シュタイナー伯爵 エレナとアマンダ 2
再び、アマンダ視点のお話です。
伯爵夫人の話も、少し出てきます。
今回は、アマンダの腹黒さが、少し出ています。というか、これまでのことを考えたら、これくらい当たり前、かもしれませんね。
そういえば、と他にも気になっていたことがあるアマンダは、話題を変える。
「お父さまは、メリッサを呼ぶおつもりなの?」
「はい。相応の待遇で迎える、と伝えてほしいそうです」
エレナの母、メリッサは、義母の体調悪化により、家に戻った。その義母も、数年前に身罷っている。父は、彼女にその気があれば、相応の待遇で迎えると言ったらしい。
長年、お嬢様の乳母を務めた、当主の乳姉弟に見合う待遇の地位など、そうありはしない。それは、つまり、近々相応の立場が空く、ということに他ならない。おそらく空くのは、二人分の地位だろうとアマンダは見ている。もう一人は、誰を充てる気なのか。
事件から半年。ようやく落ち着いて、皆の気が緩みだした頃に怒涛の如く畳みかけ、一気呵成に片をつける。父が動き出した以上、数日のうちに、結果が出るに違いない。
――――――寛大な意見は、変わらないのか―――――
それは、父からアマンダへの、最後の意思確認。すべてを知っても、君の意思は変わらないのか、という問いかけだ。
今までの流れを、父からの視点で整理すれば、
1.セルマンが、ヴィアンカの発作を収めるために会った回数は、せいぜい年に4、5回、しかも、アマンダが立ち会っている、と思っていた。
2.そのたびに、負担をかけたと、アマンダに贈り物をしている。
3.結構前から、ヴィアンカを領地で静養させようとしていたが、母が納得しなかった。
ということになる。
道理で、贈り物の話の反応が、尋常でなかったはずだ。おかげで、何がまずかったのかと、こっちまで気が気じゃなかった。
そして、このタイミングで、上級使用人の入替を考えているとしたら、❝寛大な意見❞の対象が誰なのか、答えは明らか。
「それはダメよ、アマンダ」「その考え方はよくないわ」「もう少し、周りを見ましょう」それが口癖だった母は、セルマンとの婚約が決まり、アマンダが、変化を見せる様子に安堵していた。それが、いつからか、「そんなに気負わなくていいのよ」「あまり無理をしては、よくないわ」と心配することが多くなった。
皆が、ヴィアンカに対するセルマンの愛情に、気付かなかったわけではない。母だけは、セルマンの想いを知っていた。なぜなら、アマンダが、真っ先に婚約解消を仄めかした相手は母で、その時にさりげなく告げているのだから。
そして、アマンダが、セルマンへの愛を自覚したのは、ヴィアンカを、蕩けるような目で見る婚約者に気付いた時。それまで、欠片も意識したことのなかった愛が、いきなり実態を伴った瞬間だった。
それから、少しずつ募ってきた想い。私を、あの目で見つめてほしい。決して叶わない願いと、どこかでわかっていたのに。
あの時から、愛されたくて、さらに必死で努力をするアマンダと、そんな彼女を、不安気な眼差しで見る母。そこかしこに破綻の前兆はあったのに、気づかないふりをしてきた。努力すれば、愛される。そんな幻想を抱いていたから。
でも、それは、アマンダが叩き壊した。他の方法が思いつかなかったのだが、乱暴な行動は、乱暴な結末を迎えようとしている。
母が何を考えていたのか、正直なところ、よくわからない。
父に愛され、甘やかされてきた母と、幼い頃から、セルマンの、❝理想のロンサール侯爵婦人❞になるべく研鑽を積んできたアマンダでは、見る世界が違いすぎるのだ。
母が、広大な領地を管理し、王宮の高官と実業家を兼ねるロンサール侯爵と、その夫人の担う重責を理解していたとは、とても思えない。まして、セルマンが望んだのは、現状維持ではなくさらなる繁栄で、アマンダとヴィアンカでは、あまりにも違いすぎた。シュタイナー家の娘ならば、誰でもいいわけではない。そして、ヴィアンカは、アマンダに成り替わりたい等と、望んではいなかった。アマンダは、それら全てをわかっていて、ヴィアンカに押し付けたのだ。
どちらにしろ、もう、後戻りはできない。アマンダによって、既に❝賽は投げられた❞のだ。ならば、少しでも穏便な結末を望むのなら、今が最後のチャンスで、動けるのは彼女しかいない。
アマンダは、急いでメッセージカードを認めて、エレナに渡した。
「これを、今すぐ、お父さまに渡してきて」
「今すぐ、ですか?」
「そう。急いで」
父が、ロンサール様に会う前に。私の意思が伝わるように。
キツネは、彼に、何を伝えるだろう。二人の愛を後押しするのか、それとも――――――?
カードには、たった一言。
多くの言葉は必要ない。口にすればそれだけだけど、黙っていれば、解釈は、無限大。頭のいい父は、沈黙に隠された、言外の言葉を勝手に解釈してくれる。
敢えて無視する場合もあるが、アマンダに対して、そんなことはしない。あの父は、存外、家族には甘いのだ。
沈黙は金なり。砕けて言うなら、黙っていれば、気になる、そういうこと。百の言葉を費やすより、よほど効率がいい。
知らず知らずのうちに、唇が弧を描く。
―――――お父さま。貴方の家族への愛を――――最大限の譲歩を、傷ついた私のために、見せてくださいませ――――――
たとえ、それが、誰かにとって、最良の結果を齎すとは限らなくても。
これは、父への挑戦だ。どんな答えを出してくるのか。
アマンダは、久しぶりに、気分が高揚してくるのを感じながら、エレナの後ろ姿を見送った。
伯爵夫人、少し問題ありですが、基本的には、良い母のつもりで書いています。
この話、実は、それほどの悪人も善人もいなくて、普通の人、若しくは、普通より理性が勝っている人、を基本に書いている(つもり)です。
何といっても、それなりに続いている家柄の貴族、そうでなくては、繁栄できないはず、と作者は思い込んでいるのです。
独断と偏見で、すみません(;^_^A
そのせいで、ちょっと(?)ばかりモヤモヤする展開になってしまって・・・。
よろじかったら、感想をいただけると嬉しいです。




