことなく、背筋をざわつかせるような微笑みを浮かべていた。
侯爵夫人編、あと二話くらいで終了する予定です。
この話、女性はいまいち幸福ではありませんが、男性も、好き勝手しながらそれほど幸福ではありません。
なにしろ、微妙にざまあ、が目的なので (;^_^A
イライラする話で、申し訳ありません。最後までお付き合いいただけると、大変嬉しいです。
よろしくお願いいたします <m(__)m>




