シュタイナー伯爵 オスカー 5
オスカーと伯爵のやりとりは、経済が絡むので、ちょっと面倒な話になっています。
本編とはあまり関係ないので、飛ばしてしまっても、さほど問題は無いのですが、二人の為人が、多少わかる構成となっているので、入れてみました。
オスカーは一通り目を通すと、初めに感じた違和感が確信に変わったので、遠慮なくシュタイナー伯爵に質問した。
「この投資とは、どこへの投資ですか?」
アシュフォード侯爵家の事業計画とは、利益配分がかなり違い、リオン商会の取り分がほぼ伯爵家側と変わらない。だから、破格の好条件と思ったのだが、よく見れば、実際にはそれほど増えているわけではなかった。
アシュフォード家の計画では、オスカー側とアシュフォード家側の利益配分は、アドラム男爵の分も加えると実に3倍近くの差があった。別に悪辣というわけでもない。製鉄所を擁するアシュフォード家が、より多くの利益を得るのは当然だからだ。ところが、この計画書では、その差分は、投資に廻されている。実に、オスカー側と伯爵家側、2人分に匹敵する額が投資に充てられているのだ。
投資によって得られる利益の配分はほぼ同額で、契約については、適宜見直しをするとはあるが、何しろ額が大きすぎる。共同経営なら、自分にも、然るべき説明が欲しいところだ。
「蒸気機関を知っているかね?」
「水蒸気を利用して、モノを動かすという、アレですか」
「概ね間違ってはいないが、利用するのは蒸気の圧だ。馬に代わって、輸送の足になり得る」
蒸気機関と輸送。また、突拍子もないことを言い出した。少なくとも、オスカーには予想外だ。
「将来的には、おそらく倍以上の輸送量が見込める。馬と違って、排泄や給餌の心配も、休憩の必要もない。燃料や排煙の問題があるが――――――」
「待ってください。以前、炭鉱を買収したのは・・・・・」
「知っていたのかね」
当然だ。炭鉱など、劣悪な環境に、過酷な労働条件で奴隷商売と言われ、貴族が手を出すべき事業ではない。当時経済界は、ちょっとした騒ぎになったのだ。
「心配しなくても、うちではまともな労働条件で雇っている。安全管理も怠りは無い。蒸気機関を使うには、大量の燃料と、より強い鋼鉄が必要だからね」
何でもないことのように言うが、環境の改善には、巨額の資金と労力を費やしたはずだ。
――――――これが、この人にとっての投資か。
オスカーは、おそらく王国でも一、二を争うと言われる大富豪である伯爵と、その執務室、ひいては屋敷全体を思い浮かべた。
大きく、堂々とした佇まいではあるが、決して華美ではない邸宅。そういえば目の前の伯爵も、アマンダも、必要以上に飾り立てたことはない。由緒ある伯爵家に相応しい品格を保ちつつも、贅沢はしない、が社交界での評価だった。
見栄を張るのが当然の貴族社会では、異質な存在。実は、困窮しているのではないか、などどいう噂が陰で囁かれているくらいだ。その理由が、はっきりと理解できた。
「蒸気機関を使えば、うちから隣国までの輸送が可能になる。開発を進めるためにも、実用化後のためにも、燃料と材料は自前で調達できた方がいい」
隣国という言葉に、引っ掛かりを覚えた。ひょっとして、やたらオスカーに親切なのは・・・・・・。
「その時は、ぜひ、子爵家にも協力してもらいたい」
「・・・・・・俺は、跡取りじゃありませんよ」
「君の事業に出資するくらいには、家族仲がいい。中継点になれば、領地も栄えて収益も増える。いずれは、物資だけでなく人を運んでもいいだろう。悪いことではないと思うが」
さも、受けて当然とばかりに宣う伯爵を見て、やっぱりそうか、と腑に落ちた。
少し長くなってしまいました。(;^_^A
次話でも、中庭に出られそうもありません。
すみませんが、もう少しお待ちくださいませ。




