シュタイナー伯爵 セルマンとアマンダ 9
二人の婚約時代のエピソードです。
ラブラブではないものの、それなりに仲良くやっています。
セルマンの父である現ロンサール侯爵は、長らく宰相の地位にあって、先進的な試みを進めてきた。侯爵夫人との結婚はその最たるものであり、二人三脚で事業を拡げ、シュタイナー伯爵家との提携によりその財政基盤を整えた、と言われている。その意欲は衰えることなく、やがては王国の経済を掌握し、彼主導のもとにますます王国は繁栄するのではないか、と噂されていた。
ただし、侯爵は王国有数の大貴族であり、その発想はノブレスオブリージュを基本としている。いかに先進的に見えようが、根底にあるのは、優れた者が経済を牽引し、国民を指導して、不遇なものを救済するという、ある種の選民思考に他ならない。彼が知賢を求めるのは貴族階級であり、民間の研究者に目を向けようとはしない。
一方、シュタイナー伯爵は、もう少し柔軟性のある思考回路の持ち主だった。伯爵は、知恵を求めるのに階級を気にしない。有望な研究機関とあれば、民間の名もない団体であっても接触を図り、出資することも厭わない。そして、アマンダは、伯爵の気質を大いに受け継ぎ、寄付についても独特な考えを持っていた。
「寄付?会社が?」
「そう。どう思う?」
「・・・やり方によるけれど、どこに寄付するの」
「この前の大雨で、だいぶ被害が出ただろう?」
「国から補助金が出るのよね」
「補助金が出なくても、パウエル子爵領ではかなりの被害が出てる」
「そこに寄付するの?名目は?」
「うちの会社に出身者がいるんだ」
「一人だけ?」
「賛同者が結構いてね」
そういうことか。パウエル子爵領は、東に急峻な山脈が走り、麓の村はたびたび土砂災害や洪水に見舞われている。さほど豊かでもない土地に、特に産業もない子爵家が、いつも対応に追われているというのは有名な話だった。しかも質の悪いことに、その災害は大きいとはいえ、国からの援助の対象になるには、今一つ及ばなかった。半端に大きな災害に、見舞われる回数がやたらと多い。そんな、貧乏くじのような条件の土地なのだ。
「一度前例を作ると毎回になるし、他も、となる可能性もある」
「なら、本人たちに寄付させればいいわ」
「会社の従業員に?ほとんど平民なのに?」
「匿名で寄付金を集めて、集まった金額の何倍かを合わせて、会社からの寄付とすればいいわ。本当に気持ちがあるなら、他人に頼っていないで、自分も出すべきよ」
「匿名で寄付か」
「誰にもわからなければ、少額でも寄付したいという人はいるでしょう。思ったより集まらなければ、会社の福利厚生に使えばいいわ。休憩の時の茶果代とか、大きな額だったら休憩所の設置とかね」
「従業員主体で考えるわけか」
悪くない。従業員の好意からの寄付に、会社が支援したという形ならば、せいぜい数十万フェロンでも問題は無い。会社の宣伝にも役立つだろう。
「やっぱり君は凄いよ、アマンダ。君となら、どんな困難も乗り越えられそうな気がする」
「大げさね」
「君は、どう?少しは、僕のことを認めてくれてるのかな」
「もちろん。いつも感謝してるわよ」
二人は微笑みあって、お互いの頬に親愛のキスを落とす。信頼と、友情と愛情の狭間のような感情を持ちながら、十代の前半は何事もなく過ぎようとしていた。婚約者として交際しながら、お互いに恋愛感情は生まれなかったため、今更そんな感情を持つことは無いだろう、それが二人の共通の認識だった。
やがて、アマンダの独特な着眼点に気付いたロンサール侯爵が、新たな計画を立て始め、侯爵夫人がそれについて独自の思惑を、シュタイナー伯爵が若干の危機感を覚え始めるまで、今少しの時間があった。




