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シュタイナー伯爵 秘書


 アマンダが出て行った後の部屋で、伯爵は、秘書に問いかけた。

「カーライル卿と、ヴィアンカのことだが。君はどう思う?」

「私の把握していることは、旦那様と変わりません」

「まあ、そうだよねえ。だけど、嘘や思い込みとも思えない」

「確かに、その可能性は低いかと」

「だとすると、()()が嘘をついている、ということになる」

「誰か、より()()()()()、がより重要では?」

 切れ者の秘書の言葉に、伯爵は珍しく、不快感に眉を顰めて見せた。

 この秘書は、いつも的確に問題点を見抜いて、指摘してくる。それも、()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ。


 シュタイナー伯爵は、多忙な人だ。宮廷での仕事、伯爵領の管理、展開する事業の管理。それぞれ優秀な代理人を置いてはいるが、最終的な判断をするのは、最高責任者である彼一人。上がってくる大量の資料と報告書に必ず目を通し、決裁する必要がある。家庭内の采配までは、とても手が回らない。

 よって、家中のことは、執事、家令、家政婦長、侍女長、召使頭などに任せている。こちらの最高責任者は、伯爵夫人である。

 伯爵夫人シアーシャは、現在40才。子爵家の出身で、以前はそれなりに裕福だった実家は、放蕩者の兄のせいで没落している。シュタイナー伯とは、いわゆる見合い結婚であるが、儚げな美女で、実業家の妻としての才は無かったが、社交性と家中を取り仕切る能力に恵まれていて、伯爵にとっては最愛の妻でもあった。


 結婚して20余年。妻の実家が没落する前は、かなりの援助を行ったが、当事者である彼女の兄デイヴィッドは、浪費生活も意識も改めようとはせず、没落していった。

 デイヴィッドが、未だに彼女の周りをうろついていることは、報告が来ている。何かと接触を図っては断られ、金銭的な援助に落ち着いていることも把握済みだ。


 家のことは妻に任せる、それが貴族の常識。

 その慣習に従っても、今まで何の問題もなかったが、どうやらずいぶん前から、亀裂が生じていたらしい。悔やんでも、問題が起きてしまった今となっては、もう遅い。

 アマンダの、❝家族円満❞という言葉が、頭に浮かんだ。

「できれば、穏便に済ませたいものだが」

「それは、場合によるかと」


 伯爵は、自分が子供の頃から父に仕えてきた、()()()()忠実な秘書を見た。

 すでに60才をいくつか超えている彼は、父の専属執事を務めていたが、爵位を継いだ時に、公私全般にわたってサポートしたいと主張したので、秘書という役職を設けた。伯爵家中興の祖として称えられる父と共に、数々の事業を軌道に乗せ、父を支えてきた老獪な秘書は、❝銀ギツネ❞と呼ばれ、畏怖される伯爵に堂々と意見を言える、貴重な存在でもあった。 

「とにかく、事実確認が急務だな。何も出なければいいが」

「旦那さまの弱点は、ご家族ですな」 

「仕方がない。家族は拠り所だが、裏を返せば、それは弱味でもある、と言うことだよ」


 そんな話をしているところへ、侍女の、入室の許可を求めるノックが響いたのだった。



 

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