シュタイナー伯爵 セルマンとアマンダ 3
アマンダは、幼い頃から、令嬢らしくない子供だった。どれほど母や乳母が注意しても、そこらじゅうを走り回る、使用人に交ざって掃除や洗濯の真似事をする、果ては昆虫を捕ってきて、部屋の中で飼おうとする。少し大きくなってからは、家庭教師から隠れて、学習をさぼる等、落ち着きがないこと甚だしい。
そのため、生まれた時から、身体も心臓も弱い妹を驚かせて、万一のことがあっては大変、と二人は屋敷の端と端に離されて、お互いの存在さえ知らされなかった。
それでも、やたら敏く、好奇心旺盛なアマンダは、母や使用人たちの様子から、とうとう妹の部屋を突き止めた。
そこにいたのは、透き通るような肌に、ふわふわの淡い金髪、大きなブルーグレーの瞳の、小さな女の子。あまりの美しさに、母が買ってくれた、ビスクドールが動き出したのかと思ったくらいの衝撃を受けた。
知らされていないので、お互い姉妹とは認識しなかったが、名前を教え合って、少しの時間、お喋りをした。母や乳母から、足を踏み入れることを禁止されていた一画だったため、乳姉妹のエレナにも内緒で、こっそりと探検して見つけた部屋の、儚くて奇麗なヴィアンカ。
それから、母や庭教師にきつく注意されるたびに、部屋へ通った。ヴィアンカは大抵一人でいたし、お人形のようにきれいな子と他愛のない話をするのは、アマンダにとって、心が癒される時間だった。
ある日、カーテシーの練習をさぼって、ひどく叱責されたアマンダは、妹の部屋に逃げ込んだ。軽い気持ちで愚痴っていたら、いろんな事が出来て、羨ましい、と言われ、ちょっとカチン、ときた。
なぜなら、アマンダは、いつも長時間拘束されて、したくもないことを強要されるのに、ヴィアンカは一人で自由に過ごして、母からも大切にされているから。自分は、いつも注意ばかり受けて、あれしてはダメ、これもダメと禁止されるのに。ずるい、そう思った。
その時、アマンダは5才。カーテシーを習う年頃ではあるが、深く物事を考えず、自分の思い通りに過ごしてきた。こらえ性のない彼女には、なぜ身体に負担のかかる体勢を、わざわざとらなくてはならないのか、全く理解できなかった。だから、軽い気持ちで言ってみた。
「それなら、あなたもやってみる?」
「教えてくれるの!?」
いつも寝たきりで、ベッドから起き上がることくらいしかできない、絵本を読むことすら疲れるから、と禁止されているヴィアンカにとって、その提案は、抗えない魅力を持っていた。このところ、体調がよかったから、そう思ったヴィアンカは、アマンダに教えてくれるようにねだり、それから時間にして十数分、二人は、アマンダの指導の下、楽しくカーテシーの練習をしたのだった。
アマンダは、二人で練習する楽しさに夢中で、なぜ、妹が隔離されているのか、いつもベッドにいるのか、自分でさえ大変なカーテシーの練習が、妹の身体にどんな影響を与えるのか、全く考えていなかった。
その日、何故か夕方から、ドクターが来訪し、屋敷の中が落ち着かなかった。更に夕食は、部屋でエレナと二人でとるように言われ、両親とも会えず、理由を聞いても教えてもらえない。アマンダが、不安な気持ちで過ごしていると、乳母のメリッサが部屋に来て、エレナを部屋から出すと、今日の午後、ヴィアンカと何をして過ごしたのか聞いてきた。
乳母の、硬い表情。突然来たドクター、ますます騒がしくなる屋敷。アマンダの脳裏に、ヴィアンカのことが閃いた。
あの子に何かあったんだ―――――!
そう考える間もなく、部屋から飛び出していた。




