シュタイナー伯爵 セルマンとアマンダ 6
「だから、しばらく会えないの」
「ふうん?会いたくないんだ」
「そんなわけないでしょ!」
自分が、アマンダに歓迎されていないことに気付いていたセルマンは、彼女の意図を正確に見抜き、普通なら詳しく知りたがるようなことは、一切聞かなかった。
一方、アマンダは、セルマンがあれこれ聞くようなら、傷ついたふりをして、さっさと追い払うつもり満々だったのに、当てが外れた。更に、妹に会いたくない、と決めつけられて、つい本音が出た。貴族令嬢としては、失格だ。
母からは、くれぐれも失礼のないように、とくぎを刺されていたのに。面倒だから、目立たないようにしていたのに、これでまた、ヴィアンカに会う時が遠のいた。この邪魔な奴、どうしてくれよう・・・・・・・。
令嬢らしからぬことを考えながら、これ以上セルマンのペースに乗せられないように、警戒心も露に、慎重に答える。
「私のせいで、あんなことになったから、二度とそんなことがないように、よ」
「あんなこと?」
ぼかした言い方で誤魔化そうとしたが、ダメだった。セルマンは、絶妙な角度に首を傾げて、不思議そうにアマンダを見つめる。わざとらしく見えない、ぎりぎりのライン。絶対計算してるに違いない。8才にして審美眼に優れたアマンダは、思わず、見惚れそうになった己を叱咤しながら、しぶしぶ答える。
「・・・・・・驚かせて、酷い発作を起こさせたこと」
「そんなにひどかった?」
「二度と、絶対に見たくないわ!」
本当は、うまく煙に巻いて誤魔化そうと思ったのに、不覚にも、声が上ずる。どうして、こんなに感情が刺激されるのだろう。いつもは、もっとうまくできるのに。あの時のヴィアンカを思い出してしまい、ぞっとする。二度と、あんな姿は見たくない。絶対に、発作なんて起こさせない。そのためなら、何だってする。あの時、アマンダは、そう心に誓った。
青ざめた顔をして、体を震わせるアマンダを見たセルマンは、そっと彼女の手に触れる。体温まで下がってしまったのか、血の気の失せた手は、びっくりするほど冷たい。
この時、セルマンは、無自覚ながら決意した。アマンダが二度と見たくないと、それほど願うのなら、自分は、そのために最大限の努力をしよう、と。
「だから、驚かせないようになるまで、会わないってこと?いつまで?」
ぐっと詰まったアマンダを見て、あ、やっぱり自分でも、しばらく無理だと思ってるんだ、とセルマンは理解する。自覚があって、何よりだ。
「僕が協力するよ」
「えっ・・・?」
「要するに、静かに穏やかに、優しくするってことだよね。そういうの、得意だから」
アマンダは、目の前で笑う、黒髪の男の子を見つめる。紫がかった、深い青色の瞳が珍しい。改めて見ると、結構な美少年だ。キラキラ輝く王子様ではないけれど、少し硬質な、陰のある端正な容姿の美少年―――――ふと、二年も会っていない、妹の姿が思い浮かぶ。二人並んだら、たいそう見栄えがするだろう。美しいお人形のカップルだ。
―――――見てみたい―――――
セルマンは、アマンダが、よもや彼と妹のカップリングに思いを馳せているとは、欠片も思わず、自分が彼女の役に立つことを、とさりげなくアピールする。
悪くないかも・・・・・・?
確かに、セルマンは、人付き合いが得意そうだ。母でさえ匙を投げる自分に、うまく気を引きながら、とうとう、交流をOKさせるくらいには。それに、彼の言葉はわかりやすい、ような気がする。協力してもらえば、ヴィアンカに会える日が、早くなるような予感がした。
それに、交流を続ければ、二 人が並んだ姿を、たっぷりと鑑賞できるかもしれない―――――。




