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30.舞台裏

〈第三者side〉




 学園に併設された男子寮、中でも伯爵家と同等以上の地位や財産を持つ家の子息が多く住まう建物の一室に、三人の男子生徒が集まっていた。




「どうだ?」




 白金(プラチナブロンド)の髪に灰青(ブルーグレー)の瞳をした青年が、彼の侍従と思われる茶髪に栗色の瞳をした男子生徒に聞いた。




「はい、順調です。()()は不審に思っていません」


「そうか。もっと手こずるかと思ったけど、案外早かったな」




 薄く(わら)う主人が、今度は隣に座る黒髪に蒼玉(サファイア)の瞳の友人に話しかける。




「あんなのでその気になるって、やっぱり彼女をあいつに任せる訳にはいかないだろ?」


「ふぅーっ。そうだな。でもこれで踏ん切りがついたよ。もう迷わない」


「お前がやる気になってくれて良かった……」




 白金の髪をした青年は満足そうに頷くと、茶髪の青年に尋ねる。




「ちなみに、彼女にはなんて言ったんだい?」


「決めたセリフ以外は、特に……」




 そう言いながらも、桃金髪(ピンクブロンド)の髪と紅玉(ルビー)の瞳の男爵令嬢について、主人に詳しく報告するべく語りだした。




  * * * * *




 学園に編入したブリトニーは、女生徒の輪に馴染めずに居た。


 そこに近寄って行ったのは彼女の美貌と可愛らしい仕草に惹かれた多くの男子生徒。


 瞬く間に人気者となったブリトニーは、仲良くしてくれない女生徒など放って男子生徒と多くの時間を過ごした。


 そんな彼女は父の命を受け、財力と地位を併せ持つ家の嫡男と結婚するために、なるべく良い人脈を辿っていく。


 しかしそんな大物の嫡男は、滅多に隙を見せない。


 楽しく遊ぶ事はしても、ブリトニーと婚約しようとする者は現れなかった。


 それまで貴族社会どころか上流社会ですら過ごした経験の無い彼女は、下町で暮らしていた時のように自分にデレデレになって何でも言う事を聞いてくれるような青年が現れずイライラし始める。




 そんな彼女はある日、茶髪に栗色の瞳で何の特長も見当たらない男子学生から声を掛けられた。




「ブリトニー嬢は下町で育ったって本当かい?」


「え? どうしてその事を……?」




 驚きと警戒を露わにしたブリトニーは訝しげに彼を睨んだ。


 するとその男子生徒は慌てて身振り手振りで否定する。




「言いふらしたりするつもりは無いよ。えーと、ただ前に下町で助けてくれたのはキミじゃないかって思っただけで……」


「……助けてくれた?」


「うん。て言うか、その時僕、金髪に藍玉(アクアマリン)()をした男の子と一緒に居たんだけど……覚えてないよね?」


「え? 金髪に藍玉(アクアマリン)()?」


「うん」




 そう言われたブリトニーは、下町時代の記憶を掘り返してみた。




 * * * * *




 自分の記憶を探っていたブリトニーはやがて、下町の中でも治安の悪い路地裏で迷子になっていた、身なりの良い男の子三人を助けた事を思い出した。




 それってもしかして『私の王子様』のこと!?




 その三人の中の──多分一番身分の高い男の子。


 彼は絵本から抜け出たと言われても信じてしまいそうなほど、本当の王子様のようにカッコ良かった。


 こんな綺麗でカッコ良い男の子は見たことが無くて、将来こんな人と結婚できたら良いなぁと夢見たのだ。




 しかしそのほかの二人については……。




 申し訳ないが、ブリトニーはまったく顔を覚えていなかった。


 でも目の前の彼がブリトニーを覚えていてその時の男の子が自分だと言うのだからそうなのかもしれない。


 そして彼があの時の子なら『私の王子様』の友だち──少なくとも知り合いなのだ。




「アー! アノトキの オトコのコ? ワー、ナツカシイワ」




 茶髪の彼は、彼女の棒読みに必死で笑いを()えた。




「やっぱり。あぁ、僕のこと覚えててくれたんだね? 嬉しいよ」


「モチロンヨ ワタシも ウレシイワ」




 こうしてブリトニーは、この何の特長も無く記憶にも残っていなかった彼から『私の王子様』の事を聞き出すことにした。


 だが……。




「もう! 使えないわね」




 茶髪の男子と別れたあと、ブリトニーは寮の自室で悪態を()いていた。




「せっかく、『私の王子様』にまた会えると思ってたのに、友だちじゃなかったなんて……」




 彼女は手に抱えた、極彩色でカラフルな蛇のぬいぐるみをボスっと殴った。


 先ほどせっかく掴みかけたと思った手掛かりが、呆気なく途切れてしまったのだ。


 茶髪の彼は、あの日たまたま『私の王子様』と一緒に行動していただけで、彼は直接『私の王子様』と友だちではなかったのだと言う。


 あの『私の王子様』は子爵家のご子息だそうで、富裕層とはいえ、一介の商人の息子風情が紹介するのは難しいらしい。




「貴族が何よ、階級が何よ。も〜お! 絶対玉の輿に乗って、私が偉くなって、誰にも文句言われなくなってみせるわ!」




 またボスッと蛇の腹目掛けて拳が叩き込まれた。


 たぶん最初はパンパンに膨れていたであろう蛇さんは、長年サンドバックにされていたようで、今やグテッとひしゃげていて悲壮感が半端ない。


 そのかわいそうな蛇さんを何度もボスボス叩き、引っ張り、ブリトニーは必死に頭を働かせる。




「でも『王子様』の名前は分かったわ。デニス・アンバー様! あぁ、きっとあの時よりもっとステキになっているでしょうね♪」




 ブリトニーはさっきの男子から聞いた情報をうっとりと思い返す。




 アンバー家が騎士で有名な家である事。


 今は子爵三男だが、将来は祖父のグランデ辺境伯を継ぐ事。


 現在は学園の騎士科に在籍していて、学年一どころか学園内でも一番の剣の使い手だと噂されている事。




 そのどれもがブリトニーのお眼鏡に適う、素晴らしい結婚相手だ。


 これは何とかしてデニスに会い、あの時の出逢いが運命だったと思ってもらわなければならない。


 ブリトニーはこの日から、ほかの結婚相手の候補者を捨て『私の王子様』を手に入れるべく行動を開始した。


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