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異世界限界中年 苦難の日常  作者: マロニー
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苦難の日常001 すし屋

 はじめてその異世界の扉が開いた時、日本中が羨望のまなざしを向けた。

 その人々の生活は、ゆとりと活力に満ちていたからだ。


 大人たちは仕事や育児に振り回されることなく、生き生きと自分の人生を楽しんでいる。

 子どもたちは高い学力と正しい倫理観を学びながら、自立した人生を選択できる教育を受けている。

 衣・食・住に困ることなく助け合いのライフラインにより、人々は生きていく悩みから解放され、安全と安心の生活が約束されていた。


 ここは人類の理想郷といわれる『ホック王国』。


 私がこの地に移住したのは、もう十年も前の事。

 まだこの世界は日本と繋がって間もなく、移住したて私にはこの街の全てが目新しく刺激的であった。


 商店街にはハンドメイドの雑貨屋が立ち並び、路上で売られている屋台の黒焦げクレープなど、雑ながらも愛嬌のある出会いがあったのだ。


 そんな純朴さこそが、この国を「しあわせの国」と言わしめたのだろう。


 そんな彼らの信じる幸せも、次々と押し寄せる日本文化により影を潜めていく。

 人々の視線は外の新しいものにみるみる夢中になり、まるで大海を知ったカエルのように幸せを井戸のなかに置き去りにしていった。


 その最たるものが、そう。

 Sushiである。


 今日ではスーパーでコンビニでレストランで、国中がSushi屋で溢れかえり、人々を虜にしていた。


 私もはじめは自国の文化が受け入れられることに心が踊った。

 しかし、街で実際にSushiレストランと対面したとき、驚愕と哀しみ、そして怒りがわき上がった。


 日本のアニメ風イラストで描かれた、お団子頭のオリエンタルガール。

 店内には油や香辛料の香りがこもっており、ビュッフェスタイルで雑にTeriyakiソースをぶっかけられたSushi。


 現地の人々はこれを日本人が作る本場の味と信じて有り難がり、そして同じ皿に次々揚げ物や炒め物を盛っていく。


 彼らが満面の笑みでSushiにフォークを突き刺す。

 醤油の海にシャリを泳がす。

 正視に耐えない。


 ヤメテクレ……


 私はそう心で呟きながら、うつむいてコーヒーを飲む。

 そして、寿司屋でコーヒーを飲む自分を呪う。


 あれを日本文化と信じた人。

 あれを日本文化と信じさせた人。

 誰を呪っていいのか解らないので。

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