シュタイナー伯爵 ロンサール侯爵夫人 2
強者、ロンサール侯爵夫人との対決です。
身内には何かと甘いセルマン、頑張っています!
たまにはヘタレでない姿を見せて、優秀なことを証明してほしい!←作者の願望です。
「突然何を言い出すのかと思ったら・・・なぜそんなことを?」
母は、社交界の女王に相応しく、鷹揚に問いかける。その態度は、後ろ暗いことなど何一つないとでも言いたげに、むしろ、おかしなことを言うなと無言の圧を感じるほどだ。
だけど、セルマンは、こういう態度をとる人種の扱いに長けていた。
「質問に質問で答えるのは、疚しい事情を隠す場合と相場が決まっていますよ」
「それは邪推というモノね」
「それはともかく、質問に答えてください」
「わたくしは、彼女を気に入っていたわ。貴方も知っているでしょう?」
「また質問ですか。それほど答えたくない、と」
母と息子は、どちらからともなくお互いにっこりと、麗しく微笑みあった。
しばしの沈黙の後、先攻を切ったのは侯爵夫人。
「あらまあ、つまり、貴方はこう思っているのね?あなたが振られたのはわたくしのせい、と」
夫人はおっとりと優雅な口調で、しかし、どこか愉し気に、なんて不甲斐ない息子なのかしら、と容赦なく辛辣な言葉を投げつける。
しかし、このくらいは予想済みだ。
「まさか。自分の失敗を母上のせいになどしませんよ」
セルマンは、負けずに、余裕たっぷりに言い返す。どれほど嫌味を言われようが、今、この時を逃したら真相は闇の中。息子の人生、ひいては侯爵家の未来を覆すほどの理由だ。ここで聞いておかねば、安心できないではないか。
「父上が私を責めた時、母上はこう言いました。❝元々の約束は守られるのですから、別に構わないではありませんか❞」
ぴくり、と美しく彩られた侯爵夫人の指先が震えたのを確かめて、更に言葉を続ける。
「元々の約束。シュタイナー伯爵家との婚約は守られるという意味かと思っていましたが、そうじゃない。あれは、母上と父上お二人の間で交わされた約束、ですね」
「・・・・・・黙り、ですか?別に構いませんよ。ここから先は、私の想像ですから、そのまま黙って聞いてください」
そして、セルマンは、自分の仮説を語りだす。
「以前、私が母上に不満はないのかと訊いた時。望むものが与えられていれば構わないと、愛情が自分だけにあることが条件だ、と貴女は答えました。私は、それを言葉通り解釈したけれど、実際は違っていた」
ここでセルマンは、母の反応を窺う。意図的に呼び方を母上、から貴女に変えてみたが、特に変化はない。母の完璧な鎧には、この程度ではかすり傷ひとつつけられないらしい。
「貴女の言う愛情とは事業がらみのことで、それは、貴女がすべて把握できる規模、つまり貴女が全権を握るという意味だった―――――違いますか?」
「それでは、まるでわたくしが、利益にしか興味がないような言い方ね」
「そうですね。もともと、父上は、カーライル家の薬業利益と、貴女の事業手腕をシュタイナー伯爵と結びつけ、侯爵家との婚約での更なる発展が目的。貴女は、どちらかと言えば弱小の伯爵家の一人娘。やっと軌道に乗せた家業を抱えて、既に年齢的にも好条件のお相手を見つけるのは難しい。そこへ降ってわいた、宰相でもある若き侯爵―――つまり、父上からの申し込み」
「貴女は、ちょうどいい、と思ったはずだ。だけど、政略結婚が当たり前の貴族社会と言えど、仮にもロンサール侯爵夫人が、箸にも棒にも引っかからない伯爵家の出身で、野心満々の事業家となったら、流石に社交界のご婦人方の反発は必至。事業を展開するにも、外聞が悪ければ支障をきたす。だから、貴女は考えた。求婚を受けた、ちょっと頭がいいだけの田舎令嬢は、一方的に侯爵に熱を上げ、何もかもを差し出したことにすれば、彼らの留飲も下がり、積極的に邪魔されることもないだろう」
母は、相変わらず表情一つ変えず、ゆったりと扇をとると、宣った。
「カビの生えたロマンスね。面白いわ」
セルマン、攻勢頑張りました。
次は、侯爵夫人の防御です。攻撃するのか、専守に走るのか?
イメージ的には、侯爵夫人とアマンダは攻撃派、セルマンは攻守両方、伯爵は両方だけど若干攻撃派、オスカーは攻撃もできるけど、基本防御派。
ヴィアンカと伯爵夫人は専守派でしょうかね。少なくとも、攻撃は下手そうです。