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異世界 新型ゴロナウイルス戦争  作者: 次来ゆきち
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2話 エルフの美女医

病院に来た。町外れにある病院で、この田舎町カナイドでは珍しい2階建ての大きな建物だ。入口の看板には「風の森の病院」と書かれている。雑貨屋のダイスさんが教えてくれた病院だ。エルフの優秀な女医がいるらしい。


「ここの医者が

 陽性だって言うなら信じてやるよ」


狼の獣人ラギはそう言って、汚い笑みを浮かべた。陰性と言われたらお前の目をすぐにつぶしてやるからな、という笑みだ。


ふざけんなよ!

なんで目を潰されなきゃいけないんだよ!

罰が重すぎるだろ!

もし俺のスキルが誤診していたら、

こいつが本当は陰性だったら…

どうしよう……


汗が噴き出した。逃げ出したかったが、ラギにガッチリと腕をつかまれていて抜け出せない。


「よし、入るぞ」


ラギはそう言って、入口のドアを開けた。


ドアを開けるとそこは玄関だった。5m先の受付の前に白衣を着たエルフの美女が腕を組んで立っていた。この人が……


「エルナース先生! あの…」


「まず手を洗いなさい、汚物ども」


ラギにエルナース先生と呼ばれたエルフの女医は、俺たちに玄関に備え付けられた洗面台で手を洗うように指示した。

ていうか汚物って!


「エ、エルナース先生! 俺たちは客ですぜ!

 汚物よばわりは酷すぎますよ!」


「客である前に汚物でしょ。

 あなたたちはウイルスまみれなんだから。

 さっさと手を洗いなさい。

 とにかく手を洗うことが大事なのよ。

 新型ゴロナウイルスは

 人間の手を特に好むからね」


そうなのか。

俺の手にも新型ゴロナウイルスがいるのかな?


石けんも使って念入りに手を洗う。


ラギも言われたとおりに手を洗っている…

この横暴なラギが素直に言うことを聞いている…

つまりそれは、あのエルフの女医が

この狼の獣人よりも

圧倒的に強いということを示している…


改めてエルフをよく見てみる。長い金髪からエルフの特徴である先のとがった耳が突き出ている。身長は俺と同じくらいだ。体は細く、全然強そうに見えない。どう考えてもラギの方が強いと思う。それとも強いからじゃなくて美女だから素直に従っているのだろうか。


「エルナース先生、

 PCR検査を受けさせてください」


手を洗い終わったラギが申し出た。


「PCR検査?

 あなた何か症状が出たの?

 熱とか咳とか味覚障害とか」


「いえ、無症状なんですが…

 こいつが俺が陽性だって言うんです」

ラギは俺を指さして言った。


「えっ!?

 あなたPCR検査のスキルが使えるの!?」


エルフの女医は目を見開いて言った。


「…はい」

俺は返答した。


「貴重な人材だわ!この病院に就職しなさい!」


エルフの女医は興奮している。


「エルナース先生! まず俺を

 PCR検査してください! こいつは

 ウソをついてるのかもしれないんですよ!」

ラギは訴えた。


「嘘? 嘘なの?」


エルナース先生は眉根を寄せた。


「ウソじゃありません。

 ハッキリと見えました。

 新型ゴロナウイルス陽性って」


見えたことは間違いない。ただそれが誤診の可能性も否定できない。俺のPCR検査の精度はどうなのだろうか。100%ならいいが。


「ふ〜ん…」


エルナース先生は考えこんでいる。


「まあいいわ。診察室へ来なさい」


エルナース先生は奥の部屋へ向かって歩き始めた。

ラギと俺も後に続く。


診察室の中にはドワーフの女性がいた。身長は1m弱、たくましい体をしている。女性だから雑貨屋のダイスさんのような立派なヒゲは生えていない。


「こちらは看護師のハクさんよ。

 彼女がPCR検査を行います」

エルナース先生は紹介した。


「えっ?

 先生が検査をするんじゃないんですか?」

俺は言ってしまった。


「ん? 私はスキルは使えないわ。

 知らないの? 私けっこう有名人なんだけど」


しまった…余計なことを言ってしまった。

異世界転移者だとバレないように

しなきゃいけないのに…


「いや、あの…

 俺は山奥に住んでるもんですから、

 よく物を知らなくて」


「ふ〜ん……まあいいわ。

 獣人のあなた、そこに座りなさい」


ラギはエルナース先生の指示通りイスに座った。その真正面にドワーフの女性看護師、ハクさんが立つ。


「では口を大きく開けてください」


ハクさんがそう言うと、ラギは汚い牙だらけの口を開けた。ハクさんはラギの口の中を凝視し始めた。


……どういうことだ? ハクさんは今

PCR検査のスキルを使っているのか?

なんか俺のスキルと違うんだが…

俺は口の中を見なくても新型ゴロナウイルス

陽性か陰性かわかったのに…

……それにやたらと時間がかかっているな……

もしかして俺のスキルはPCR検査ではないのか?


「はい…もうよろしいですよ…」


2分間ラギの口の中を凝視した後、ハクさんはかすれた声で言った。どうやら検査が終了したようだ。


「はあ…はあ…」


ハクさんは苦しそうに呼吸している。

顔は汗だくだ。


そんなに疲れるものなのかPCR検査って…?

俺は今日2回やったけど全く疲れなかったんだが…


「ハクさん、こっちで休みなさい」


エルナース先生はハクさんを抱きかかえ、奥のソファーに寝かせた。


「それで結果は!?

