シュタイナー伯爵 エレナとアマンダ
今回、伯爵は出てきません。
エレナとアマンダの関係性と、アマンダ視点の話がメインです。
伯爵の章に入れるのは、? なのですが、流れ的にはここなので、挿話として何話か続く予定です。
「畏まりました」
一礼して、外へ出る。さっき、ボーッとしていたメアリの気持ちが、なんとなくわかった。
あの話は、間違いなくアマンダへのメッセージだ。聞かされたエレナはいい迷惑だが、だからといって、父から娘へ直接話せるか、といえば話は別だ。誰だって、自分の恋愛を父に語られたくはないだろう。
それに、あれでは確認ではなく、思い込みで勝手に動いた娘への叱責、という形になる。少なくとも、アマンダはそう受け取るはずだ。でも、それは本意ではないから、エレナの意見を聞くついでに、伝言を託した。
――――――あんな、察しの良すぎる父娘、おまけに、やたらと行動力のあるお嬢様の侍女なんて。しかも、あのお嬢様、結構クセモノよね。苦労するわよ―――――
口の悪い母の言葉を、思い出す。ご最も。反論する気もない。
だけど、恋愛ドラマに誘拐・傷害事件、今度は家庭の闇ドラマ。本来なら、もっとドロドロぐちゃぐちゃの阿鼻叫喚でもおかしくないのに、どこか恬淡と感じるのは、伯爵とアマンダの性格ゆえなのか。
少しばかり、横紙破りだってかまわない。だって、エレナはアマンダを尊敬している。
強く優しくどこまでも寛大な、お嬢さま。相応しくあるべき、とあれほど努力してきた、愛する人を譲るなんて、少なくとも自分には絶対にできない。
エレナは、思ったより、ずっと複雑な背景があるこの一件を、思い返す。何といっても、ヴィアンカの薬が命に係わるなんて――――あれは、遠回しではあるが、死ぬと言っているのだ―――――知っているのといないのとでは、まるっきり印象が違ってしまう。
―――――アマンダは、知っていたのだろうか―――――?
「知っていたわ。多分、ロンサール様も、ね。でなきゃ、あんな不義理するわけがないし、私だって、もっと前に問い質していたわ」
一通り、エレナの話を聞いたアマンダは、当然のように言いきった。
「何年も前に、ドクターから聞き出したのよ。念のため、一年前にも確認したけれど、新薬の研究も進んでいない、ですって」
迂闊だった。エレナは、内心臍を噛む。
確かにアマンダは、体調不良を口実に、何回か、一人で主治医の元を訪れている。その時に、詳細を聞いていれば――――多分、はぐらかされただろうけど。
アマンダは、秘密主義だ。いつからか、距離をとり始めた、ずっと一緒に育ってきたお嬢さま。どこか寂しく感じていたが、解雇される可能性がある、とわかっていたからだと、ようやく思い至る。
つまり、危ない橋を渡っている自覚があるから、使用人を巻き込まないように、どうにもならない時にだけ、命令してきたのだ。お嬢様の命令に逆らえなかった、という言い訳ができるように。
だからエレナは、未だにアマンダは、あの事件で顔に傷を負ったのだ、と信じている。運の悪い、お気の毒なお嬢さま、と。
数時間後には、オスカーとの会話で真実を知って、大切なお嬢さまに泣きながら食って掛かり、アマンダは、もう二度と無茶をしない、と約束させられることになるのだが。
「行動を起こす前の情報収集は、基本でしょう。さすがに、ロンサール様の想いがどこにあるか、誰も気づかないなんて、全くの予想外だったけど」
「でも・・・メアリでさえ、ヴィアンカ様は片思いをしているって信じていましたよ」
それは、アマンダにとっては、まさに青天の霹靂とも言うべき衝撃だった。しかも、常に傍に控えていたエレナでさえ、言われて初めて気が付いた、というのだから。
確かに、セルマンは侯爵家嫡男として、常日頃から、感情を悟られないように振舞っている。容易に使用人に気付かれるようでは、些か不甲斐ない、と言えるのかもしれない。
父が、前提が違うと言ったのは、この事だったのか。
人によって見える風景が違う、と言ったのは、アマンダが、セルマンに、深い愛情を持っていたから気付いたのであって、そうでない他人は、気づかない、と言いたいのだろう。そして、今後、そのような事がないように気をつけろ、と忠告してきたのだ。事業に携わるなら必須の条件、他人の視点を考慮しろ、と。
だけど、それを知っていたとしても、結果は変わらなかった。あんな目をほかの女に向け、自分よりも優先する男のために、この先、窮屈極まりない人生を送りたくはない。
父も理解したはずなのに。それでも、態々告げたのは、姉妹の今後のため、或いは、アマンダの感情のためなのか。
いずれにしても、自分が、愛し合う二人を引き裂く邪魔者だと、疎まれ、憐れまれていたわけではない、という事実は、確かにアマンダの心を癒してくれた。
誤字、脱字報告、ありがとうございます。
適用させていただきました。




