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2.新たな出会い

本日2話目です。

 げんなりとした私が戻って来ると、そこには心配そうなシンシアと興味津々なメイシーが待っていた。



「それで、どうでしたの?」


「うん。やっぱりシンシアの言った通りだった」


「そうでしょう?」


「今教えてくれて、本当に助かったわ」




 私はシンシアに心から感謝していた。


 あのまま何も知らなかったら大恥をかくかもしれなかったのだから。




「だけど、ステファニーはそれで良かったの?」




 隣で話を聞いていたメイシーが訊ねてきた。


 彼女はウェイト伯爵のご令嬢で、学園に入ってからのお友だちだ。


 彼女の目は純粋な好奇心で満ちている。




「だってデニスって、見た目はあの通り調ってる美少年なのに、騎士科での実技はずーっと一番だって聞いたわよ? みんなあのギャップにキャーキャー言ってるじゃない?」


「まぁ、そうなんだけどね。幼なじみとしては『子供のころから変わらないなぁ』って感じで、婚約者ではあるんだけど……ときめきはしない、かなぁ?」


「ふーん。それなら、取られて悔しいとか、選ばれなくて悲しいとか、そういうのは無いのね?」




 私は改めて自分の心に問いかけてみるが、やっぱり嫉妬や妬む気持ちは一つも見つからず、ただ大きく頷いた。



「それじゃあステファニーは今、完全にフリーね?」




 メイシーが嬉しそうにニッコリと笑った。




「うーん。 今はそうだけど……すぐにおじい様が次の婚約者を見つけてくると思うわ。……っていうか、なんでそんなに嬉しそうなの?」


「えー! だって、ステファニーみたいな美人で性格良くて、何やっても卒なく(こな)せる人は絶対モテるのに、学園に入った時にはもう相手がいるだなんて、もったいないなぁって思ってたのよ」


「まーた。そんなに(おだ)てて……」


(おだ)ててなんていないわ。ねぇ? シンシア?」


「そうですわ。ステファニーは私たちの自慢のお友だちなんですから、もっと自信を持ってくれなくては困ります」




 とりあえずの婚約者に捨てられた私を慰めてくれるとは……。


 そんなにショックでは無かったことは置いといて、友だちからのその気持ちは嬉しいわ。


 シンシアとメイシーが(そば)に居てくれて、私は本当に幸せね。





「でも、なんでデニスはステファニーのこと好きにならなかったのかしら?」




 メイシーが不思議そうに首を傾げ、何か発見したようにポンと手を打つ。




「あの人、ずーっと一緒だったから、ステファニーのありがたみが分からないのかも?」


「私でしたら、絶対ステファニーをお嫁にもらいますのに」




 シンシアの発言が怪しくなってきた。




「ありがとう。でもまあ、私はあの『自分のことしか考えなかったデニス』が人を好きになって、誰かの心を思いやれるようになるかと思うと、それだけで感慨深いわ」


「ステファニーったら……それ、親戚のおば様たちのセリフよ?」


「えぇー! 私これでもまだ十七歳の乙女なんですけど」




 ぷはっ!




 私たちはいっせいに吹き出して笑ったのだった。




 * * * * *




 それからの私は大変だった。


 おじい様にお手紙を書いて、新たに婚約者候補を立ててくれるように頼まなければならなかったし、婚約発表のために始めていた準備もストップさせる必要があった。


 それに並行して、私は私でマナー講習やダンスのレッスンにも精を出す。


 なんせ今まではデニスが相手だと思っていたから、自分を必要以上によく見せるなんてこと考えもしなかったのだ。


 でもこれからは、お相手を探さなければいけない身だ。


 こちらも相手に気に入ってもらうために、技術や努力も必要になるだろう。


 今までサボっていたので自業自得な部分もあるが、忙しく充実した日々を送っていた。




 そんなある日のこと。




 学園の渡り廊下を歩いている時に、飛んできた(ボール)を避け損なった私は、その場でパッタリ倒れてしまう。




「ステファニー!」


「大丈夫?」




 シンシアとメイシーの慌てた声がした。




「うわぁー! ごめん!」


「バカ、謝ってる場合か!」


「何やってるんだよ。ほらどいて。医務室に連れて行くから」




 そして男子の言い合う声がして……。


 私はゆらゆらと運ばれ、気が付いたら救護室のベッドの上だった。




「あ……大丈夫?」




 目を開けると知らない男子がいた。


 両サイドの髪を綺麗に撫で付けた黒髪が、所々乱れている。


 蒼玉(サファイア)のように煌めく瞳が揺れていて『あぁ、私はこの人に心配かけてしまってるのかも』と気が付いた。


 とりあえず返事……。


 いえ、何か言わなければ。




「あの、ここは……?」


「救護室。覚えてるかな? (ボール)が当たったんだけど……」


「あぁ。はい。覚えてます。えーと、あなたは……?」


「俺はブラッドリー・ローマン。騎士科の二年」


「あ、私は、ステファニー・グランデ。家政科の二年です」




 彼に名乗られて私も慌てて自己紹介した。


 何となく見たことがあるような気がしたのは、私たちの科と一番近い、騎士科の生徒だったからだったんだ。




「どこか痛いとか、具合悪いとか……ない?」


「えーと……たぶん大丈夫だと思います」


「良かった〜。友だちが暴投(ぼうとう)して、俺が取り損ねたから……ごめん」


「そんな。私も避けられなかったんだし……運が悪かっただけです」




 私たちはこんなふうに、偶然出会ったのだった。


お読みいただき、ありがとうございました。

よろしければブックマークや下の【☆☆☆☆☆】をタップして、応援いただけたら嬉しく思います。

今後もみな様に気に入っていただける作品作りを心がけようと思っていますので、よろしくお願いします。


本日は複数回投稿を行なっていますので、話数をお間違えの無いようにお願いします。

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