シュタイナー伯爵 アマンダ 1
狐な父の登場です。
この父相手には、アマンダもクセモノな本性がダダ漏れです。
今までとちょっと系統が違いますので、予めご了承ください。
「アマンダ。僕は、怒っているんだよ」
朝日の差し込む、清々しい部屋で、清々しい笑みを浮かべながら、シュタイナー伯爵は、穏やかならぬ言葉を吐いた。
「お父さま。あまり興奮なさると、お体に障りますわ」
シュタイナー家長女アマンダは、いかにも心配している表情を作って、父に微笑みかけた。
「僕を年寄り扱いするんじゃない。それから、今回は、誤魔化されないと思いたまえ」
よく見ると、額に青筋が立っている。これは、ちょっと厄介かも。アマンダは、憂鬱になった。
父の怒りは、最もだ。よくわかる。だから、バレないように3年もかけて、不自然でないように準備したのに。この父を出し抜くのは、至難の業だとはわかってはいた。問題は、どこまでバレているのか、だ。
アーネスト・ノアル・シュタイナー伯爵は、当年とって43才。怜悧な美貌と豊富な知識、人好きのする会話で女性に大変人気がある御仁だ。やり手の実業家で愛妻家、家族思いというのも理由の一つである。
常に冷静沈着と言われる伯爵だが、朝食後呼び出した長女の態度が、あまりにもシレッとしてるので、ついつい態度が厳しくなってしまう。本当は、色々といたわってやりたいのだが、この娘のしでかしたことを考えると、そうもいかない。
「今日、オスカー・ラドクリフ君を招いた。君と会いたいと言うので、昼食後のティータイムを指定したから、そのつもりで侍女に支度を・・・」
「私とお茶、ですか?」
「君とだ。そのあと僕が話をする。彼には、話しておくことがあるだろう。まさか、僕にさせる気か?」
「首都騒乱罪に巻き込んだ謝罪ですか」
「そんな犯罪は起きていない。物騒なことを言わないように」
やっぱりバレている。
「では、伯爵令嬢誘拐・傷害事件に関する私見を・・・」
「アマンダ」
「ハイ」
やっぱり、誤魔化されてはくれない。当然だが。それでも、一応神妙に俯いて見せる。
シュタイナー伯は、その様子を疑わし気に見ながら、説明した。
「今日の僕の予定は、昼にカーライル卿と会食、2時半にオスカー君と会う」
「ロンサール様がいらっしゃるのですか?」
「彼は、2時過ぎからヴィアンカと中庭で茶会だ」
カーライル卿とは、ロンサール侯爵家が複数持つ爵位のうちの伯爵位で、当主になるまでの間、セルマンが継いだ。婚約者交代の内情を詮索されたくないロンサール家が、急遽決定したのだ。おかげでしばらく、ロンサール侯爵家は誰が継ぐのかと、騒然となり、婚約のことはうやむやのうちに、片が付いた。
強引な婚約解消の影響は、確実に、あちこちで出ている。
「カーライル卿とも話すことがあるだろう」
――――――彼とは、会わないようにしなければ。
アマンダが、そう考えていた矢先、シュタイナー伯爵は、特大の火玉を投げつけてきた。
確かに、自分は、かなりの不義理を働いた。その自覚もある。だけど、この父にも責任の一端があるはずだ。その思いを込めて、思い切り睨みつけた。
アマンダには、あの顔を見て冷静でいられる自信がまだ無かった。余計なことを口走ったら、最後の矜持がズタズタだ。
「以前お父さまにお聞きした時、婚約解消は、別に支障はないと言いましたわ」
「そんな傷をつけてまでする必要があったか?そんなことを企んでいると知っていたら、ヴィアンカを領地に送っていた」
「なぜ、ヴィアンカを!?」
「あれが原因だろう。元々、あの状態が続くようなら、領地に行かせるつもりで準備していた」
「お母さまが承知するとは・・・」
「関係ない。当主の決定は絶対だ」
当然のように言い切る父を見て、アマンダは、本気だ、と思った。
この父は、本気でヴィアンカを切り捨てるつもりだった―――――?
社交界では、温厚で家族思いと評判の父の、整った顔を見ながら、ある呼び名を思い出した。
見事なアッシュブロンドと、冷たく整った、豪奢な容姿。狙った獲物を冷徹に追い込み、逃さないことから、実業家の間でひそかに囁かれる異名――――銀ギツネ――――。
事業なら頼もしいけれど、家族には、あんまり向けてほしくないかも。
アマンダは、漠然とそんなことを考えた。
アマンダ編が三話くらい、オスカー編が一~二話、侍女編が各一話・・・といった感じで予定しています。
少し時間がかかるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。