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スーパー スペシャル スペース シャトル  作者: 城塚崇はだいぶいい
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第三話 潮汐ロックサイエンティスト

 地球の場合、北極と南極が寒くて、赤道が暑いよね。潮汐ロックの惑星だと、どうなるかな?そろそろ潮汐ロックにも慣れてきたでしょ?想像できるんじゃないかな?そうだね、昼面の真ん中あたりが一番暑く、夜面の真ん中あたりが一番寒い。まぁ、実際は山の高さとか、風向きとかで一概には言えないのだけど、だいたいそんな感じ。グリーゼ887cの質量は地球の約7倍だそうだ。つまり土地はたくさんありそうだよね。しかし昼面の表面温度は70度なんだってさ。流石にちょっと住めないね。同じ理由で夜面も住みづらい。昼と夜の間にある朝と夕、人が住みよいのはこの辺りになる。土地はたくさんあっても、住める場所はそんなに多くないのかもしれないね。


「ようこそ丑三つ村へ、こんな寒いところへよう来なさった。大したもてなしはできないが、ゆっくりしていきなされ」

 丑三つ村の村長は出張でやってきたサラリーマン城塚をやさしく労った。

「ありがとうございます。しかし、ゆっくりなどしていられません。この村のインフラ設備の保守点検が完了したら、開拓作業を視察させていただく予定です」

 先日地球からやってきたあのサラリーマンは、今日は出張で丑三つ村へ来ているようだ。


 丑三つ村というのはグリーゼ887cで、人間が住んでいる場所の中で最夜端に位置する村だ。地球時間でいうところの深夜2時頃の真夜中が永遠に続く場所で、日の光がほぼ届かないため、極寒の地だ。当然そんな場所に住みたがるモノ好きは少ない。


 連れてきた数人の技師に保守点検作業を任せ、城塚は視察の準備を整える。

「こんばんは、城塚さん。私は現場監督の野波と申します」

 礼儀正しく挨拶してきたのは開拓作業の指揮官『野波(のなみ) (つよし)』だ。

 これから彼についていって極寒の荒野での土木作業をひたすら見ていなければならない。

「今日はよろしくお願いします。しかし、寒いですね。こんな場所でのお仕事はとても大変なんじゃないですか?」

 城塚の質問に対し、野波は饒舌に語りだした。

「寒さを悩むのなら、科学を崇拝せよ。さすれば科学は貴方へ防寒具というご利益を授けるでしょう。・・・あ、失礼しました。寒さはとても厳しいです。ただし、うちのチームは皆この仕事を嫌々している訳ではないのですよ。なんと全員が志願者なのです。こんなきつい仕事になぜ志願するのか。答えは簡単です。未知への好奇心が抑えられなかったからです。うちのチームは開拓作業を行うかわりに現場の地質調査を自由に行わせてもらえる契約なのですよ。地球外の未知の惑星のさらに奥地、人の手が入っていない未開の地です。何かあるかもしれないでしょう?例えば、地球には存在しない鉱山物質とか、微生物だとか、または遺跡や化石なんかも見つかるかもしれない」


 地球人がこの星に降り立った時、この星には一切の生物は見つからなかった。宇宙学者達はあまりにも予想通りであったことに驚きを隠せなかった。地球には存在した何かが、この星には足りなかったのかもしれない。または、この星にも生物はいたが、何らかの理由で絶滅してしまったのかもしれない。遺跡や化石が見つかればそれが証明できる。


「なるほど、貴方たちは土木作業員ではなく、学者集団なんですね」

 城塚がそういうと、野波はさらに続ける。

「そう、我々は大きな夢を抱いてこの星へやってきた。科学における新しい発見を求めて。寒さなど問題ではないのです」

 野波は誇らしげだ。

「しかし、未知の世界という意味なら、別に寒くないところも十分に未知なんじゃないですか?わざわざこんな辺境を研究しなくても・・・」

 城塚の言葉が終わる前に野波は話し始めた。

「我々は、残念ながら地球では何の功績もあげていない無名な学者集団です。朝街と夕街は我々が来るよりはるか前に有名な学者達が既に調べつくしてしまっています。無名な学者でも人の手が入っていない場所を研究させてもらえる。そして開拓作業を行うことで、国から給与が支給される。この場所は我々の欲しい条件をピタリと満たしているのです。もはやここが寒くてよかったとさえ思っています。この場所で我々が偉大なる発見をし、科学へ一石を投じるのです。地球では得られなかった千載一遇のチャンスを我々は今、手にしているのです」

 なるほど、寒いところに住む人達にはそれなりの理由があるという訳だ。城塚は自分が働く理由について考えてみた。城塚はサラリーマンだ。辞令が下りればどこにだって行くし、何だってやる。それがたとえ地球から11光年離れた場所であっても、極寒の辺境であってもだ。そこに彼らのような壮大な夢は無い。ただ、言われたから仕事を行い、言われた通りの給与を受け取る。この星に先行して移住している人達は、大きな夢を抱いている人が多い。何の夢も持っていない城塚から見て、彼らはとても眩しかった。

「すごいですね。貴方たちを見ていると何の夢も持たずに、ただ言われたからここに来ただけの自分が、なんだか恥ずかしいです」

 それを聞いた野波は、またも語りだす。饒舌に。

「夢が無い人などいないのですよ。貴方は悩みを抱えていますか?悩みがあるというのはとてもいい。現状に満足していない証拠です。現状よりも高みを見据えるからこそ悩むのです。あとは悩みを解決する方法を考えて、試行してみるのです。悩みを解決していく作業のことを壮大な表現で『夢』と言います。たとえば、寒いことを悩んだ人がいたから防寒具は作られた。歩くのが面倒だと思う人がいなかったら、車は発明されなかった。人々は悩んだ末にこそ夢をかなえる。貴方も私も今、志半ば、夢の途中なのです。悩みがあるのなら科学を崇拝せよ。さすれば科学は貴方へ夢というご利益を授けるでしょう」

 前向きな人だなぁ、と城塚は思った。

「ふふ、意外ですね。科学者ってもっと堅いイメージがあったんですが、夢だとか崇拝だとかって現実主義な科学からは遠いものだと思っていました」

「今日できなかったことを明日はできるようにするのが、科学です。科学者なんてものは皆、夢見がちな少年のような存在なのですよ。それに科学というのは宗教と反するものでもありません。信仰の対象こそ異なりますが、科学もまた宗教の一つです。強く信じて突き進んだ結果、S4が開発され、こんな遠くの星までたどり着けた。地球とともに滅亡しなくて済んだというのは科学のご利益そのものです。それでは、そろそろ現場作業と行きましょうか。ご利益を得るためには、厳しい修行を越えなければならない。科学もまた例外ではない」


 帰り道・・・城塚は物思いにふけってみる。サラリーマンになる前は、何になりたかったんだっけかな・・・。夢なんていつ諦めたのかも思い出せない。サラリーマンになることは夢を諦めることと同意ではない。そりゃ、「おおきくなったらサラリーマンになりたいです」なんて子供はいないだろうけどさ。この仕事にもきっと夢はあるはずだ。少なくとも夢を追う人達の背中を押すことはできているはずだ。そのうちでっかい夢を語れる男になろう。そんな夢をみてみる。


 潮汐ロックの闇の中は、とても眩しかったなぁ・・・。

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