6.辺境伯は誰が継ぐ?
本日2話目です。
セボスがお茶を持って来てくれたので、みんながお茶を飲んで落ち着いたのを見計らい仕切り直す。
「それで。デニスの部屋がなぜここかだけど……。前回までデニスが使っていた部屋が、本家のプライベートエリアだったのは……知っているわよね?」
「そんなの知ってるよ」
「それで。デニスと私は婚約しない事にしたでしょう? だから今回、あなたはご家族のアンバー子爵家と一緒のフロアなのよ」
「は?」
結構丁寧に説明したつもりなんだけど、ものすごく変な顔されたわ。
「ステファニーと婚約しないと、なんでここなんだよ?」
「え?」
「だから、なんでステファニーとの婚約が関係あるんだ?」
「は?」
今度は私よりブラッドのほうが反応が早かった。
しかも氷のような冷たく鋭い視線を送っている。
私は思わず息を詰めてしまったけど、デニスは何にも感じてないのかしら?
これで分からないとか鈍か……オホン、豪胆ね。
っていうか、これ以上どう噛み砕けば良いのか分からないわ。
どうしよう。
「えーと、デニスはブリトニーさんと結婚するんでしょう?」
「あぁ」
仏頂面で当然とばかりに頷かれた。
「それなら、次の辺境伯は名乗れないじゃない」
「え?」
思いっきり驚かれた。
なんで?
「デニスはグランデ家へお婿に来るはずだったのよ?」
「うん。ローマンを出て、グランデの子になるんだろ?」
「うん?」
「ガキか……?」
隣からボソッと本音が聞こえた気がするけど、聞こえなかったことにしよう。
だって冷気が漂ってる気がするから。
「デニス? 婿入りと養子は別のものよ?」
「え? 違うのか?」
「私と結婚しなかったら、次の辺境伯の父親にはなれないじゃない」
「「え?」」
異口同音に驚かれた。
デニスたちは勘違いしているみたい。
あぁ、そう言えばこの人お馬鹿さんだったわ。
忘れてた……。
私はため息を飲み込んで、デニスにも分かるように説明を始めることにした。
「だから。今の辺境伯はおじい様でしょう? それで、本当なら私のお父様が継ぐはずだったのに、前回の戦で亡くなってしまったわよね?」
「あぁ」
ここまでは理解ができてるらしい。
私はデニスが話に付いて来られているか、様子を見つつ進めて行く。
「それで、お父様の子どもは私だけだったの。でも私は女の子だわ」
「あぁ、だから一族の男子から俺が選ばれたんだろう?」
「うーん。結果だけ言うとそうだったわね」
なぜかデニスが自信満々で、偉そうに踏ん反り返っている。
私の腰に回されたブラッドの腕に力が入ったので、そっと撫でて宥めたが、その表情は険しくなる一方だ。
「だったら、やっぱり俺がこの部屋ってのは間違いだろう?」
今度はブリトニーの勝ち誇った微笑みをもらってしまった。
意味が分からない……。
「なんでそうなるの……」
「はぁ? だって次期辺境伯なんだから、東棟の部屋以外あり得ないよ」
はぁー。
今度は堪え切れずに思いっきりため息が出た。
どうしたらこの国の貴族の継承順位をその頭に叩き込むことができるのかしら?
ホント、この人どうなってるの?
その頭一回かち割って中身を確かめてみたい……。
私はこめかみを揉みつつ、詳しく解説を試みる。
「よく聞いて? 辺境伯のおじい様に私という孫がいるの。だけど女子だから直接継ぐ訳にはいかないでしょう?」
「だから俺が継ぐんだろ?」
「いいえ違うわ」
「違う? 何が違うんだよ?」
うんざりして否定すると、初めてデニスが不思議そうな顔をして首を傾げた。
金色の髪が揺れ、藍玉の瞳が困ったように曇る。
あら、ブリトニーがうっとりして、見惚れてるわ。
なるほど、彼女はまだ耐性がないのね……。
このデニスってヤツは、無駄に見目良い容姿を受け継いでるから、こういう仕草をされるととても絵になる。
今までこの容姿で何回誤魔化されて来ただろう?
でも婚約者じゃなくなった今、『可愛いからまあ良いか』だなんて、私はもう絆されたりしないわよ?
「辺境伯を継ぐのは、私が将来産む息子の父親よ? それも子供が成人するまでの限定措置なの」
「ん? だから、結局は俺が継ぐんだろ?」
ミシッ……。
椅子の肘掛けをブラッドが思い切り握ったらしい。
怖くて見れないけど、冷気で背筋がゾクゾクする。
「なぜ? デニスは私とは結婚しないんでしょう? そしたら私の子供の父親になんてなれないじゃない」
「ん? あ、そうか……」
のほほんと答えるデニスを見て私は脱力する。
ブラッドも馬鹿馬鹿しく思ったのか、大きく鼻から息を吐き出した。
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今後もみな様に気に入っていただける作品作りを心がけようと思っていますので、よろしくお願いします。
本日は複数回投稿を行なっていますので、話数をお間違えの無いようにお願いします。