シュタイナー伯爵 中庭にて 3
中庭に現れた伯爵に、一同困惑、です。
いや、あんた何しに来たんだよ? 皆の心の声が聞こえるようです。
「ああ、こちらのことは、気にしないでくれたまえ」
その声を聴いた時、なんで、この人が、こんなところに?それが率直な感想だ。
当たり障りのない話題を選んで、ヴィアンカとの会話を続ける。当たり前だが、そこにアマンダの話は出てこない、それが本日の暗黙の了解だったはずだ。 この人が、オスカーを伴って姿を現すまでは。
「客人を正門まで送るついでに、通りがかったのでね」
せっかくだから、挨拶をしようと思ったんだ、そうシレッと告げる。
挨拶。微妙な言い回しだ。誰が、誰に?オスカーを紹介するつもりがないのは、❝客人❞と言ったことで明らか。第一、あの事件で面識があるのは伯爵も知っているはずだ。そして、伯爵とは先ほど昼餐を共にしたばかりで、今更挨拶もないだろう。残る可能性はヴィアンカだが―――――そこまで考えて、はっとした。
少し前、ラドクリフ家は、鉄鉱山を落札した。画期的な輸送手段、研究の完成、隣国で普及している鉄道馬車。セルマンの中で、何かが繋がった。
―――――彼は、アマンダの新しい
パートナーなのか―――――?
そして、伯爵の言う新事業とは、軌道を使った新しい輸送手段。そう考えれば、辻褄が合うような気がした。
本当に挨拶だけして去っていく伯爵を見送りながら、拭いきれない違和感に、思考が囚われる。
アマンダのパートナーだとしても、これからの伯爵家の事業にセルマンは無関係なのだから、会う必要はないはず。なのに、なぜ・・・・?
「ロンサール様」
ヴィアンカの控えめな呼びかけに、はっとする。
「先ほどの方は、お知り合いなのですか?」
最もな問だ。父親が婚約者同士のお茶会に、客人を連れてやってきて、当の客人のことはまるでいないかのような態度で去って行ったのだ。偶然通りかかったようなことを言っていたが、伯爵邸の動線からしてあり得ない。不安そうな彼女の様子に、内心を悟られるような、失態を犯したことに気付いた。
「学院で同級だったけど、それほど親しくはないかな」
何でもないことのように、軽く答える。突っ込まれると、アマンダの事件に触れることになるかもしれない。それは避けたかったのだが、何かを感じ取ったかのように、ヴィアンカは二人が去っていった方を、いつまでも気にしていた。
「なんで、態々俺をあそこへ連れて行ったんですか」
二人から十分離れると、早速オスカーはシュタイナー伯爵を問い詰めた。あの場では結局、オスカーは一言も話していない。それどころか、セルマンとは視線すら合わなかった。おかげで、セルマンとヴィアンカ、二人の様子がたっぷり観察できたのだが。
長い付き合いがあるはずの二人の間には、まるでお互いの距離を測りかねているかのように、緊張感が漂っていた。アマンダの言った、蕩けるように見つめる甘さなどどこにもない。
セルマンの目は、醒めているとまではいかないがどこか凪いでいて、惚れ込んだ少女を見る目とはほど遠く、一方のヴィアンカも、恋するあまり命を脅かすほどの発作を繰り返したにしては、漸く婚約が調った恋しい相手を前に、さほど嬉しそうに見えない。どちらも望んでいない婚約なのが、丸わかりだ。
ヴィアンカは、確かに不思議な魅力のある少女だった。透き通るような白い肌に、淡い金髪。色素の薄さも相まって、どこか現実離れした儚さを感じさせた。それなのに、不安そうな様子とは裏腹に、決して俯いたりしなかった。時たま銀色に見えるブルーグレーの瞳も、臆することなくまっすぐにオスカーを見つめてきて、そこには意外なくらい強い意志が感じられた。
姉の婚約者に横恋慕して、奪い取った少女。自分のしたことに気付き、一か月近く寝込んだというだけあって、顔色も良くないが、全てを知っているオスカーに対して、同情を引く様子も、後悔を見せつける素振りもしない。
それは、既に起こってしまった以上、言い訳はしない。自分がしたことの責任は、きちんと取る――――そんな覚悟が感じられた。
さすが、あの姉の妹。潔いというか、太々しいというか。貴族令嬢にはあまり見られない気質だ。なんとなく、セルマンが魅かれた理由が理解できたような気がした。
意外にも、オスカーはヴィアンカが気に入ったようです。
セルマンといいオスカーといい、強い女性に惹かれる傾向にあるようです。
ヴィアンカ、弱々しいだけではありません。
図太い(図々しい)と見るか、潔いと見るか、意見が分かれるところですね。
女性には嫌われるタイプかもしれません。




