シュタイナー伯爵 アマンダ 3
親子の陰険な会話が続きます。
苦手な方は、ご注意ください。
そんな思いが出ていたのだろう、苦笑した父は、話を変えた。
「半年たったけれど、君は、今の状況に不満があるかい?」
え、今、その質問?面食らったが、アマンダは、こっそり息を吸い込んで、気合いを入れる。無様な姿など、見せてはならない。後悔なんか、していない。
「いいえ。私には、ロンサール様の望む侯爵夫人は、窮屈すぎます」
そうだ。彼のために、彼の理想の侯爵夫人になるように、努めてきた。愛していたから。今でも、愛している。
だけど、❝理想の侯爵夫人❞の縛りがなくなり、半年が経った今では、失った愛の痛みより、心地よい開放感の方が勝ることに、気が付いてしまった。
「私とは、合わなかったんです。不満などありません」
堂々と言い切った。平静な声が出せたが、手が震えてしまったのは、許容範囲としよう。悟られなければ、どうでもいい。
「それは、何よりだ」
シュタイナー伯爵は、どこか安心したように、鷹揚に頷いた。
「だけど後始末を怠るのは、感心しない。前提が違うと、あちこちで不都合が生じるからね」
その前提とやらが不明なおかげで、最適解がわからないのだけど。そんな思いで見ていると、父は、アマンダの沈黙を正確に受け取り、続けた。
「残念だが、その違いについては、僕が言うべきことじゃないと思っている。だから、今言えるのは、ロンサール家とは、今後の付き合いもある、ということだけだ」
「今は、まだ、冷静でいられる自信がありませんので」
「会わなくても、伝える方法はある」
「・・・・・・・・」
なるほど、こんな午前中から呼び出した理由がわかった。今日の本題は、これ――――――つまり、せっかくお膳立てをしたのだから、うまく偶然を演出して、言いたい事を言え、というわけだ。有難いというべきか、余計なお世話、というべきか。
確かに、いつまでも無視するのは、得策ではない。半年――――――オスカーと纏めてカタをつけるには、悪くないタイミング。
問題は、どこまで、どう話をするか――――――――。
「ところで、君がオスカー君に協力を求めた理由を、聞かせてくれないか」
アマンダが難問に悩んでいると、シュタイナー伯爵は、全く違うことを言い出した。
「条件に合ったからですけど」
ほかに理由が必要とでも、言うつもりなのか?どうも、この父の真意は読みづらい。
「条件だったら、他にもいただろう?その中で、わざわざ彼を選んだ理由があるはずだ」
「同じ学院生で、自家の商会に係わっていて、私のできる範囲での上位貴族との繋がりを求めていて、王都のちょうどいい場所に空き家を所有している、うちと敵対しない下位貴族なんて、そうそう在りません」
「そうかな。サーキス子爵家、メルドルン子爵家、アドラム男爵、フェルブス男爵家・・・ざっと調べただけでも、まだあるけどね」
「お父さま。女子学生に秘密の死守なんて、酷な要求をしろ、と?」
ビジネスではなく、頼みごとなのだ。そして、見返りの大きさ、ある程度の胡散臭さと、こちらの地位を考慮して、損得をはじき出せる相手となると、かなり稀少だ。扱う商品の品目もある。
第一、学生のうちから、それなりの権限を持っている、もしくは影響力のある子息となると、見つける方が難しい。
「誰でもいいというわけには、いかないのです」
私より、よくご存じでは?と、忘れずに嫌味も付け加えておく。
「なるほど。アドラム卿は、君のお眼鏡に適わなかった、と」
アマンダは、思い切り顰めそうになる顔を、全神経を集中して止めた。
全く、この父親は!人の神経を逆撫でするのがやたらと得意なうえ、それが決して無駄ではないから、余計に腹が立つ。その端正な澄まし顔を引っ搔いてやったら、どれだけすっきりすることか―――――!
物騒なことを考えながら、アマンダは、渾身の力を込めて、にっこりと微笑んで見せた。
腹黒策士の伯爵は、アマンダを高く評価してるので、なかなか容赦がありません。
だけど、アマンダも良く期待(?)に答えています。
私の書く人物像は、どこか歪んでいるのかも・・・(;^_^A
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