シュタイナー伯爵 オスカー 8
オスカー・ラドクリフ。そこそこの商会を運営する、裕福だが、歴史の浅い子爵家の次男。長男は既に結婚していて、本人はその気がないのか、華々しい恋愛遍歴を続けているが、問題を起こしたことは無い。数か月前に、とある伯爵家の跡取り娘と別れて以来、特定の相手は無し。それが、シュタイナー伯爵が把握している、オスカーの現在の状況だ。
初めは、事業提携の相手と考えていたのだが、調査していくうちに、アマンダの婚約者としてどうかと思うようになった。
何しろ、学生時代とは言え、アマンダは直接会って、彼に胡散臭い提案をしている。見方を変えればそうできるだけ、彼を信頼したということに他ならない。それは、かなり高く評価した、と言えるのではないか?
恋愛遍歴については、浮気や略奪愛ならいざ知らず、当事者同士が納得できればそれで善し、揉めないということは評価できる。何にせよ、過去よりは現在・未来の方がより重要。伯爵は、そう考えるタイプの人間だった。もちろん、本人同士の意見が最重要ではあるが、様子を見るくらいいいだろう。その程度の感覚だった。
ところが、今までそんな提案なら散々受けているはずの相手は、目に見えて狼狽えた。あっさり躱されて終了、というのが予想した流れだったのだが、意外なことに、アマンダに関心がないわけではないらしい。
「アマンダの相手くらい、君にはなんてことないだろう。何をそんなに考える必要がある?」
「お言葉ですが、彼女は、俺の知っているどんな女性とも違いますよ。正直どうしたらいいか、途方に暮れてます」
「なに、あの娘の思考回路は至極単純だ。おそらく誰よりも合理的、と言っていい」
「婚約解消のために、顔に一生消えない傷痕を作るのが合理的ですか」
「確実に目的を果たすと言う意味では。そうは思わないかね?」
「・・・・・・・ふつうは思いませんね」
そう、普通はそんなこと考えない、否、思いつかない、が正しいだろう。だが、セルマンの執着を見た後では、よほどのことがない限り、婚約解消は不可能とみて間違いない。たいていの人間なら、諦めるくらいには。
アマンダは、大抵の人間ではなかった、ということだ。
「少しは納得できる、ということかな」
「俺のような凡人には、荷が重いですよ」
あんな、トンデモ発想をする女と、同類にしないでくれ。内心そう思いながら、無難に返す。
「もともとこの事業は、カーライル卿がメインで、アマンダが協力する形をとる予定だった。ある程度の知識はあるから、そう心配することは無い」
「それなら、まあ、安心ですね」
「うまくいくことを祈っているよ」
やめてくれ。少なくとも、自分はあんなのを抑え込めるような器じゃあない。事業のことかアマンダとの未来のことか、よくわからない問答をしながら、オスカーは、本気でそう思った。