 結果はどうだったんですか!?」

ラギは急き立てた。


「ちょっと待ちなさい。ハクさんの息が整うまで」


エルナース先生は眉根を寄せてたしなめた。ラギだけでなく俺も早く結果を知りたかった。もし陰性だったら、俺の目は獣人ラギによって潰されてしまうのだ。


頼む…! 陽性であってくれ!

神様…お願いします…お願いします……!

俺の目を救ってください…!

潰すにはもったいないキレイな目ですよ。

ほらっ! 見て見て!


俺は上を見上げて目を見開いて神に祈り続けた。


しばらくして、ハクさんが起き上がった。

まだ疲労の色が見える。


「ハクさん大丈夫?

 無理せずに寝てていいのよ。

 体が壊れたら大変だわ」

先生は気遣った。


「いえ、大丈夫です。

 それでPCR検査の結果なんですが…」


俺はゴクリと唾液を飲みこんだ。

陽性来い! 陽性来い!


「結果は…陽性でした」


陽性キターーーッ!!!

やっぱり俺のスキルは正しかったんだ!

これで目を潰されずにすむぞ!

助かった! 神よ! ようやった!


「陽性!? 確かですか!?」


狼の獣人ラギは困惑して言った。


「ハクさんのPCR検査の精度は100%よ。

 私が保証するわ」


エルナース先生は断言した。

そして俺の方を向いて話し出す。


「あなたのPCR検査も正しかったのね。

 ありがとう。感染者を見つけてくれて。

 あなたのおかげでこの獣人が

 感染を拡大させるのを防ぐことができたわ」


「いえ、俺の方こそありがとうございます。

 お二人の…先生とハクさんのおかげで

 俺の目は潰されずにすみました」


「…目をつぶす? どういうこと?」


エルナース先生は首をかしげた。

俺はラギに言われたことを説明した。俺の検査が間違っていて陰性だったら、ラギが俺の目を潰すということを。すると突然、閉めきった部屋の中なのにものすごい風が吹いた!座っていたラギが吹っ飛ばされ、診察室の壁に叩きつけられた!


ドガッ!


「ぐあっ!」


ラギは短く叫んで、床に落ちた。

エルナース先生は冷たい目でラギを見下ろした。


「あなたバカなの?

 目をつぶす? この貴重な人材の?」


「ち、違うんです!目をつぶすっていうのは

 こいつがウソをついていた場合で……

 PCR検査のスキルを持ってない場合でっ!」


「…仮に嘘だったとしても嘘をついた罰で

 目をつぶすってのはおかしいでしょう。

 明らかにやりすぎじゃない。

 これだから獣人は…」


エルナース先生は不快そうな顔をした。


「もういいわ。さっさと帰りなさい。

 それから今度からここへ来る時は

 マスクをつけて来なさい」


「あの…治療は…?」


狼の獣人ラギは泣きそうな顔で言った。


「治療? ああ、そうだったわね。忘れてた」


そう言うとエルナース先生は目を閉じた。すると今度はあたたかいそよ風が吹いた。そしてラギの体が淡く光った。


「よし。治療は終了よ。

 新型ゴロナウイルスは

 あなたの体の中から消えたわ」


「えっ!? もう? 本当ですか?」


狼の獣人は信じられないという顔つきで言った。


「…あなた私の言葉が信じられないの?

 私の実力を知らないの?

 私のことを知らないの?

 はじめまして、私はエルナースといいます」


「し、知ってます!

 世界で4本の指に入る実力者!

 エルナース先生ですよね!?」


「3本の指に入る実力者よ。

 よくも私を過小評価してくれたわね。

 お礼にあの世に送ってあげるわ」


エルナース先生は右腕を伸ばして、手の平をラギに向けた。


「かかかカンベンしてください!

 すいませんでした!

 治療ありがとうございました!」


獣人ラギは立ち上がり、深く一礼して急いで病院から出ていった。


「はぁ……ベアが総理大臣になってから

 ああいう調子に乗った獣人が増えたわよねぇ…

 あっ! 法外な治療費もらうの忘れてた!

 はぁ……忘れっぽいのよねぇ私……」


「あの…エルナース先生。

 さっきのラギを吹き飛ばした突風は

 先生のスキルですか?」


俺は気になってたことを聞いてみた。


「ん? いやだから、

 私はスキルは使えないって言ったでしょ。

 あれは魔法よ。私は風の魔法が得意なの」


魔法!

この世界には魔法があるのか!

前の世界では漫画や小説の中にしかなかったのに!


「魔法ですか……ん?

 でも魔法とスキルって何が違うんですか?」


俺は思い浮かんだ疑問をすぐに投げかけた。


「…魔法もスキルも同じ超能力だけど、

 消費する力が違うのよ。

 魔法は魔力を使う。スキルは体力を使う」


そういう区別のしかたなのか。


「じゃ、じゃあ…

 俺にも魔法って使えるんですかね?」


「それは無理ね」


「無理ですか!?」


「ええ。無理。

 だってあなたには全く魔力が無いんですもの」


「全く無い!? ゼロですか!?」


「ゼロね。何も感じないわ」


マジか……ショックだ……

俺もエルナース先生みたいに

カッコよく魔法で悪人を倒したりしたかった…


「ねえ、あなた名前は何ていうの?」


「シュージです」


「シュージ君か。

 ねえシュージ君、あなた異世界転移者でしょ」


体に電撃が走った。

なぜバレたんだ!?

秘密にしておくはずだったのに!


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