シュタイナー伯爵 オスカー 2
伯爵編、もう少し続きます。
オスカーとのやり取りが終われば、伯爵夫妻の決着、ロンサール侯爵夫人とセルマン、と続きます。
「楽にしてくれたまえ」
同性でもつい見惚れるような端麗な容貌に、笑みを浮かべて、目の前の男性は、脚を組みなおした。そんな動作ひとつとっても、実に様になる。オスカーは、つい、自分の身なりを頭の中で総点検する。シュタイナー伯爵。社交の場で何回か目にしたことはあるが、これほど間近で実物にお目にかかろうとは、思ってもみなかった。
どちらかと言えば簡素な装いなのに、やたらと美々しく見えるのは、見事な銀髪のせいかもしれない。そんなどうでもいいことが気になるのは、ちょっとした現実逃避だ。何しろ、シュタイナー伯爵家と言えば、大貴族とまではいかないが、由緒ある名門。それも、権威より経済力がモノをいい始めた近年では、大貴族でさえ顔色を窺うことがあると言われる、押しも押されもしない実力者を前にしては、いかに物に動じないオスカーと言えど、些か腰が引ける。第一、楽にしろと言われてできるなら、誰だって勇者になれるってもんだ。そう思ったが、さすがに口には出せなかった。
何しろ、今回は分が悪い。オスカーは、アマンダの怪我に一役買っているし、そのせいで彼女の婚約は解消となった。伯爵が噂通りのキレ者なら、とうに真相はわかっているだろうし、大抵は弱い立場に全てを負わせて、なんなら賠償金までふっかけてくるのがセオリー。いくら内密に済ませたいといっても、今までお咎めがなかったのが不思議なくらいだ。
「アマンダが無理を言ったようで、申し訳なかった。もっと早く話をしたかったのだが、こちらも色々と確認することがあってね」
そんな言葉と共に、頭を下げられて、オスカーは心底吃驚した。
「い、いえ!うちの管理が杜撰なせいで、大変なことになって、どうお詫びしたらいいか・・・・・・!」
――――しまった。悪手だ。最後の最後まで非を認めない、が鉄則なのに、いくら動揺したからと言って、初っ端から詫びを入れるなんて、貴族どころか商売人の風上にも置けない大失態だ。だけど、まさか、経済界で❝無敗の王者❞と称されるシュタイナー伯爵に頭を下げられて、羽より軽い俺が平静でいられるもんか。
自嘲気味に考えて、開き直る。この人の旋毛なんて、滅多に見られるもんじゃない。これはこれで、貴重な経験だ、と。別に願ってないけど。ついでに、嫌な予感と、はるか東国の諺が頭をかすめる。
頭を下げるのはタダだけど、過分な謝罪は、大きな収穫を生み出すことがある。曰く、タダより高いモノはない――――逆の意味でも、十分通用するのでは?
オスカーの疑惑をよそに、
「誤魔化す必要はない。娘のことくらいは把握しているのでね」
「はあ・・・。ですが、その、傷痕が」
「アマンダは、伯爵家を継ぐことになったから、それは気にしてもらわなくて結構だ」
「それは、また思い切った――――」
それ以上何を言うべきか、見当もつかない。女伯爵。いないわけではないが、大抵は中継ぎだ。他に男子継承者がいて年少の場合、成人するまで母や姉が爵位を継ぐ。または、やがて夫を迎えて、その夫が継ぐのが一般的だが、今の言い方は、どう考えても後者だろう。
あのアマンダが、夫に爵位を譲る?なんだか、想像ができないというか、ずっと猫を被るならともかく、誰か、そんな大役が務まりそうな男が残っていたか?
「本人は、しばらく結婚は考えられないと言っているのでね。まずは事業の手伝いから始めるつもりらしい」
「まあ・・・確かに向いてそうですね」
本性を知ってしまえば、ロンサール侯爵夫人として社交界に君臨するより、丁々発止のやりとりの方がよほど似合っている。逆に言えば、あの性格で、よくロンサール侯爵夫人としてやっていこうなんて考えたもんだ。その努力には、頭が下がるが、同じくらいの不屈の精神をもってして、愛し合う恋人たちの前に、潔く撤退を決め込んだ。
いったい誰が、一番ダメージを受けたのか、神のみぞ知る、というところだろう。
結構な長編になってしまいましたが、お付き合いいただきましてありがとうございます!
もう少しで大詰めかな~というところです。
ご意見、ご感想お待ちしてます <m(__)m>




