シュタイナー伯爵 セルマン 1
いよいよ、セルマン視点のお話です。
作者としては、彼はそれほどヘタレではないつもりなのですが、なかなか厳しいご意見が多くて、ちょっと不憫に思っています。
こういうタイプは、流行らないのでしょうか 。
まあ、別に好み、というわけでもないのですが・・・ (;^_^A
「相変わらず、伯爵家のシェフは、素晴らしいですね」
シェフが腕を振るった料理を堪能し、セルマンが称賛を贈る。ロンサール侯爵家のシェフも、遜色ない見事な腕前なのだが、そこは上流階級の約束事のようなものだ。
「ああ、今日の料理は、ヴィアンカの好みに合わせたらしい。どうも、近頃塞ぎがちなようでね」
「そうでしたか」
セルマンの口調に、それとわからないほどの警戒が滲む。今、この時にヴィアンカの話を出すのが、偶然なわけがない。折しも、食事は終盤に差し掛かり、後は食後のお茶の時間。先ほど伯爵が、給仕の者に、お茶を用意したら下がるように指示していたのに、気づかないほど迂闊ではない。
これから先は、難易度の高い会話になるだろう。実際、もっと前に追及されると覚悟していたのに、今まで何事もなかったのが、不思議なくらいだ。伯爵には、セルマンを糾弾する権利がある。彼も、逃げや、嘘を吐くつもりはなかった。
気を引き締めてかからねばならない相手なのに、己の甘さが引き起こしたこととはいえ、いや、だからこそ、どうにも気が沈むのを止められなかった。
「ヴィアンカと言えば、少し、君に確認したいことがあるんだが」
「何なりとどうぞ」
お互いに白々しいのは百も承知の上で、表面は至極和やかに会話を続ける。
「あの日、アマンダと出かけたはずの君が、ヴィアンカの傍にいた、と聞いて、腑に落ちなくてね」
いきなり核心を突いた質問に、セルマンの手が、ピクリ、と動いた。しかし、顔に出すような失態は犯さず、至ってさりげなく答える。
「そうですね。あの日は、ヴィアンカ嬢が、大きな発作を起こし、先日薬で抑えたばかりなので、これ以上は身体がもたない、伯爵夫人がひどく取り乱されている、と従僕が早馬で伝えてきたので・・・」
はっきりとは言わないが、通常ならば徒歩か馬車を使う連絡に、早馬が駆けつけたというだけで、どれほどの非常事態か、想像がつこうというものだ。まして、ヴィアンカの状態によっては、セルマンが呼び出されることもある、というのは伯爵も承知していた。
明言を避けて、腹の探り合いをしながら、必要とあれば思考を誘導する。社交界のみならず、実業家同士なら基本中の基本。後ろ暗いことがあるなら、尚更だ。
「早い時間だったので、アマンダ嬢は従僕を護衛に街を散策すると言って、そこで別れました。まさか、あんなことになるとは・・・すべて、私の責任です」
そう言って、セルマンは、深く頭を下げた。事実、街に残ると言ったのはアマンダで、従僕を護衛にするから大丈夫だ、と主張したのも彼女だ。それだけ聞けば、セルマンが頭を下げる道理はない。
しかし、今日である程度の方針を決定するつもりの伯爵は、そんなことでは納得しなかった。
「なるほど。確かに、妻は、厚かましくもヴィアンカが発作を起こした時、君に付き添ってもらうように頼み、君はそれを了承してくれた。感謝している」
伯爵は、セルマンに感謝の意を伝えたが、妻は、に力を込めることも忘れなかった。その意図は明らかで、ヴィアンカに付き添うことを頼んだのは伯爵夫人で、渋る伯爵を、夫人とセルマン、アマンダの三人で説得したから。伯爵は、初めから今に至るまで、決して納得したわけではない、と意思表示をしたのだ。
そして、二人が説得した理由は、伯爵夫人が、発作がひどく見ていられない、抑える薬は、頻繁に使うと身体によくない、ヴィアンカが、二人の名前を呼ぶから、と言って涙ながらに頼んできたからだった。
「私は、その時、必ず二人で、アマンダが了解した時に限り、常識の範囲内で、と条件を出したと記憶しているが、間違いないかね?」
「・・・・・・その通りです」
「その条件が守られたのか、確認したい。答えてくれないか」
伯爵の言葉は容赦がないが、セルマンは落ち着いて答える。
「もちろん。できる限りのことをしたつもりです」
嘘や逃げはしないとはいえ、全てを詳らかにするには、どうしても、シュタイナー伯爵夫人に言及する必要がある。だが、彼はそれを善しとしなかった。いかに伯爵夫人とのやり取りの中で事態が進んでいったとはいえ、どうやっても、言い訳にしかならない話を語りたくはない。
伯爵夫人は、母親としてセルマンに頼み、彼は受けた。結果がどうであろうと、それは、間違いなく彼の決断によるものなのだから。
セルマン、伯爵の鋭い追及にもめげず、全て自分のせいで押し通すつもりです。
アマンダがケガをし、令嬢としては欠陥と見なされる以上、見苦しく言い訳はしない、が彼の矜持なのです。
伯爵夫人のことは、もうわかっているんだろう、が本音と言うところでしょうか。
伯爵も、あれこれ言い訳されたら、ちょっとがっかりしてしまいそうですね。何といっても、セルマンのことは評価しているので。
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