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28.始動〈ブラッドリーside〉

 デニスが婚約者以外と遊んでいる?




 それを聞いて胸が痛くなった。


 その事に俺自身が驚いている。




 あいつは顔だけじゃなく、外見全部が理想の王子様そのものだって騒がれていた。


 だからモテるのは分かる。


 分かるが……彼女ともうすぐ正式に婚約するのに、それは『無し』だろう。





 そう思ったら、腹の底からムカムカしてきた。


 彼女のどこが気に入らないんだ?


 ん?


 ちょっと待て。


 なんで俺はこんなに怒ってる?




 それを考えて、自分の本心に気が付いた時、ぶわっと震えが来て顔が熱くなった。




 あ、ヤバい。


 今、顔上げらんないかも。


 ……俺、彼女の事……好きだ。




 あんなに綺麗で可愛い子、そうそうお目にかかれないし、グイドがメイシー嬢(がら)みで話す内容を聞くに、性格もおかしな所は見つからない。


 むしろメイシー嬢が気に入るほどの良い子で、それは語られるエピソードの端々からも(うかが)えた。




 デニスと特別仲が良い訳ではないらしいが、でも親の決めた相手なら普通はそんなものだ。

 

 それなのに、あいつは彼女には見向きもせず、寄ってくるもの拒まず状態だという。


 って言うか、この騎士科の殺人的スケジュールの中、女の子と遊び回ってるのか?


 あの貴公子然とした体のどこに、そんな力が余ってるんだよ。




「デマじゃないぞ」




 いや、疑ってないよ。


 お前の顔見たら本当だってことは分かるから……。




「……なんで俺に?」


「いや、だって……お前、気になるだろ?」




 グイドは当然だと言わんばかりにそう言った。




「……まぁ」


「まだ伯爵家以上の、それも男の間でしか出回ってない話だ。でもそのうち、ほかにも漏れるけどな」




 そう言ってこっちを見られても……。


 俺に何を望んでるんだ。




「いや、だから……なんで俺に言うんだよ」




 あ……目を逸らされた。




「……メイシーがさ。すごく気に入ってるんだよ、ステファニー嬢」


「うん」


「良い子そうだしさ、俺もメイシーの友だちとして歓迎してる」


「……うん」


「で、たぶんその内、ご令嬢方のほうにもこの噂、回り始めるよな?」


「うん?」


「そしたら、あのバカ野郎の事、聞きたがると思うんだ」




 まさか、それを俺たちでやろうとか、言わないよな?


