10.止められない闘い
本日6話目です。
「きゃあ〜! 決闘!? すご〜い! デニス頑張って!」
ブリトニーだけが喜んではしゃぎはじめた。
デニスとブラッドは睨み合っている。
きっと私は蒼白だろう。
決闘は、この国にかつて存在した貴族間の争いを解消するための崇高な解決方法だ。
多くの死人が出るため禁止された今も、名誉を賭けて競うとか、侮辱された時や妻や婚約者に手を出された時は、暗黙の了解みたいな感じで行われている。
現在の王国としては禁止にしているので、一応『現行犯』で見つかった場合、喧嘩両成敗で最低でも罰金プラス百叩きが課せられ、悪質と見做されれば毒杯で死刑の可能性まである。
そしてこれだけ大々的に取り締まっても決闘がなくならないのは、家や個人の威信に関わるからなのだ。
今では魔法禁止で剣技による形式になっているが、それでも危ない事に変わりはない。
だからみんな見つからないようにやるのだけど……。
「待って、決闘は禁止でしょう? ブリトニーさん、あなたも止めてよ」
「え? 次期辺境伯の座を賭けた決闘だなんて素敵じゃない。何で止めなきゃならないの?」
ダメだ……。
この人の頭には、本当にお花畑が入ってるのかもしれない。
「ブラッド、あなただってダメって知っているでしょう?」
「ごめん。ステフィーのお願いでも、これは譲れない」
まさかブラッドが決闘を受けるなんて思ってなかった。
「デニス! お、おじい様に叱られるわよ? 良いの?」
「お前はバカか? 決闘を中止なんてできるわけないだろ。男止めろって言ってるようなもんだぞ!?」
言い出しっぺのデニスは、やっぱり止めるとは言わない。
あぁ、もう止める手立てが無い……。
そして二人は睨み合ったまま部屋を出て、人目に付きにくい裏庭へと歩いて行こうとしている。
私はどうすることも出来ず、せめて大ごとにならないように裏庭付近の人祓いを命じるしかなくなっていた。
* * * * *
裏庭はこの辺境伯の家族専用のプライベートな場所で、簡単に外部の人間が入って来られる場所ではない。
しかし東棟に入ることができる使用人や、おじい様と仲の良い客人ならば普通に入れるため、ここで決闘などすればすぐに噂になるだろう。
まさか辺境騎士団から王国騎士団に連絡する者はいないとは思うけど、辺境伯であるおじい様に見つかったら、それは『現行犯』になるって事だ。
二人ともそれを忘れてないかしら?
でももう止めるのは無理だ。
そう悟った私は、仕方なく場を整える手配を始める。
するとブリトニーがニコニコと話しかけてきた。
「ねぇステファニー。あなた、デニスが勝ったらどうするの?」
「どうって?」
「だってこれって、勝ったほうが辺境伯になるんでしょう?」
「は?」
「ローマン様がデニスにチャンスを与えたってことは……そういう事よね?」
ブリトニーは楽しそうに笑っている。
私に話しかけているようで、こっちを見ていない。
夢見るように胸の前で両手を組み、お空の彼方を見詰めて呟き出した。
「そしたらステファニーとデニスが結婚するじゃない? 私、デニスが辺境伯になれるのなら、妻の座は諦めるわ」
「何それ!?」
「聞いて無かったの? ローマン様があなたとの結婚は政略結婚じゃないって言ったら、デニスがあなたがブラッドリーを好きになるなんておかしいって言って……」
「え? え? なに? そんなこと言ってたの?」
私がほんの少し自分の思考に浸っている間に、そんなことになっているとは夢にも思っていなかった。
「そうよ。それでデニスが、幼なじみの自分のほうがあなたの事を良く分かってるって言って、ローマン様が自分たちは恋人同士なんだって言って、デニスに予定通り私と結婚しろって、ワーって言い合いになったのよ?」
「そんな……」
彼女の子供みたいな話し方からでも、確実に伝わってくる情報に私は頭を抱えた。
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