シュタイナー伯爵 オスカー 6
長引いておりますが、ようやく次話で中庭へ行けそうです。
伯爵は、どういう思惑でオスカーを二人に合わせたのか、その理由が、オスカーの視点で語られる予定です。
現在、王国の物資輸送の手段は、馬車がメインだ。他国では鉄道馬車を登用しはじめ、輸送量の大さと移動の速さから重宝されているが、移動距離は、せいぜい領地内か近隣の領を結ぶくらい。そのため、王国内ではまだ普及していなかった。
それでも、人口が増えてきた今では、早く大量に物資を運べる鉄道馬車の魅力は大きい。折しも、国が主導で、大規模な導入を考えている、という噂を聞いて競売に参加したのだが、今の話では、どうも怪しい。
「君が破格に低く落札してくれたおかげで、初期投資が安く済んだ。単純に見れば、アシュフォード家よりはまし、程度かもしれないが、将来的には悪くない話ではないかな」
「うちが鉄鉱石の採掘と輸送、販売を担当、製鉄はお任せでいいのですか」
「構わない。製鉄費用には、技術開発の一部研究費も含んでいる」
「いきなり、蒸気機関での輸送をはじめるおつもりですか」
「まさか。最初は、うちからロンサール侯爵領を経由して、王都までの鉄道馬車を開設する予定だ。蒸気機関を実用化するには、検証すべきことが多いし、もっと強い鉄が必要だ」
初期投資が安い、か――――――なるほど。どうして、リオン商会が落札できたのか、納得だ。
アシュフォード家、アドラム男爵をはじめとする競合相手は、すべて自前での製鉄所を擁していた。いくら鉱山を安く手に入れても、値崩れを起こさないためには、販売価格を維持する必要がある。初期費用が安いほど、儲けは大きくなる。自明の理だ。
リオン商会は、製鉄所との繋がりを持たないから、必ずどこかと提携する必要がある。その段階で入り込んだ方が、高く落札するより、利が多いと判断したのだろう。
まさか、ここで蒸気機関などというモノを引っ提げて、シュタイナー伯爵が参戦してくるなど、誰も予想しなかった、ということだ。おそらく、国の上層部の思惑にあるのは、蒸気機関の構想かもしれない。
道理で、ロンサール侯爵家との婚約解消に、さほど頓着しないはずだ。もともと伯爵家には、さほど旨味のない婚約だった上、隣国との輸送路を考えた時点で、ほぼ利点はゼロ。それどころか、アマンダほどの後継が見込めなかった場合、侯爵家に良いとこ取りをされかねない。
アマンダの怪我から考えて、あり得ないとは思うが、婚約の解消も、計画のうちなのかと勘繰りたくもなる。見ようによっては、確かに❝運がいい❞のだろう。
オスカーは、密かに何度目かのため息を吐く。キツネどころか、獅子か虎だ。見かけは優男なのに、おっかないったらありゃしない。父娘揃って、詐欺もいいところだ。
「そんな重要な事業を、俺に任せていいんですか」
「研究というのは、金食い虫でね。結果が出るまでやたらと時間がかかるうえに、成功するのは半分くらい、役に立つのが半分、利益をもたらすのは、さらに1/5もあればいい方だ。虚栄を張るのが生業のような貴族には、全く以て向かない。おまけに研究者は変わり物が多くて、態度があまりよろしくない」
「だからと言って・・・・・・・」
オスカーは慌てた。これは、鉄道馬車の導入はともかく、蒸気機関の実用まで任されそうな流れじゃないか!?
「安心したまえ。アマンダに付ける補佐は、今までの経緯を熟知している」
期待している、と言われて、既に、断ると言う選択肢がないことに気付いた。
なんだかんだ言っても、鉱山は早いところ稼働させなければならないし、オスカー自身、どうせなら未来の夢は大きい方がいい、というタイプだ。工業部門は初めてだが、見たところ計画は無理ない範囲で収まっている。
だけど、今回は展望が大きすぎるうえ、アマンダというおまけまでついてきた。アマンダが巨大すぎて、どうしたらいいか困惑中だ。彼女の取扱説明書を要求したいくらいには。
「・・・・・・鋭意、努力します」
正直、仕事とはいえ、アマンダとどう関わったらいいのか、全くわからない。それでも、事業に没頭できれば何とかなるはず。そう考えたオスカーは、取り敢えず、最も無難な答えを返した。




