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16.婚約発表

本日3話目です。

 今日は狩猟祭の最終日。


 恒例の夜会があり、そこで正式に私とブラッドの婚約発表が決まっていた。


 私は午前中からお風呂にマッサージ、そして軽食を挟んでネイルの手入れやコルセット装着が始まる。


 コルセットは長時間かけ、何回にも分けて少しずつ締めていく。


 急に締め付けると気を失うとか、具合が悪くなるからだ。


 そしてやっとすべての支度が終わったのは夕方のこと。


 侍女たちの頑張りにより姿見の中の私は、見違えるような美少女に仕上がっていた。


 ドレスはブラッドの瞳の蒼玉(サファイア)彷彿(ほうふつ)させる青。


 所々に黒のリボンやレースが使われている。




「ステフィー、キレイだ」


「気に入った?」


「もちろん。と言いたいところだけど……見せ過ぎじゃないか?」




 私の胸元をブラッドが気にしている。


 そして背中も大きめに開いているのを見て眉根を寄せた。




「そう? 今の流行りなのよ?」


「誰がこんなデザインを流行らせたんだ。……どうせろくな奴じゃないだろ」




 ボソッと呟くのが聞こえて私もさすがに苦笑した。


 そんなに気にしなくても私はおじい様の孫だもの。


 そんな邪な目で見るだなんて怖いこと、誰もしないと思う。


 だけどブラッドに独占したいと思ってもらえるのは素直に嬉しい。


 だから私は、仏頂面した彼の頬に自分からキスをした。




「ん……!?」




 完全な不意打ちにブラッドの耳が赤くなった。


 私は珍しいものが見られて得した気分だ。




「今日のブラッドは特別かっこいいわ」




 サイドの髪をスッキリ撫で付け、上部は色気のある流し髪で、いつに無く艶やかな黒髪。


 私の髪と瞳に合わせた、シャンパンゴールドの夜会服と紫水晶(アメジスト)を思わせる淡い紫のアスコットタイ。


 長身で程よく鍛えられた体躯(たいく)のブラッドは、大人の色気が漂いはじめていて、私は惚れ直してしまった。




「やっとステフィーは俺のものだって、堂々と言えるようになる」


「もう婚約は調ってるのに?」


「……お披露目が終わるまでは、やっぱり形だけなんだよ」




 そっぽを向いてボソッと言うから聞き取れなかった。




「ブラッド?」


「いや、何でもない。とにかく今夜、名実ともに婚約者になれる」


「うん」




 歯切れの悪いブラッドに私は違和感を覚えた。


 もしかしたら、私だけじゃなくて、ブラッドもそれなりに何か言われたりしていたのかもしれない。


 私はやっとその可能性に気が付いた。




「ブラッドは……何か言われたりしたの?」


「……大したことじゃない」


「なに? ちゃんと教えて?」


「……デニスはずっとステフィーの婚約者だったから、新参者の俺がすぐには認めてもらえないのは仕方ない」




 そうか。


 デニスは剣の腕だけは良くて、幼いころから辺境騎士団の練習にも混じったりしていた。


 確か古流(こりゅう)とかいう剣の流派で、もうすぐ免許皆伝だとかも聞いた気がするし、ウチの一族では期待の若者代表なのだ。


 そのデニスを押しのけて──実際はデニスが降りただけだけど、ブラッドが私の婚約者となったのだから、面白くないと思う人だっているし、認めたがらない頭の固いおじ様方も多いだろう。




「でも、何度か辺境騎士団の鍛錬に混ぜてもらって、ある程度()かっ()()()()()()し、もう大丈夫。心配要らないよ」


「え?」




 気のせいかしら?


 何だか冷気が漂ってるような?




 私はブラッドの笑顔を眩しく見ながら、彼のエスコートで夜会に向かうのだった。




 * * * * *




 夜会の会場は色とりどりのドレスを着た淑女や、夜会服と辺境騎士団の制服姿の紳士のみなさんで溢れかえっていた。




「狩猟祭も無事に最終日を迎えられた事を嬉しく思う。そしてここに、もう一つおめでたい発表をしたい」




 おじい様の紹介で壇上に招かれた私とブラッド。


 おじい様は嬉しそうに私たちを紹介する。




「我が孫ステファニー・グランデと、ローマン騎士伯の長男、ブラッドリー・ローマン。この二人の婚約が調った。結婚は一年後、次回の狩猟祭前に王都にて行う。皆の祝福と力添えを願う」




 おじい様の武人らしい簡素な紹介が終わり、乾杯のためにグラスが配られる。




「それでは乾杯といこうか。……おぉ、忘れておった。ブラッドリーのことだが……彼は治癒術が使える」




 ざわつき始めていた会場が一瞬で静まった。




「よって、ブラッドリーには専属治癒士は付けないことにした。それを周知徹底するように」




 あちこちから息を呑む声がしたあと、一気に会場内が騒がしくなった。


 そこかしこに表情の抜け落ちた女性や、落胆の顔を見せる者がいる。


 今の言葉で、ブラッドに粉をかける女性は排除対象になると決まったようなものだからだ。


 おじい様に睨まれてまでブラッドに近寄ろうとする人は一族にはいない。





「それではステファニーとブラッドリーの婚約を祝して、乾杯!」


「乾杯!」





 女性たちは明らかに覇気(はき)のない乾杯で……。


 私とブラッドは苦笑しながら発泡酒を飲み干した。




「これで少しは周囲が静かになりそうだ」




 おじい様はご機嫌な様子で笑っている。


 その機嫌の良さが気になったが、私はブラッドと過ごす夜会の楽しさに、その事を忘れてしまったのだった。


お読みいただき、ありがとうございました。

よろしければブックマークや下の【☆☆☆☆☆】をタップして、応援いただけたら嬉しく思います。

今後もみな様に気に入っていただける作品作りを心がけようと思っていますので、よろしくお願いします。


本日は複数回投稿を行なっていますので、話数をお間違えの無いようにお願いします。


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