 いや、それはマズいだろ。




「……ちょっと意味分かんなくなってきたかも」


「お前、もう分かってるよな?」


「いや、分からない」


「えぇー。そんなわけ無いだろ」


「ナンのコトか マッタク ワカラナイな」




 俺はシラを切り通した。


 グイドは常識人に見えて、メイシー嬢の事が絡むと一気に壊れる。


 今回も可愛い婚約者のために、俺らを巻き込む気満々だ。


 たぶん、そのバカ野郎の素行を把握しといて、一部始終の情報を渡せるように用意したいんだろう。




 だったら今すぐ教えてやれば良いと思うのだが、それをすると後々禍根(かこん)が残る。


 そのバカ野郎が辺境伯(ゆかり)の者で、(ぶっと)(えにし)で繋がれてるからだ。


 そうなると自分自身に──()いては伯爵家に跳ね返って来る可能性がある以上、自分から情報を漏らす真似はできない。


 それを俺に言って来るってことは……。




 * * * * *




「なぁ、彼女が可哀想だと思わないか?」


「今は……噂なんだろ?」




 グイドに黙ってもらえた。


 俺はここで話をぶった斬りたい衝動に耐える。




「このままその二人が結婚したとして、うまく行くと思うか?」


「……聞かれても困るが、それは誰にも分からないだろ?」


「でも、何も知らずにそんなことされて、可哀想だろ?」




 俺だってそんなふざけたヤツと結婚するのは許せないと思う。


 だけど何も繋がりの無い俺が、何かして良いとも思えなかった。


 彼女が何か言ってるならともかく、今の段階では誰も何もできないのが現状だ。




 あぁ、でも一つできるとすれば。




「……アイツのお仲間に忠告するほうが、メイシー嬢に喜ばれるんじゃないか?」


「……それは別口でやってる」


「え!? ……さすが」




 グイドって有能ではあるよな。




「じゃあ、それこそ、何もできないだろ」


「でも……気になるだろ?」




 気になるか、ならないかって言われたら、なるに決まってるだろうけど……。




「……気にしても、しょうがないだろ? 今の俺は、友だちでも知り合いでも無いんだぞ?」




 グイドは下を向いて考えてるみたいだけど、どんなふうに言ってこられても変わらない。


 友だちの婚約者の、そのまた友だちだ。


 どう考えても俺が手を出すべきじゃない。




「……秋にさ、俺、領地行くんだ。その時お前も一緒に行かない?」


「はぁ?」




 また唐突に話変えやがった。


 今度はなんだ!?




「今年は、東の辺境伯騎士団の団長が来るから、サミュエルも声かけた」


「良いけど……俺、邪魔になんない?」




 東の辺境は一番危険度が低いが、魔物狩りで手柄を挙げる事もできる。


 きっとグイドは、サミュエルに褒賞付きで騎士伯を取らせようと、東の辺境騎士団に口利きするつもりだろう。




「そうじゃなくて……ブラッドリー。お前も一緒に行けよ」


「……辺境騎士団に?」




 グイドが大きく頷き、真剣な眼差しで見詰めてくる。




「……試してこいよ」


「えっ……?」




 俺、そんなに分かり易かったかな?


 でも長男が義務とか責任とか、全部放り出してまで行ったらまずくないか?




「弟も居るんだろ? それに手柄挙げて帰って来れば問題ない」


「どんな論法だよ。でも、必要ないことわざわざしなくても……」


「本当に必要ないのか?」


「…………」


「言い訳して、彼女を諦めるんだ?」




 どこから勘づいてたんだよ……。


 俺だってさっきの噂聞くまでハッキリ自覚なんてしてなかったのに……。


 そりゃあ、言えるもんなら『デニスが要らないって言うなら、ステファニー嬢は俺にくれ』って言えるようになりたい。


 爵位もらえるくらい目立つ成果を上げれば、デニスと同じ土俵に上がれるのか?




「辺境騎士団行って手柄立てても、子爵止まりかもしれない」


「あのバカは伯爵家の三男だ。本人が爵位持ちなら子爵だって騎士伯だって、余裕で婿入りできるって」


「でもそれじゃあ間に合わないだろう?」


「だから学園に居るうちに仲良くなっとくんじゃないか」


「えっ……?」




 それはダメじゃないか?


 でも……。


 デニスが自分からあの場所を捨てるなら、俺が拾っても良い?


 最初から諦めるよりは良いかもしれない。




「って事で、あのバカ野郎の情報集めと、証拠集め、始めるぞ」


「え?」


「メイシーの友だちだからな。そんな良い加減な奴と結婚なんて俺がさせない。友だちが不幸だとメイシーに余計な悩みが増えるだけだ。分かったな?」


「お、おう……」




 暴走モードのグイドに反抗はしないに限る。




「俺たちが何かしたりした訳じゃない、あいつがやらかしたんだ。それで婿の座から下りてもらえるんなら、お膳立てくらいしてやろう」


「……それは有りか?」


「浮気したのが悪い」


「確かに……」


「ブラッドリーのためにも、俺たち頑張るから」


「どうも……??」




 俺はこの時グイドに丸め込まれた。


 でもこの時この会話をしなかったら、ステファニーの隣に立つ事は一生できなかったかもしれない。


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