12.決闘
本日8話目です。
裏庭ではもうブラッドとデニスが細剣を手に、決闘の準備を着々と進めている。
私がブラッドの所に行くと「心配するな」と言って頭を撫でられた。
それだけでは私の不安は拭えないのだけど……。
運が悪ければ、細剣でも一突きで死んでしまうのだから。
どうしてこうなってしまったのかと泣きたくなった。
「気を付けて。ブラッドがケガをしないことが一番なんだからね?」
「心配性だな。キミの未来の夫の強さを見ていてくれ」
ブラッドが私を抱きしめ、頬にキスする。
この時ばかりは恥ずかしいのも忘れて、私も彼に抱きついて頬にキスを返した。
「デニス、頑張って!」
「おう!」
あっちは熱烈に口付けしていた。
デニスもケガしないかと、頭の片隅で思ったのがバカらしくなった。
やっぱりデニスと結婚だなんて絶対しない。
勝手にブリトニーさんと結婚して王国騎士団にでも入れば良いのよ。
「ブラッド……」
「ん?」
「絶対勝って! でも怪我したらダメ。分かった?」
「……分かった。約束する」
沸々と湧き上がる私の苛立ちに気圧されたのか、驚きつつもブラッドは勝利を約束してくれたのだった。
裏庭の真ん中にブラッドとデニスが立っている。
辺境騎士団の騎士が立ち合いを務めるようだ。
「はじめ!」
立ち合い人の掛け声と共に二人とも散開した。
お互いに間合いを取り隙を窺う。
ブラッドはフェイントを掛けつつ、自分の間合いに入ってきた時に突く。
デニスは手数でブラッドを上回ろうと、果敢に攻めかけてくる。
剣先を叩き合ったり鋭く突き込んだり、どちらも譲らず互角の戦いかと思われた。
しかしデニスは動き過ぎたのだろう。
疲れが見え始めている。
普通の相手なら違ったのだろうが、相手は学年で常に上位のブラッドだ。
いかに実技では学園一の腕前を誇るデニスでも簡単には勝てない。
そして学生の剣技は所詮武芸の域を超えないものなのだが……。
今回のブラッドはその武芸の良し悪しを決める、型通りの綺麗な戦い方は捨てていた。
どちらかといえばどんな手を使っても勝ちは勝ちという、泥臭い──ある意味ズルい戦法で挑んでいる。
段々とデニスの剣にキレは無くなり、スピードも落ちてくる。
息が乱れ始めたこの時をブラッドは見逃さなかった。
少ない隙を最大限に活用し、一気にデニスに突き入れ手首を返す。
キィーン! クルクル……。
細剣が空中を舞った。
それは風切り音を立てながら落下していく。
ザシュッ!
地面に深々と細剣が突き刺り、その場は静寂に包まれた。
「勝者、ブラッドリー・ローマン!」
審判の声が響き渡る。
ブラッドは剣を握った手を上げ勝利の勝鬨を上げた。
デニスは唖然として剣の無くなった右手を見て、悔しそうに握りしめている。
「くそ〜! 負けた!」
デニスが負けるのは珍しい。
きっとここ数年、本気で戦って負けたことなどなかったかもしれない。
その彼が負けたのだ。
相当に悔しいだろうと思う。
私は今までだったらデニスを思って居た堪れない気持ちになっただろう。
だけど、そうはならなかった。
私の中で湧き上がる、今の私の思いは……。
「ブラッド!」
私は駆け出し、ブラッドに抱きついた。
嬉しくて誇らしくて、どうしようもなかったから。
「ステフィー、俺勝ったよ」
「うん。すごかった。カッコ良かった!」
抱きしめられて持ち上げられて、グルグルと回られた。
そしてもう一度抱きしめられて。
「勝ったから、ご褒美欲しいな」
「ご褒美?」
「うん」
そう言って彼は私の目を見つめ瞼を閉じた。
えっ!
これって?
もしかして?
私は自分が赤くなっていくのを自覚した。
「早く」
催促されて、でもできなくて……。
「遅い」
急に彼の目が開いて、影が落ち。
「ん……」
唇に柔らかい感触が……。
私、キスされてる!?
私は目を閉じ、人生初の長い長いキスを受け入れたのだった。
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今後もみな様に気に入っていただける作品作りを心がけようと思っていますので、よろしくお願いします。
本日は複数回投稿を行なっていますので、話数をお間違えの無いようにお願いします。




