シュタイナー伯爵 ヴィアンカ 2
あまりの暑さにだらけてしまい、筆が進みません。
気温が30度を超えると活動が鈍くなる、まるで昆虫のような特性の持ち主です、すみません。
ヴィアンカは、いつも❝彼❞を見つめる。目が合っても、次の瞬間にはさりげなく逸らされる、話しかければこちらを見て応えてくれるが、❝彼❞から話しかけられることは無い。つまり、積極的に関わろうとはしてくれない。
それでもよかった。ただ見ているだけでも、心が浮き立った。姉に笑いかける顔、何か思案する顔、姉の提案に困惑しながらも楽しそうにする顔。たまに心臓がきゅっとする感覚があっても、無視した。それは、抱いてはいけない感情だったから。
成長して体調が良くなるにつれ、発作もあまり起こさなくなり、順風満帆に見える日々が続いたが、セルマンとアマンダが社交界デビューをした頃から、不穏な影が忍び寄る。
成人を迎えて婚約した二人は、正式な場に招待されることが多くなる。何といっても、ロンサール侯爵家とシュタイナー伯爵家の結びつきだ。将来の侯爵夫妻、ひいては伯爵家の事業を牽引することが決まっている二人と、お近づきになりたい者など、貴族に限らず大勢いる。自然と二人で出かけることが多くなり、そこには、ヴィアンカの場所など当然あるはずがなかった。
楽しい時間は、時に残酷だ。楽しければ、楽しいほどに、一人取り残された者の感じる孤独は強くなる。三人で過ごす時間はとても幸福だ。その分一人の時間が悲しくなり、二人だけで過ごせる姉への嫉妬が芽生えるまで、それほど時間はかからなかった。
二人で出かけた、二人で会っていて、自分は呼ばれない。考えないようにしていても、同じ屋敷で暮らしていれば、いやでも耳に入る。そんな時は、いつも激しい発作が起きた。
発作は苦しく、心臓を握りつぶされるような痛みを伴う。薬の多用は身体を蝕むが、誰かが付き添い、安心感を与えることで、薬を服用しなくても発作が早く治まる。そう母は説明し、何故か姉の婚約者が付き添ってくれることが多くなった。姉も積極的に賛同してくれた、という言葉をそのまま信じた。
それでも、申し訳なく思って姉に謝ると、姉は、いつものように優しく微笑んでヴィアンカに言ってくれた。
「発作が治まるのが、一番大切よ。あまり気にすると、良くないわ」
――――――こんな感情は、間違っている――――――そう思いながらも、二人でいられる時間が嬉しかった。
❝彼❞は、優しく宥めてくれて、発作が治まると暫く他愛のない話に付き合ってくれる。姉への罪悪感を口にすると、君の身体の方が大切だ、と慰めてくれる。アマンダも、そう思っている、と。
幸福だった。仮令、相手が自分を見ていなくても。言葉だけでも、かまわない、そう思った。
そして、危うい均衡が崩れ去る時がやって来る。
「ロンサール様の婚約者は、今日から貴女よ」
何でもないことのように告げる姉を、ただ茫然と見つめるしかない自分。
自分のせいで姉が傷を負った事実を受け止めるには、ヴィアンカの精神と身体はあまりにも脆弱だった。高熱を発して発作を繰り返し、譫言の中で謝罪し続け、何とか意識を取り戻した時には、全てが終わっていた。
――――――今更、何が言えるだろう?
だから、ヴィアンカは、せいいっぱい、優雅に微笑んでセルマンに答えた。
「いいえ、ロンサール様。私も、侯爵夫人にお会いできるのを楽しみにしていました」
社交界。笑顔で悪意を隠し、優しい言葉に鋭い棘を含ませる華やかな戦場。自分は、その世界に参加した。無様な姿を見せてはならない。でなければ、❝完璧な令嬢❞とまで言われた姉の名誉が、地に堕ちる。
大丈夫。姉は、様々なことを教えてくれた。どれほど困難でも、きっと認められて見せる――――侯爵夫人にも、社交界にも――――そう強く決意した。
ヴィアンカ、決意の時です。気弱そうに見えて、実は、強い。
自分のためよりは、大切に思う人のために頑張るタイプですね~。献身的、というより、自分のためにはそこそこ頑張る、大切な人のためなら力いっぱい頑張る、という感じです。
アマンダには罪悪感があるので、余計に力が入っているようです。
ちなみに、アマンダは、実は面倒くさがりなので、自分だけのためにはテキトーにしか動きません。
案外似たもの姉妹なのかも・・・?




