24.父上の自慢〈ブラッドリーside〉
〈ブラッドリーside〉
ローマン騎士伯家の朝は早い。
しかし学園で寮生活を送る俺は父上を始め弟たち、そして父上の弟子たちと、早朝から訓練するのは久しぶりのことだった。
ひと汗かいて木陰で弟たちの立ち合いを見ていると、同じ目的でこちらに歩いて来た父上が話しかけてきた。
「グランデ辺境伯領はどうだった?」
「遠かったけど、それ以上に広かったよ」
「そうだろうな。あの領はまだ戦闘が無くなることはない。危険ではあるが、お前ならきっと大丈夫だ。それにステファニー嬢と上手くやっているそうじゃないか?」
やっぱりそっちが本命か。
予想していたが、まさかド直球で聞かれるとは思わなかった。
俺は苦笑して「まあね」とだけ返したが、どうやらそれでは気に入らないらしい。
「ローマン伯爵本家の子や、他の分家の子も黙らせてまで手に入れた場所なんだろ?」
「……伯父貴から聞いたの?」
「兄上がボヤいてたよ。最初は向こうから指名が無かったから、それならロバートを行かせようと思っていたらしい……」
「……ダメに決まってるだろ」
* * * * *
ロバートはローマン伯爵の次男で、俺より一つ年上の従兄弟だ。
しかし、ローマン一族の俺たちの世代では下から数えた方が早いほど、剣技に関してはセンスがないので有名だった。
ローマン一族は騎士の家系。
伯爵の後継でさえ、若い内は近衛騎士として仕えるくらい肉体派の家である。
男として生まれたからには近衛騎士、憲兵団幹部、王国騎士団、地方にある七つの騎士団のどれかには入る。
そして、国内屈指の強者が集められ、実戦が多く手柄も立て易い、だからこそなのか入団規定と試験が一番難しいのが辺境騎士団だ。
実力重視なら絶対に入ってみたい辺境騎士団の人気は凄まじい。
東西南北に配置された中でもグランデ辺境伯騎士団は一番人気で、その後継者の婿に入れるとなれば、相当熾烈な戦いとなっても不思議じゃない。
なのにそこにロバート?
それは無理だろう。
でも、そんなロバートだからこそ、伯父貴は良い婿入り先を見つけてやりたかったのだろうけど……。
相手がステフィーだった時点で譲るのは無理だ。
大体あんなヤツ、辺境なんかに行ったらすぐ挫折するだろ。
「まぁ結局、グランデ辺境伯からの指名はお前になったんだから、どっちにしてもダメだったがな」
「あぁ、でも先にボッコボコにしといたから、話は早かっただろ?」
「ハハハ……。鍛錬の立ち合いで#アレ__・__#は……。さすがにもう、誰も何も言わなくなるさ」
手加減なしに容赦なく負かしまくったのはヤリ過ぎかもしれないが、実力差を見せつけて置くこともたまには必要だ。
そのお陰でステフィーに集りそうな害虫の駆除を#心良く__・__#引き受けてもらえたんだし。
俺がグランデ辺境伯に気に入ってもらえた暁には、アイツらには辺境騎士団への推薦状をお礼に融通してやろうかな?
入れるかどうかはアイツらの実力次第だ。
あとの事は知らん。
「まぁ、誰が推薦されたとしても、選んだのはステファニー嬢だったそうじゃないか」
「それは本人から聞くまで、夢にも思わなかった。そうでなければ#あそこまで__・__#してないしな」
「私だって、今さら愚痴を言われても困るというものだ」
遠い目をしてしみじみ言えば、父上も辟易した様子で嘆息した。
「でもロバートだって見た目は良いだろう? 魔法攻撃込みの実力なら、アイツって選択肢もありだった」
「おや、お前でもそんな弱気になる事もあるのだな」
「俺は別に自信家じゃ無いよ」
「しかし、実際に選ばれたのはお前だろう? という事は、ステファニー嬢の好みが当て嵌まったのはお前なんだから、もっと自信を持っても良かろうに……」
「ただ俺が、学園で友だちになってたから……他よりはマシだと思っただけかも知れないだろ?」
「ふーん。まぁ、お前がどう思おうと勝手だが……私は選ばれたお前を誇りに思うよ。私の息子がブラッドリーで良かった」
父上はそう言って、もう自分と変わらないほどデカく育った俺の頭を撫で回してくる。
俺は照れ臭くて嫌なのに、その手をどうしても振り解くことができなかった。




