4.新しい婚約者
本日4話目です。
そしてトントン拍子に準備が調い、私とブラッドリーは正式に婚約者となった。
それからのブラッドリーは、私との距離感をガラッと変えてきた。
「婚約したんだから、ブラッドって呼んでよ」
「わ、分かったわ」
「ほら、呼んで」
「え? ……あの、ブ、ブラッド?」
「うん、いいね。ステフィー?」
「ススス、ステフィー!?」
「グランデ卿が、君の愛称だって教えてくれたんだけど……嫌だった?」
「ぜんぜん。嫌じゃないわ」
「そう。なら良かった」
そう言って手を取りその指先にキスを落とす。
全身に震えが走り、頭がクラクラしてきた。
私にはまだ早いんじゃなかろうか?
「真っ赤になってる……かわいい」
今度は抱きしめられた。
ひえぇ〜。
あの、慣れてないんです。
もうちょっと、ゆっくり進めて欲しいんですけど……。
「初めて会った時から、俺はステフィーを気に入ってたんだよ?」
「え? そうなの?」
「うん。だから縁談が来た時、真っ先に手を挙げた」
ん?
真っ先?
手を挙げた?
「どういうこと?」
頭の上へ盛大に、はてなマークを打ち上げた私はこてんと首を傾げてしまった。
「グランデ辺境伯令嬢の婿にと打診が来たのは、ローマン伯爵家──つまり本家に届いたんだ」
「本家……ブラッドのお父様は本家の次男だったかしら?」
「あ、俺の話ちゃんと覚えてたんだな」
以前学園で話したことなので、聞き流していると思っていたようだ。
でも私も、きっと最初からブラッドが気になっていたんだと思う。
だって、彼が話したことは些細なことでも覚えてるから……。
「従兄弟含め五人の中から選ぶって聞いたから、ほかの四人は訓練の時にこっ酷く負かしてきた」
「えっ……大丈夫なの? その人たち……」
サミュエルとグイドからの情報によれば、ブラッドは剣術も体術も相当に強いらしい。
その彼が『こっ酷く』と言うのだから穏やかではないだろう。
「大丈夫じゃないか?」
「あんまり無茶はしないでね」
「ステフィーが手に入るなら、少しくらい無茶もするさ」
「もう……」
「本当だよ。ステフィーは?」
「え?」
「俺の奥さんになるのは嫌?」
真剣な目で見詰められてジワジワと頬が火照っていく。
「そんなことない……」
「俺は、ステフィーと結婚したい。家同士の繋がりが必要なのは確かだけど、でもそれより何より、俺はキミが好きだ」
「……私は……」
「良いよ。今はまだ。でも、俺はステフィーが好きだから結婚したい。それは忘れないで?」
「あの……気になってるの。ブラッドが……」
「え?」
「だから……ブラッドのこと、ステキだなって思ってるから……だから……」
その先の言葉は言えなかった。
ブラッドに抱きしめられたから。
「……嬉しい。今はそれで十分だ」
そう言って、ブラッドは頬にキスした。
ただの婚約者同士のキスにしては吐息が熱くて、背中までゾクゾクするようなキスで。
彼の言った事が本当だと信じないわけにはいかないと思った。
「ちょっと……びっくりしてるの」
「あ、ごめん……」
「そうじゃなくて。ブラッドが私を……だなんて、思ってなくて……なんだかまだ実感が湧かなくて。だから……ゆっくり仲良くなりたいって思ってる」
「……分かった。でも、少しずつなら良い?」
「……うん」
ブラッドが私の顔色をうかがいつつ、抱きしめ直して……こめかみやおでこにキスを落とす。
「あ、え? これ……ゆっくり……?」
「うん。……練習」
「れ、練習!?」
「政略結婚だなんて、絶対思われたくないんだ」
そう言われると止めにくい。
両家の間では結婚の条件とか取り決めとかがされているから、ほとんどの人に政略結婚だと認識されるだろう。
それを覆して恋愛関係があると示すには、本人たちがよっぽど仲良く見せる以外方法がない。
「……お手柔らかに」
私は最大限の譲歩をするのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
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今後もみな様に気に入っていただける作品作りを心がけようと思っていますので、よろしくお願いします。
本日は複数回投稿を行なっていますので、話数をお間違えの無いようにお願いします。