シュタイナー伯爵 侍女メアリ2
侍女メアリ編、思ったより、前回で書ききれなかった部分が多かったので、今回 メアリ編2 になります。
エレナも少し出ています。
「それでは、失礼いたします」
メアリは、一礼すると、シュタイナー伯爵の執務室を退出した。
なんだかよくわからない時間だった、というのが正直な感想だ。突然呼び出されて、正直に言え、とばかりに圧をかけられ、覚悟を決めたのに、聞かれたことといえば、
1.お嬢様の片思いについてどう思うか
2.カーライル卿と会う回数について、どう思うか
3.カーライル卿とアマンダ様についてどう思うか
4.カーライル卿の態度についてどう思うか
5.アマンダ様が、発作を収めるためとはいえ、妹と婚約者が二人きりで会っているのを、どう考えていると思うか
要約すると、こんなところ。
正直に、ということだったから、お嬢様がカーライル卿に片思いされているのは、発作を起こされることもあって、見ていて辛くなるくらいお気の毒だった。回数については、正直、多すぎると思ったけれど、カーライル卿とアマンダ様は、見ていて羨ましくなるくらい、素敵な関係だった。カーライル卿は、いつも姉の婚約者として、完璧な態度だった。
アマンダ様には、気づかれないようにと、奥様が仰っていたので、細心の注意を払っていた。もし、知っていたなら、さすがに良い気はしないと思う。
そう答えた。
伯爵様はなぜか、片思いについて、念を押していた様な気がする。まるで、カーライル卿がヴィアンカ様を想っているような口ぶりだったが、そんなはずはない。
だって、ヴィアンカ様は、片思いが辛いと泣いていたし、カーライル卿がヴィアンカ様を想っているような素振りを見せたことは無かった。
だから、苦しい片恋をしている愛娘のために、せめて、発作を起こした時くらいは、傍にいてあげてほしいと奥様が頼み込んだ、と聞いている。
メアリとしては、アマンダ様に内緒というのはどうかと思うし、回数も、え?とは思ったが、カーライル卿が承知したのなら、そこは、侍女風情が口出すことではないと弁えていた。
奥様は、伯爵様も承知している仰っていたが、本当だろうか?ひょっとしたら、あの様子では、全てご存じではないのかもしれない――――と思ったら、少し怖くなった。
自分の答えで、今まで順風満帆だった伯爵家に、一波乱起きそうな予感がした。
「こんなところで、どうしたの?」
廊下で嫌な予感に慄いていたら、侍女仲間に声をかけられて、我に返った。
「あっ・・ああ、ちょっと考え事してて」
「あら、メアリじゃない。貴女も旦那さまに呼ばれたの?」
「えっ、貴女も?」
「そうよ。お嬢様に言われてきたのよ。ひょっとして、同じ用事なのかしら」
声をかけてきたのは、アマンダの侍女、エレナだった。彼女は、同じ侍女とはいえ、外から雇われたメアリとは、ちょっと立場が違う。エレナの母は、アマンダとヴィアンカの乳母なのだ。だから、幼少時からこのお屋敷に住んでいて、二人の遊び相手だった、いわば腹心の侍女だ。
アマンダが学院に通うようになった時に、気心の知れた相手がよいだろうと、伯爵夫人が専属侍女に指名したと聞いている。
発作と片思いが絡むと、ヴィアンカを最優先にしがちだが、姉妹どちらかを贔屓するということもなく、概ね娘思いの母親だと、メアリは認識していた。
だから、大丈夫だろうと。
「旦那様は、何の用事なのかしら」
「う~ん・・・。お嬢様方と、カーライル卿のことについて・・・かな」
そう言うと、エレナの顔が若干引き攣った。アマンダの腹心の侍女だ。自分なんかより、よほど事情が分かっているとみていいだろう。少し突っ込んで聞いてみる。
「アマンダ様から、何か聞いているの?」
「・・・そうね。何でも知ってることは、答えていいって言われたわ」
「そうなの。じゃあ、私はヴィアンカ様のところへ戻るわね」
「ええ、またね」
エレナと別れたメアリは、廊下の角を曲がったところで、ほっと胸をなでおろした。
姉妹とカーライル卿について聞かれるのが、自分だけではないと知って、安心したのだ。エレナなら、伯爵の質問に、自分よりはっきりと意見を述べるだろう。そして、その意見には、アマンダの意志が大いに反映されているに違いない。
その結果、どういう判断を下すのか。それはもう、ヴィアンカの侍女にすぎないメアリには、関係のない世界だ。
メアリは、少なくとも、自分だけの答えで出される結論ではない、ということに心底安堵したのだった。
次こそ、エレナ編です。アマンダの腹心の侍女は、ちょっと強か。
伯爵は、弱みがあるので、アマンダ命!のエレナには、若干押され気味、の予定です。
その後は、セルマン編、オスカー編と続きます。
シュタイナー伯爵の章は、大体時系列に進んでいるとお考え下さい。




