9.喧嘩上等!
本日5話目です。
デニスに対峙していた時は『ブラッドの立場は絶対私が守ってみせる!』とか勝手に意気込んでたのに、今は情け無くもちょっと助けて欲しくなっている。
不安に駆られてブラッドを見ると彼も驚いていて、二人で顔を見合わせて一瞬詰まってしまった。
「ブリトニーさん。勝手に話を進められるのは困るな。今ステファニーと婚約しているのは俺なんだ。それにもう手続きは済んでるから、お披露目がまだだからって、いまから簡単には変えられないんだよ?」
話し方は丁寧だけど、ブラッドの怒りが籠った言葉は冷たく、その場に冷静さを取り戻すにはぴったりだった。
しかし、ブリトニーは怯まない。
「そんな……だったら、一回でいいです。デニスにもチャンスをあげてください」
「「「チャンス!?」」」
異口同音で言葉が響いた。
あ、良かった。
私だけがオカシイわけじゃないらしい。
「チャンスって、どういうこと?」
私が聞くと、視界の隅でデニスがうんうんと頷いてる。
こういう所は犬っぽくてちょっと可愛いから、うっかりなんでも許しそうになるのよ。
でももうこれには騙されないわ。
そう思って気を引き締め隣を振り仰げば、冴えざえとした蒼い瞳でブリトニーを見据えるブラッドがいた。
あぁ、素敵。
今の私には頼もしいブラッドが居るんだから、やっぱりデニスにチャンスなんて必要ないわ。
「チャンスはチャンスよ」
何だか頭悪そうな答えが返って来たんですけど。
「えーと、だから。デニスの得意な事で勝負とか?」
「俺の得意なこと?」
「そうよ! 剣術ならどう?」
「おぉ! そうだな。それなら自信がある」
止める間もなく二人で盛り上がって話が進められていた。
もう決まったとばかりに二人でこちらに期待に満ちた目を向けられてギョッとする。
「そんな大事なこと、私の一存で決められるわけないじゃない」
「そんな意地悪言わないで……デニスがかわいそうだと思わないの?」
「思わないわ。だって自分から私と結婚しないことを選んだのよ?」
「だって、あの時は俺、知らなかったんだ。ステファニーが教えてくれなかったからだろ?」
えぇー!
それって私のせい?
そんなわけないわよね?
「子どものころから言われていたのに、忘れてるなんておかしいわ」
「子どもの時なんでしょ? そんなの忘れちゃっても仕方ないわ。だってデニスなのよ?」
そう言われるとそうかも……?
いやいや、待って。
すぐ忘れるのは、デニスの頭がニワトリさん並みなだけよ。
「そんなにすぐ何でも忘れるようじゃ、辺境伯の仕事は無理だろ」
とうとう我慢できなかったらしく、ブラッドがボソッと呟いた。
私は思わずブラッドを見てしまい、慌てて前を向いた。
ただ、ブラッドの暴言はお二人さんにもバッチリ聞こえていたようだ。
「ローマン様、デニスだってやればできます! ずーっとステファニーさんの婚約者だったんです。それが、たった一回の失敗で、今までのことが全部無しだなんて、そんなの公平じゃないでしょう? だから、彼にチャンスをあげてもらえませんか? お願いします」
私がダメだったからって、ブラッドに言っても無理だと思うの。
それにしてもあれだけ負のオーラ撒き散らしていたのに、よくブラッドに話しかける気になれたわね。
そーか、分からないのか!
空気読めないって、ある意味最強だったのね……。
「いいよ」
「ブラッド?」
「本当?」
「ヨシ!」
私は唖然とし、ブリトニーは歓喜して、デニスはガッツポーズを決めた。
そんな私たちにブラッドは完璧な微笑みを称えてゆっくりと口を開く。
「デニスは口で言って聞かせても分からないみたいだしな」
「なに!?」
この嫌味はデニスでも分かったらしい。
それをブリトニーが「剣術で決着できるんだから」と言って宥めたのだが、ブラッドがまだ微笑んだままなのを見てまた怒りを振り返した。
「ニヤニヤ笑ってんじゃねぇ」
「失礼だな。元からこの顔だよ」
「そんな訳ねぇだろ? 学園ではずっと仏頂面してんだろ?」
「授業中や実習中にヘラヘラしてたら、それこそバカだよ」
「くっそー! 屁理屈ばっか抜かしやがって!」
「キミは仮にも貴族の子弟だろ? その言葉遣いはどうかと思うけどな」
「うるせー! お前だって学園で口悪いだろーが」
「いや、俺だって学園外では弁えるよ」
もうここまでくると、ただの口喧嘩だ。
確かに学園の騎士科は平民も多く、貴族の口調で話すほうが揶揄われることもあると聞く。
だからって家に帰って来たら普通はもとに戻すものだ。
ましてやデニスは辺境伯になりたいらしいのだから、もっと気を付けなければいけないと思うのだけど……。
私がそんなことを考えているうちに、話は良く無い方向に転がっていた。
それまでブラッドにやり込められ、黙り込んでいたデニスが叫ぶ。
「何だよ。ステファニーとずっと一緒にいたのは俺だろ!? お前になんか渡さない!」
「ふーん。自分は浮気しといて良く言うな。こっちこそステフィーは渡さない!」
いったいどんな流れなのか理解できないけど、これは不味そう。
見たことないほど怒っているブラッドを私は何とかして止めようとした。
だけど声をかけようとして、一瞬だけ躊躇ってしまう。
その一瞬の隙が取り返し不可能となるだなんて思いもせず……。
「もう頭きた!」
デニスが何か白い物を握りしめ、それをブラッドに投げつけた。
それはブラッドの首元に当たり足元に落ちる。
「白い手袋……」
それを相手に投げ付ける意味は……。
「決闘だ!」
「上等だ。受けて立つ」
私はブラッドの袖を強く掴み、何も言えずに立ち尽した。
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今後もみな様に気に入っていただける作品作りを心がけようと思っていますので、よろしくお願いします。
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