23.ドナドナ〈ブリトニーside〉
いよいよ〈ブリトニーside〉の最後です。
〈ブリトニーside〉
ジリジリと近寄ってくる護衛に怯える私。
「ななな、何よ! それ以上近寄らないで!」
護衛たちは困ったようにお父様を振り仰いだ。
しかしお父様は動じずに威厳たっぷりで言い放つ。
「ブリトニーがゴールディー準男爵に嫁げば、君たちの給与も上げられるんだよ? ほら、さっさと捕まえて早く馬車に乗せなさい」
「「ハイ!」」
護衛たちは一転して覚悟を決めたらしい。
さっきまでとは気合の入り方が違ってる。
「何それ!? お父様、ひひひ、卑怯よ!」
「何が卑怯なんだ? 有効な手立てはすべて使うべきだろう?」
正気を疑う言動に、私は怒り心頭で喚き出す。
「だ、だって約束はどうしたのよ?」
「ん? 約束? 何だったかな?」
「と、惚けないで! 学園に居るうちに自分で相手を探せば、その人と結婚しても良いって言ってたでしょう!?」
「あぁ、あれかぁー」
普段の私から想像付かないほど怒り狂って叫んだからか、お父様も多少何か感じるところがあったようで考え込む。
そして……。
「あの時はもう少し肉付きが良くないと、ゴールディー準男爵には勧められないと思ったんだが、最近のブリトニーを見るに、もう大丈夫そうだと思ってね」
そう言って舐めるように私の上半身を眺めてくる。
私もそれには心当たりがあり、思わず体の前で腕を交差して該当部分を隠してみた。
お父様と護衛が残念そうに揃って眉尻を下げたが、精神衛生上良くないので見なかったことにしよう。
「準男爵は十代後半から二十代後半までの子にしか興味が湧かないようでね。親族はみな手を焼いているらしい。でも今のブリトニーなら、この男爵家の財政を元に戻せるだけの支援をしてもらえるんだよ」
「なに都合の良い事ばっかり言ってるのよ!」
「えぇ? これはウィン・ウィンの関係だよ? あぁ、それにブリトニーも今より贅沢させてもらえるし、キミにも利点はあるじゃないか」
「だからって……私にだって好みってものがあるんです! 誰でも良い訳じゃないわ」
半分涙目で訴えてみるも、お父様はハァ~っとため息を吐いた。
「これだから庶民出身は困るね。良いかい? 貴族の令嬢はね、父親が持ってきた縁談は断ってはいけないんだ。 そこのところを忘れたらいけないよ?」
「そ、そんな……」
* * * * *
貴族籍に入る、それは『家の利になる結婚をすると誓うこと』と同義だ。
その約束ができるなら、今までキミが味わった事のない裕福な暮らしを約束しよう。
私がこの家に引き取られて、一番最初に言われたことだ。
でもお父様は今まで私を自由にさせてくれていたから、すっかり忘れていた。
もしかして、本当にもう逃げられないのかしらと弱気になる。
「言い忘れたけど、ブリトニーは十七だろう? 多分十年もすれば飽きて解放してくれるよ。 あ、でもキミは童顔だったね。まぁ、少し長引くこともあるかもしれないが……大した誤差じゃないから良いよね? その間うーんと良い暮らしもできる訳だし、交渉によっては慰謝料もたくさんもらえるよ」
「慰謝料?」
「そう。まぁ、頑張ったご褒美みたいなものかな。そうしたらあとは好きに暮らしたらいい。その代わり、あっちでは準男爵に頑張って寵愛してもらいなさい。結婚している間はフォールン男爵家を援助してもらえるように頑張ってくれないとね」
「なに勝手なこと……」
「もう話は済んだから、馬車に乗せてくれ」
「え?」
文句を言ってる最中にお父様が命じたものだから、私は護衛の男に担ぎ上げられ、有無を言わさず運ばれてしまう。
「ちょっと、止めて! 下ろして! 嫌よ。私行きたくな〜い!」
「もう婚約の書類は交わしてあるから、早く諦めたほうが身のためだよ?」
「う、嘘でしょ!?」
「嘘なもんか。結婚式はキミ次第だ。大人しく従順にしてたら、盛大にやってくれるよ。ドレスだって好きなのを作ってもらえる。次に会えるのがいつになるか分からないけど、達者でな」
満面の笑みで手を振るお父様が段々小さくなる。
通り過ぎるたびに使用人たちが深々と礼を取っていた。
誰も助けてくれない!?
なんで?
愕然として抵抗すら忘れた私の視界に、下町仲間の少女の顔が映り込んだ。
私は一縷の望みを賭けて呼びかけた。
「ちょっと! 助けて! ねぇ、私たち友だちでしょ?」
しかし彼女はニッコリ笑い首を横に振る。
「え……?」
「お嬢様、あたしはただの使用人ですよ?」
「へ? だ、だって、内緒の下町仲間って……」
「嫌ですよぉ。お嬢様はあたしの名前も知らないじゃないですかぁ〜。友だちの名前知らないなんて有るはず無いでしょう?」
「え? あ……名前……」
「それよりありがとうございます。お嬢様のお陰で仕送り増やせます! どうかお元気で……最低十年間は健康で生きてて下さいね♪」
「ちょっと、あの、待って……」
私が暴れるのを忘れていたからか、それともあの子と話をしていたからか、止まっていた護衛がまた歩み始めた。
「キャー、誰か助けて〜!」
そんな叫びも虚しく、私は流れるような動作で馬車に押し込められ、無情にも外からカギまで掛けられた。
窓のカーテンを開けても、ガラスの外はご丁寧に鎧戸まで閉められていて、簡単には抜け出せないようだ。
もっと早くに妥協してでも、とっとと誰かの婚約者になっておけば良かったと後悔したがもう遅い。
無駄に高級な揺れの少ない馬車に乗せられて、私は存分に子牛の気分を味わうことになったのだった。
本編はここで一区切りです。
次回からは他の登場人物の目線で、物語の裏側が語られる事になります。
もう少しお付き合い頂けたらと思っています。
今後ともよろしくお願いします(❀ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾ᵖᵉᵏᵒ




