シュタイナー伯爵 セルマン 4
セルマン視点のアマンダとオスカーのお茶会です。
というか、二人の会話を聞いた、セルマンの回想です。
なんだか、こっちの方が本編のような気がしてきました。(笑)
「今は、こちらの西庭園が見頃です。中庭へは、あの小路から行けますので、どうぞ、ごゆっくり」
シュタイナー家のメイドは、対面に見える小路を示すと、丁寧なお辞儀をしてから、踵を返した。
セルマンとアマンダの婚約解消の経緯を知っているだろうに、全く以前と態度が変わらないことに、密かに感心する。当然のことだが、その当然を行動に移すのは、案外困難なのだ。
西庭園は、自然の雑木林にいるような錯覚を起こさせる、変わった造りだった。人工的なところは一切感じさせない。木々の間から光の模様を描く木漏れ日、土と同じ色味の煉瓦を使った細い道に、さりげなく咲いている花々。メイドが示した小路は、すぐ近くに見えたのに、曲がりくねった道のせいでなかなか辿り着かない。
庭が見ごろだ、と言われたが、おそらく見せたいのは、別の物だ。そう思いつつ歩いていると、果たして、声が聞こえてきた。この半年、せめて、声だけでも聞きたい、話がしたいと願った、柔らかいアルトの声―――――と、もう一つ、やや低めの、若干砕けた響きの、バリトンボイス。
シュタイナー伯爵が見せたかったのは、これか。アマンダの新しい婚約者、いや、仕事のパートナーを、それとなく紹介するつもりだったのか?それもおかしな話だが、それ以外、考えようがない。
しかし、聞こえてきた話の内容に、図らずも、立ち聞きをしてしまうことになる。二人の会話は、そのくらいの衝撃をセルマンに齎した。
あの日の事件は、自作自演だった、と彼女は言った。今、共にいる男と謀ったおかげで、婚約を解消できたのだ、と。そう話をするアマンダは、彼といる時より、ずっと楽しそうに見えた。
だが、それよりもっと衝撃だったのは―――――。
「あの二人、相思相愛なのよ」
「一目惚れよ。ロマンチックよねえ」
「私は、婚約者と妹が、恋に落ちる瞬間を、この目で見ていたの」
「妹を、眩しいものを見るように、愛しくて仕方ないように見るのよ」
まさか、気づかれていたとは思わなかった。目さえ合わさないように、自分からは話しかけないように――――あれほど念入りに隠してきたのに。
アマンダが気付いていると知っていたら、ヴィアンカの付き添いどころか、三人でのお茶会だって、それとなく断っていた。
アマンダが連れてくるから、三人でお茶会を続けた。妹を大切にしているアマンダのために、発作を収める協力をした。彼女だって、それを望んでいたはず―――――そこまで考えて、はっと思い当たる。
伯爵夫人に、セルマンだけ付き添ってほしい、と懇願されたあの日。肯かないセルマンに、業を煮やした夫人は、アマンダに訊いた。
アマンダ、貴女の考えは、どうかしら?
彼女はこう言った。
―――――発作を抑えるのに、必要なのですね――――
セルマンの、君は、それでいいのか、という問いに対しては
―――――ロンサール様のお考えに任せます―――――
そう答えたのだ。決して彼女が、望んだわけではない。
では、三人でのお茶会は、誰が望んだのだろう―――――?
何年か前の、アマンダの言葉が蘇る。
「私たち、距離が近すぎるわ。貴方は、この国有数の大貴族の嫡男だもの。もっと品位を保つためにも、名前で呼び合うのは止めましょう」
セルマンはあの時、今まで通りで構わない、と言った。仲が良くて、品位が損なわれることなどない、と。それでも引かなかったから、呼び捨てでなければいいだろう、と提案した。その返事は――――。
「あら、ダメよ。せっかくなんですもの、この際、徹底的にやるべきよ。それに、その方が、結婚してから新鮮でしょう?」
かなり強い主張に、違和感を感じたが、彼女が突飛なことを言い出すのは、珍しくない。納得はいかなかったが、女性は結婚に夢を持っている、と聞いていたので、そういうものか、と考え、了解した。不仲説が囁かれ、アマンダがセルマンに相応しくない、とまで言われるようになって、元に戻そうとしたが、とうとう、彼女は肯かなかった。
あれは、いつのことだった―――――?
あの時から、自分たちの間に、奇妙な距離を感じるようになった。アマンダは、その方が、後が楽しみでいい、と言うばかりで、昔のような親密さはなくなり、その後も―――――
「理想の侯爵夫人を目指しているのよ」
何を言っても、それしか返ってこなくなった。優しく微笑み、いかなる時も感情を乱さない。美しい所作、ウィットに富みながらも、上品な会話。確かに、それは理想的な侯爵夫人だ。母のような。だけど、それは表向き。家族には、もっと気さくに接するし、感情だってそれほど隠さない。だから、提案した。
「二人の時は、そこまでしなくても、いいだろう?」
と。本心だった。理想は、あくまで理想だ。表面を取り繕うことは必要。だけど、表があれば、裏があって当然で、その裏を見せる相手は、お互いでありたかったから。
「まだダメよ。だって、気を抜いたらほかのところでも出てしまうわ。もっと完璧に出来たらね」
その時を楽しみにしていて
そう言って笑ったアマンダは、以前のままだったから、そういうものか、と油断した。
彼女は、あの頃から、婚約者に、メッセージを送っていたのに。愚かな男は、恋に目が眩んで見逃したのだ。
恋は、盲目。セルマンは、確かにやらかしましたが、結構不憫な面もありますね。
アマンダ、愛してる割に冷静です。
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