シュタイナー伯爵 オスカー 3
「ところで、君が落札した鉱山だが、ラドクリフ家で新規事業を始めるのかね?」
「耳が早いですね」
「このくらいは当たり前だ。目端の利く連中は、既に動き出しているはずだが」
うわ、お見通しか。表面は何食わぬ顔をしながら、内心オスカーは頭を抱える。
鉄鉱石の豊富な鉱山が競売に掛けられ、オスカーは子爵家の名と資金、更には自分の資産まで投入して、見事に落札した。貴族が関わる事業は、服飾、宝飾、ワインや高級食材など、華やかで高価なイメージの物が多い反面、工業や土木関係は一段低く見られ、あまり手を出さない傾向にあるため、軽く見ていた。
ところが、最後まで競ったアドラム男爵が強気だったため、かなり予算オーバーしてしまい、すぐにどうこうというレベルではないが、リオン商会には結構な痛手となった。早いところ事業に結び付けなければ、維持するだけで費用がかかる分、いずれは手放す羽目になる。大損だ。
鉄鉱石、つまり鉄材を使った事業といえば、車輪やばね、武器が主力だが、製鉄技術が進めば、強い鋼鉄が大量に生産できるようになる。かなり研究が進んでいて、王国でも積極的な活用を計画中と聞き及んだオスカーは、自分の勘を信じて、賭けに出たのだ。
その勘は当たっていたらしく、すぐに、アシュフォード侯爵家からアドラム男爵を介した事業提携の申し出があった。男爵は、もともと実家のアシュフォード侯爵家の伝手を使って、単独での事業展開を考えていたのだろう、なかなか納得しかねる契約内容だったため、保留にしている。
リオン商会から鉄鉱石を買い、侯爵家傘下の精錬所に製鉄させて、アドラム男爵の販売経路に乗せるという内容なのだが、オスカーとしては、製鉄以外は自分のところで扱うことを考えていた。販売価格や収益配分も、若干足元を見られている感触があった。暴利とは言わないが、好意的でもないという、微妙なところだ。かといって他の事業家は、さらに足元を見た契約を提案してくる。せっかく競り落としたのに、資金不足で競り合った相手に儲けさせてやるのでは、本末転倒だ。
シュタイナー伯爵は、製鉄関係に手を出していないはずだけど、どんな提案をするつもりなのか。多少の無理難題は、聞かなきゃならないんだろうな。まあ、胡散臭い提案に乗った代償と思えば――――。
「君も知っていると思うが、私は複数の研究機関に出資している」
もちろん知っている。この伯爵は、旧態依然を好む傾向の貴族が多い中、やたらと革新的なのだ。新しもの好きと揶揄されることも多いが、そんなことは無い。実際、出資した研究機関のいくつかは、地味だが堅実に成果を上げていて、伯爵家の財源となっているのは知る人ぞ知る事実だ。
「その中で、鋼鉄の量産の目途が付きそうな機関がある」
いよいよ本題か。オスカーは、身構えた。うまく交渉できれば、鉄鉱石が商会の目玉になりえるが、伯爵がアマンダの件を利用して、ふっかけてくる可能性もある。
どちらにしろ、長いこと採掘を止めたままにはしておけない。鉱夫たちは、給料がもらえなければ他所へ行ってしまうし、採掘に必要な情報を持つ技術者たちも、生活がかかっている以上、長くは待たないだろう。せめて、アシュフォード侯爵家よりも条件が良ければ考えてもいい。
「満足のいく結果が出たら、本格的に新事業として乗り出すつもりだが、君のところから、鉄鉱石を買い入れようと考えている」
「ありがとうございます。条件を伺っても?」
「アシュフォード侯爵より、かなり好条件だ、とは言っておこう」
どうだね?と続けて、オスカーを見た目には、試すような光があった。
シュタイナー伯爵は、有言実行で定評がある。かなり、と言うからには、他では、まず出せないような条件なのだろう。だけど、うまい話にはウラがある、が常識だ。絶対に何かあるはず。
「・・・・・・それだけですか?」
「慎重なのは、いいことだ。なに、それほど警戒するような案件ではないから、安心したまえ」
全く安心できない顔つきでそう言った伯爵の、次の言葉を聞いたオスカーは、それこそ大声で、ウソだろ!?と叫び出すのを、辛うじて堪えた。




