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29.出逢い〈デニスside〉

〈デニスside〉




 俺は生まれてからずっと、南の辺境伯領で育ってきた。


 それはおじい様が直接俺に剣を教えるためだ。


 アンバー伯爵家三男の俺は、同じ年に生まれた本家──グランデ辺境伯のステファニーと結婚することが生まれてすぐに決められた。


 だから、おじい様って言っても、実際には本家の当主で、俺は本当の孫じゃない。


 だけど俺はそんな事知らなかったし、それが特に何か重要な事だとも思ってなかった。




 ただ『大人になったらステファニーと結婚して、俺が辺境伯になる』って、そう思ってたんだ。




 そんな俺も十五歳になって、王都の学園に行くことになり、寮生活が始まった。


 ここで俺は初めて、おじい様の訓練が普通じゃ無かったことを知る。


 始めはみんな、ふざけてるのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。




「騎士科()めてた……」


「もう走れない!」


「え……これから腹筋? 嘘だろ!?」


「素振り千回は……死ねる」


「は? 休み明けから遠征!?」




 せっかく休みの日に遊ぼうとしても、あいつら筋肉痛やら体力限界で一日中ダラダラしてるから、俺はひとりでヒマだった。


 だから街にひとりで遊びに行ったりしてたんだけど、毎回女の子に囲まれるようになった。


 


「デニス様。すごくお強いのですってね」


「デニス様って絵本に出てくる『白馬の王子様』みたいですわよね?」


「私、デニス様とお話ししてみたかったのです!」


「もし宜しかったら、これからカフェに行きませんこと?」


「まぁ、今は(わたくし)とお話ししていましたのに、日を改めて下さいませ」


「えぇー。あなたついこの間、中庭でデニス様を独り占めしたばかりでしょう? ルールは守って頂きませんと……」




 俺が特に返事しなくても、女の子たちは勝手に寄ってきて、勝手に喋り出す。


 そして俺に気に入られようとして、喜ばせる事を競い合ってやる。




 最初はビックリした。




 俺の知ってる女の子って辺境伯領の子たちだけだったし、特にステファニーは家庭教師より口(うるさ)かったから。


 その点、学園の女の子たちは華やかだし、優しくしてくれるし、すごく褒めてくれるし……あと柔らかくて、スゴく良い匂いがする。


 それに女の子に取り合いされるのも、なんかすごく気分がいい。


 ステファニーももう少し俺の言うこと聞いてくれたり、可愛く話しかけて来たら良かったのに……。


 まぁとにかく、俺は訓練して女の子と遊んで……そんな生活を繰り返し、学園生活を満喫していた。




 * * * * *




 そんなある時。


 俺の側近候補の学友から『女の子と遊んでるのが噂になってる』と聞かされた。




「まだ一部で噂になっているだけなので、今のうちにお()め下されば、ステファニー様や辺境伯の耳には、入らないようにできますから……」




 正直(うるさ)いと思ったけど、おじい様に言い付けられると……ヤバい事になる。


 仕方ないから、学園のご令嬢と遊ぶのは控えるようにした。


 だけどその頃には街のほうで大勢知り合いができてたし、平民の女のほうがもっと良い事して遊ばしてくれたから。


 まぁ良いかって……。


 そんな感じで暮らしてたら、学園入って一年なんてあっという間だった。




 そして学園生活二年目が始まった。




 その日は街まで行くほど時間は無かった。


 だから学園内で平民の女の子を引っ掛けて遊ぼうかと思ってフラフラしていたら……。


 見覚えのある桃金髪(ピンクゴールド)の髪の子が歩いて来た。




「え? デニス?」




 うろ覚えの記憶を手繰り寄せ、彼女の名前を引き出しの奥から引っ張り出す。


 この子は確か……。




「やぁ、えーと……」




 ブサ……ブス……ブタ……じゃなくて


 ブリトー? でも無くて……。




「あっ! ブリトニー!?」


「わぁ。覚えててくれたんだぁ! 嬉しい!」


「そりゃあ、ブリトニーみたいにかわいい子は、忘れたりしないさ。アハハ……」


「うふふ。ありがとう」




 危なかったけど、思い出せたんだからセーフだろ。


 まぁ、この子はちっとも気付いてなさそうだから大丈夫。


 って言うか、平民の彼女がなんでここまで入って来てるんだ?




「ブリトニーって、ここの生徒だったのか?」


「うん。私、今年から商業科に編入したの」


「へぇ。そうなんだ」




 この子、貴族のご令嬢だったのか……。


 それにしては所作が滅茶苦茶で、このギャップは面白いな。


 知らずに一回遊んだ気がするけど、俺……ヤバイことしてなかったよな?




 そんな事を考えて一応確認すれば、どうやら男爵家に引き取られた元平民だったらしい。




 なら……ギリセーフ?


 って言うか、この子距離感近いな。





「ねぇ、偶然また逢えたなんて、私たち、運命で繋がれてるのかも!」


「そうかな……」


「そうよ。きっと神様が逢わせてくれたのよ」


「えっ! そうか?」 


「ね、時間あるならゆっくり話せるところ行きましょう?」




 ブリトニーは満面の笑みを見せ、俺の腕にユッサユッサしてる彼女の胸を押し当ててくる。


 うん、コレは悪くない。




「……まぁ、良いか」




 また男どもに『羨ましい』と言わせる事ができそうだとほくそ笑む。


 俺は良い気分で彼女と一緒に、騎士科の連中から一番目に付きそうな庭園へと歩き出した。

 

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