シュタイナー伯爵 アマンダ 2
「そんなことにならなくて、何よりです。家族断絶なんて、嫌ですもの」
アマンダは、本能の警告に従って、にこやかに誤魔化す。さっきの一面は、見なかったことにしよう。できれば、傷の話題からも離れたい。
「全くだ。だけど、その傷は見逃せないね」
どうやら、追及する気満々の様子。なぜ、回避したい方へと近づくのか。
「確かに、僕は、婚約解消も、ヴィアンカに代わったとしても、特に支障はないと言った。だけど、待て、とも言ったはずだ。第一、君の努力は、カーライル卿のためと思っていたんだが?」
ドクン、と心臓が大きく跳ねた。鼓動が速まる。本当に、的確に痛いところを突いてくる。知ってるくせに、なんて嫌味。娘の失恋が楽しいのか、このキツネ親父は――――――。
そう思ったら、なんだか、腹が立ってきた。
そんなに聞きたきゃ、言ってやる!
「努力の結果が、愛し合う恋人たちを引き裂く婚約者なんて、無粋な役回りは御免被ります」
「・・・・・・・・・」
アマンダが、半ば自棄になって叩きつけた言葉は、奇妙な沈黙で迎えられた。いつも冷静な父は、無言でアマンダを見ているが、人の表情を観ることに長けた彼女は、一瞬の困惑を見逃さなかった。
私には、そんなことを気にするような繊細さは無い、とでも思っているのか!そう考えたアマンダは、決して誰にも言うつもりのなかった言葉を告げる。
「はっきり言えば、妹に夢中な男性のために必死で努力を続けられるほど、できた女ではない、ということです」
プライドがきしんで、悲鳴を上げる。だけど、何とか冷淡な口調は死守できた。
もう二度と、こんなセリフ言うものか!
ますます困惑する父。無表情だが、アマンダにはわかる。こんな顔、初めて見るかも。
ひと泡吹かせてやったような気がして、すっとした。乙女の失恋を追求するなんて、野暮な真似をするからだ。ザマーミロ!心中で思い切り罵って、現実では鼻で嗤ってやる。
「品が悪いよ、アマンダ。せっかくの気品あふれたレディが、台無しだ」
気を取り直したらしい父が、別方向から攻めてくる。
「それは、もう、ヴィアンカに任せました」
「そのヴィアンカだが、あまりよくなくてね」
「私に言われても困ります」
それは、婚約者の担当だろう。
「少し誤解があるようだから、落ち着いたら話をしてみるといい」
「正気ですか?元婚約者と現婚約者なんて、普通は血の雨が降りますよ」
「君の優秀さは認めているけれど、その決めつけは改めた方がいい。こんな傷まで作って―――僕はこれでも、とても後悔しているんだよ」
「怒っている、じゃなかったんですか」
「それは、自分に対してだ。一人ひとり、見ている風景が違うということを失念していたよ。これからは、君も気を付けるべきだな」
道理で納得しないはず、とか、迂闊だった、とか呟く父。珍しく、かなり動揺しているのが、見て取れた。どうやらかなりの衝撃を受けたのは、わかった。
だけど、何を言っているのか、理解できない。いや、大体のことはわかる。
つまり、アマンダと周りの認識に齟齬があり、それが原因で、何やら不都合が生じているらしい。だけど、肝心の齟齬の内容が不明なので、結果として全く理解不能だ。
一人で苦悩していないで、もっと、わかりやすく解説してほしい。
アマンダは、心からそう思った。
腹黒同士、キツネとタヌキの化かし合いの様相になってきました。
アマンダ善戦するも、まだまだ修行不足で押され気味です。
狐父は、全く予想外の攻撃を食らって、ちょっとグロッキーと言ったところ。
愛ある腹黒なので、悲惨な結果にはならない・・・はず。
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