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埋蔵金の行方

寺島のトリックを見抜いた風人。

しかし、寺島の思いを無下にしたと風人の頬を打つ塩田

次の日。

朝早く、風人と酒匂、真木とその母が旅館を発とうとしていたとき、駐車場の前の道路に一台の車が止まった。

ドアが開き、小走りに風人のもとにやって来た塩田が、いきなり風人の頬を平手で打った。

唖然となる風人の前で塩田は泣き崩れながら、

「あなたさえ来なければ、圭子ちゃんの命は救われて、寺島さんの思いは報われたのに」

と言った

「誰を思ったにしても、寺島さんのやったことは殺人なんです」

風人は静かに言った

「でも!!」

塩田はまた泣き崩れた。

「僕もこれほど自分の推理が当たらないほうがよいと思ったことはありませんでした」

その言葉を聞いた塩田が一瞬キッと風人を睨んだが、すぐにまた泣き崩れた。

泣き崩れる塩田を優しく包むように風人が訊く。

「塩田さん、ひとつ聞きたい事があります。何故、寺島さんの殺害した相手は赤木さんだったのでしょう?自殺を隠すためだというのはわかります。でもそれだったら事故にみせかけての自殺でも良かったような気がする。寺島さんは赤木さんにかなり強い殺意を抱いていたように思えます」

「赤木が、ひと月前、こてつを轢いたの」

赤く腫らした目から涙が零れ落ちる。

「こてつとは、写真の寺島さんが抱いていた犬ですか?」

「そう。鎖が外れ、道路に飛び出したこてつを、通りがかった赤木が轢いたの。そして、立ち尽くしている寺島さんに、死んだこてつを投げてよこしたと聞いたわ」

「———」

「その上、俺の車が汚れたと罵ったの。こてつは、入院している圭子ちゃんと寺島さんをつなぐ絆みたいな存在だったのよ。圭子ちゃんはまだこてつが死んだことを知らないの」

塩田の静かな怒りが潮が満ちるように強くなっていく。そして、怒りは再び風人へと向かった。

「圭子ちゃんは全てを失って、しかも手術を受けることも出来なくて。こんなの誰もうかばれないじゃない。なんて、なんてことをしてくれたのよ」

「塩田さん、これは犯罪よ。殺人と保険金詐欺だわ」

真木が割って入った。

「どんな思いがあったにしても、相手がどんなクズだったにしても、人を殺すことは罪よ。まして、目的がどんなであれ、保険金をだまし取ったことになる」

しっかりと塩田を見据え語りかける真木だが

「警察は、正論さえ言えばいいから楽よね」

と塩田は真木の言葉をはねのけるように言った。しかし、睨みつけたはずの真木の目は赤く、大粒の涙をたたえていて、それに気づいた塩田は俯いた。

「寺島さんは最初は自殺するつもりだったのでしょうね。しかし赤木の仕打ちに、彼を利用することを考えついた」

風人が言った。

「あの男にふさわしい最後だわ」

リョーコが小さな声で呟いた。


「すみませーん」

場違いな素っ頓狂な声を上げ、背の高い警察官の制服を着た男が走ってきた。須田だ。

「ふう、間に合った。件の手術費のことなんですが」

息を切らせながら言う須田の言葉を

「もう聞きたくない」

と塩田が遮り、両手で耳を塞いだ。

お構いなしに須田は続ける。

「さきほど、寺島圭子さんを看護しているご友人から電話がありまして、口座に1億円振り込みがあったそうです」

「え?保険金は降りないのでは?」

須田の言葉を確認するように、塩田が顔を上げて訊いた。

「違います。保険金ではなくて、アメリカの銀行から振り込み人不明で、1億円の振り込みがあって。誰からの振り込みなのか銀行に訊いても教えてくれないそうです。ご友人は今回のことをご存知だったので、怖くなって警察に電話してこられたのですよ。振り込み人について塩田さんには覚えはありませんか?」

「いえ、ありません。あるはずないです」

塩田はきょとんとした顔で応えた。

「振り込みには、英語で手術に役立ててほしいと書いてあったそうです。お知らせはしましたが、誰が振り込んだのか調べるのは警察の仕事ではありませんのであしからず」

相変わらず飄々と顔で須田が言った。

「でも、これで圭子ちゃんは手術を受けられる」

塩田は最初、つぶやき、そして嗚咽とともに声にならない声を上げた。真木は皆に背を向けて、空を見上げていた。頬から伝うものがあった。

「なんだろう、神様ってほんとうにいるのかもしれないわね。こんなことって」

現実主義者の真木とは思えない言葉だ。

真木の母、律子は横目で酒匂を見た。酒匂は両掌を上に向け、首を振った。

「俺にそんなカネねえぞ」

風人はふと、ある考えに至ったが、それ以上思考を進めるのをやめた。

「じゃあ、俺は一足先に八王子に帰るからな」

酒匂は風人に抱かれたリョーコの頭を撫でたあと、風人の額を人差し指と中指の二本でぺしんと叩いた。軽いしっぺだ。

「リョーコを離すなよ」

「はい」

レンタカーに乗り込んだ酒匂は鹿児島空港へ向かった。


八王子へ帰路につく酒匂。

次の公演地へ向かおうとする風人

しかし溶けない謎がもうひとつ。

次話、人吉・伊佐編最終回です。

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