表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/37

35.ドナドナ再び〈ブリトニーside〉

〈ブリトニーside〉



 王都から馬車で揺られて丸一日。


 その間一度も、私は馬車を下ろしてもらえず、この無駄に豪華な車内で過ごした。


 丸一日よ。


 私を一体なんだと思ってるのかしら?


 食事はパンとチーズ一切れのみ。


 飲み物は冷めた紅茶とお水だけ。


 しかもトイレに行きたいって言ったらどうなったと思う?




「バスルームですか? 体を清めたいのでしたら、明日までは無理です」


「体を清める!? そうじゃないわよ! ちょっと考えたら分かるでしょう?」


「はぁ……」




 もう、察しが悪いわね。


 バカなの!?


 頭にきて怒鳴ったら、お腹に力が入って余計に辛くなったじゃない!




「俺たちは雇われ御者でね。この馬車の鍵は開けちゃいけないって契約なんで。それにカギ預かってませんしね」


「はぁ? 開けられないの? そ、それじゃあ……***は、どうするのよ……」


「え? 何ですか?」


「だ、だから……」


「だから?」


「トトト、トイレよ!」




 恥ずかしくって情けなくって、涙目で叫んだわ。


 なのに……。




「あ〜ぁ。便所ですか。それなら座席を持ち上げてください」


「座席? 座席って……この重そうなのを?」


「はい。多分前側のを開けるとあると思いますよ?」


「……」




 私はもう限界が近付いていて、これ以上この男に文句言ってる場合じゃなかったの。


 だから目の前の座席を急いで調べたわ。


 勢い付けて押し上げたら少し座面が持ち上がって、光が差した先に見えたのは、ヤケにリアルなアヒルのお顔。




「ア、アヒル?」




 何でこんなところに陶器製のアヒルの置き物が?


 まさか!




 嫌な予感て大体当たるってなんでかしら?


 もっとチカラを入れて半分くらい押し上げたら、そこにあったのは……。




「何これ、オマルじゃない!」




 しかも、誰が用意したのか、お高そうで芸術性溢れた感じの仕上がり。


 私にこれで用を足せと?


 まさかの展開に呆然としていられたのは僅かのこと。


 私の生理的欲求は限界に近かった。




「ちょっと、本当にコレなの?」


「あ、ありました? それ使ってください。俺たちホント、鍵開けられないんで」


「そんなぁ……」


「あ、それともうすぐ休憩終わりです」


「休憩が終わる? それが何か……?」


「え? 走り出すと多分用足すの大変だと思いますんで、今のうち済ましたほうが良いんじゃないかと……」




 思わずギョッとして振り向けば、上品そうなアヒルと目が合った。




『乗る?』




 染料で書かれた目で、そう聞かれた気がした。




 あ、あんたに私が跨るの?


 コレしかないの?




 でも背に腹は代えられない!


 私はプライドをかなぐり捨て、ソレを使うべくあと半分を押し上げる。


 


「何で!? コレ最後が一番チカラ要るじゃない!」




 これ以上お(なか)にチカラを込めると大惨事になりそうで、私は必死に絶妙な均衡を保ちつつ、危機的状況を打破するため頑張る羽目になったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