シュタイナー伯爵 セルマンとアマンダ 2
「君には煩くても、必要な事だと思っているんじゃないの?」
彼女は、煩くないから、と言った。花が煩いわけがない。今、パーティーに集う人々も、彼女に係わってはいない。なら、彼女にとって、煩いのは誰なのか。そう考えれば、答えは自ずと明らか。
花や庭園を見るふりをして、目立たなければ、後で母に注意されなくて済む、という意味なのだろう。そして、セルマンにつまらない、と言い放った理由は、目立ちたくないから、放っておいてくれ、と牽制したのだ。
「それに、こういう場で誰とも話をしないのは、注意される元だよ。少しは、合わせた方がいいと思わない?
言外に、僕が付き合うよ、の意味を込めると、アマンダは、少し考えて頷いた。どうやら、多少人の目を引いても、後からお小言をもらうよりはまし、と判断したらしい。彼女の気を引くことには成功。第一関門は突破したが、それからがまた一苦労だ。
何しろ、相手は、本当は会話などしたくない、ほっといてほしい。なんなら、ただ隣に座って、時間が経ったら、速やかに立ち去ってほしいオーラがダダ漏れなのだ。しかもこっちは、何とかして彼女を見極めなければならない、ときている。だから、当たり障りのない会話の後に、少し気に障るような話題を選んだ。怒った時にこそ、その人の本質が顕れるということを、既にセルマンは知っていた。
「シュタイナー伯爵夫人が、そんなに煩い人だとは知らなかった」
「煩い、というか、よくわからないことを言うから」
母が嫌いなわけではなさそうだ、と踏んだセルマンが、わざとネガティブなワードをぶつけてみると、思った通り、本音が帰ってきた。
さらに注意深く探っていくと、生粋の貴族女性である夫人は、注意する時、やんわりとした言葉を選ぶ。これは、貴族家庭や、上流階級の令嬢の家庭教師に多い。強い言葉を忌避する傾向にある社交界では、令嬢に相応しくない言葉は、幼少期に耳に入れず、分別が付く頃から、好ましくない言葉のカテゴリとして、慣らしていく。大抵はうまくいくが、合わない場合もあり、どうやらアマンダは合わない方らしい。
合わない理由は様々で、悪い影響を受けやすい、周囲の雰囲気に敏感で、隠しても気づいてしまう、何故ダメなのか、理由がわからなければ従えない等が主だ。セルマンは、そこまでの知識があったわけではないが、アマンダの、何故注意されるのかがわからない、という主張は汲み取れた。彼女は、はっきりと言われないと、理解できないタイプなのだ。
ついでにもう一つ聞いてみる。
「君は、シュタイナー伯爵夫人にあまり似ていないね。伯爵様に似てるのかな?」
そんなわけはない。伯爵夫妻は、金髪に若草色の瞳の夫人、アッシュブロンドにブルーグレーの瞳を持つ伯爵と、社交界でも評判の、豪奢な美男美女。だけど、目の前の少女は、艶やかではあるが、平凡な栗色の髪に、ややくすんだ緑色の瞳。それなりに整ってはいるが、どうにも地味で、平凡に見えてしまうタイプなのだ。
セルマンは、子供とはいえ、かなりデリケートな話題を振った自覚があったのだが。
「あら、お父さまとお母さまに似ているのは、妹よ。私は、おばあさまに似ているの」
アマンダは、あっけらかんと言い放つと、次には、如何に妹が両親に似て美しいかを、言葉を尽くして語り始めたのだ。どうやら、彼女は、劣等感や嫉妬などの感情とは、縁がないらしい。
負の感情を抱かない、というのは、セルマンにとっては、大変好ましいことだった。その条件や外見から、やたらとモテるセルマンは、実は、かなり早いうちから、少女たちのマウンティング合戦や、ネガティブキャンペーンを見てきた。その母親たちも然りで、その争いは、時に夫の足を引っ張りかねない、危険なものだという認識がある。
だから、純粋に妹自慢をするアマンダの言葉を、何気なく聞いていたら――――セルマンは、少年の常として、美少女は好きだが、別に面食いではなかった――――彼女は、聞き逃せない爆弾発言を投下したのだ。
「妹は病弱で、心臓が悪いからダメだと言われていたのに、私、あの子に無理させて、もう少しで死んでしまうところだったの」




