シュタイナー伯爵 セルマン 3
セルマンと伯爵、最終話です。
結果はなんというか・・・結構立ち直るのが厳しいかも? です。
「彼女なら、どんな事業でも成功するでしょうね。頼もしい後継者で、羨ましい限りです」
「まあ、何といっても女性なのでね。君さえ良ければ、力になってもらえると、有難い」
「もちろんです」
愛想よく会話しながらも、そんな日は、来ないだろうと、セルマンは考えている。もちろん、伯爵も承知の上だ。この会話は、多少緊密さはなくなるが、両家の繋がりが絶たれるわけではないことの、確認作業にすぎない。
セルマンは、シュタイナー伯爵夫人に懇願された日を、思い返した。
最初は、伯爵の言葉に従い、二人で付き添っていたのだ。それが、アマンダの姿を見ると、謝罪を繰り返すヴィアンカを診た主治医が、難色を示したのが始まりだった。ストレスを与えると、発作がひどくなり、収まるのに時間がかかる――――その一言で、セルマンだけが付き添うようになった。
確かに、発作を収めるのには効果的だったが、代わりに、回数が増えた。回数が増えれば、アマンダに告げ難くなる。伯爵夫人の、後で了解をとるという提案を受け入れてしまい、気づいた時には、アマンダと二人で会う時はほとんど呼び出され、彼女には内緒に、が暗黙の了解になっていた。
ヴィアンカに初めて会った時、陽に透けて輝く淡い金髪と、光を取り込んで銀色に輝くブルーグレーの瞳に、目を奪われた。彼女の周りは、透明な光に満ちているようで、一瞬、ここは婚約者とのお茶会で、彼女はその妹なのだ、ということさえ忘れて見つめ合ったのを憶えている。それからは、会う度、その姿を目が追ってしまい、慌てて逸らすことの繰り返し。
―――――この感情は、決して誰にも覚られるわけにはいかない―――――
それだけを考えて、必死に彼女から眼を逸らし続けた。
そんな危うい日々の中、アマンダを交えずに、ヴィアンカに付き添うなど、無謀以外の何物でもない。だから、拒否した。当然だ。彼が今まで目指してきたのは、アマンダとの未来であって、一目惚れした少女との恋ではない。どれほど懇願されようと、断るべきだったのだ。
真っ青な顔で、呼吸困難を引き起こし、息も絶え絶えに自分の名を呼ぶ少女。手を握れば強く握り返し、名前を呼んで目を合わせれば、朦朧とした瞳に自分の顔が映りこんで、生気が蘇る。やがて、呼吸が緩やかになって落ち着くと、うるんだ瞳で見上げてきて、恥ずかしそうに礼を言われた。
すぐにアマンダの元に戻ろうにも、大抵は一時間以上が経過していて、夫人が済まなそうに、時間がかかるからお開きにする旨伝えた、と言ってくる。
そんなことを繰り返して、発作が心因性のものだと知った時には、既に後戻りできないほど、ヴィアンカは、セルマンに依存してしまっていた。
今から思えば、アマンダは気づいていたから、あの日、妹の元に駆けつける彼の姿を、何も言わずに見送ったのだ。当然だ。彼が見込んだほどの婚約者が、同じ屋敷の出来事に気付かないほど、鈍いわけがない。
子供の頃、唯一無二と定めた婚約者。恋愛は無理そうだったが、彼女となら、セルマンの描く未来を実現することができる。それだけの何か――――優秀なだけでなく、事業家としての目、勘の良さ、天性の運の良さ――――そう言ったものを間違いなく彼女は持っていた。それこそ、セルマンよりも、彼女の父よりも。それをわかっているからこそ、伯爵は女性にもかかわらず、後継者に据えたのだ。
「いつから、彼女に継がせようとお考えだったんですか?」
一連の出来事は、そのための計画だったのか、と思えるほどの成り行きに、思わず愚かな質問が口から零れた。しまった、と思った時には、もう遅い。
「アマンダが、手伝いたいと言ってきたのは、今朝のことだよ」
「・・・・・・」
「あの娘は、あの日まで、侯爵夫人になるために努力してきた。君も知っているだろう」
伯爵の強い目に、馬鹿なことを訊いた、と後悔した。それほど、自分は、ショックを受けているのだ、と自覚して、暗澹たる気持ちになる。
その整いすぎた容貌から冷たい印象を受けるが、シュタイナー伯爵は、決して目的のためなら、手段を選ばないようなタイプではない。事業で乗っ取りなどすることもあるが、大抵は、経営状態が悪い、仕事環境が劣悪等の問題を抱えている場合だ。そうでなければ、相手方が納得するまで、丁寧に交渉する。
第一、今回のことは、完全にセルマンの自業自得で、アマンダは、顔に傷まで負っているのだ。父として、伯爵の方こそ、セルマンを責めたいくらいだろう。
恥じ入るセルマンに、まあいい、と鷹揚に声をかけた伯爵は、立ち上がって窓に近づくと、彼に背を向けた。
「ヴィアンカは、君とアマンダには、誰にも入り込めないほどの絆があった、と信じている」
背を向けたままで、話を続ける。
「その絆が、偽りだったと知ったら、酷く傷つくだろう」
だから、と言いながら振り向く。
「今度こそ、信頼を裏切らないでくれたまえ」
何でもないことのようにそう告げた後、思い出したように、庭園が見ごろだから、案内させよう、とメイドを呼び、そのまま振り向かずに出て行った。
当然ながら、セルマン惨敗です。まあ、年季も違うし、結果が悪すぎたし(80%くらいは、アマンダのせいかも。あんなこと、誰もしないでしょ!って感じですよね~)、引き際間違ったし、情弱だし。アマンダのように、ドクターに確認していれば、ねえ。伯爵夫人も、罪な母です。
だけど、セルマン、自分の決断なので、恨んだりしません!己の甘さを認識した以上、同じ失敗はしない、がモットーなので、成長することでしょう。
そして、伯爵は、さすがアマンダ、運がいい!くらい考えていそうです。(顔の傷さえなければ・・・)
だって、セルマンの理想が叶ったら、ロンサール帝国が誕生しそうで、そんなこと全く望んでいないアマンダとの関係は、冷え切った挙句、憎み合って破綻一直線ってかんじですもんねえ・・・。
時代の変換期に、経済握ったら、国の乗っ取りができそうですね




