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1.婚約者に恋人がいるらしい

本日1話目です。

 初夏の王立学園の教室は開放感に溢れていた。




「ねぇ、ステファニー。あなたデニスとはどうなってますの?」


「どうって……何が?」


「え? 何がって……。みんな噂してますわよ?」


 

 友人でオールディー侯爵令嬢のシンシアにそう言われたけれど、その時の私は何のことかさっぱり分からなかった。


 私は南の国境地帯を守る辺境伯の一人娘。


 ステファニー・グランデ、十七才。


 将来は、遠縁で同じ年の子爵三男のデニスに婿(むこ)()りしてもらって、私たちの息子に辺境伯を継がせるという口約束ができていた。


 なのにそのデニスに、最近妙な噂が立っているようなのだ。




 * * * * *




 事の起こりは、私たちの学園生活が二年目に突入してすぐのこと。


 珍しく転入生が入ってきたことがきっかけだった。




 彼女は最近男爵家に引き取られた令嬢、ブリトニー・フォールン嬢。


 珍しいピンクブロンドの髪にルビーのような瞳をした、お人形さんみたいに可愛(かわい)い女の子だった。


 このブリトニー、男子に受けが良く瞬く間に人気者になる。


 それだけなら『モテて良いわね』で終わるのだけど、彼女の場合はそれでは済まなかった。


 転入早々、婚約者のいる伯爵家の嫡男と親密になると、侯爵家の次男、大きな商会の御曹司と、次々に学園の人気子息と浮名を流し始めたのだ。


 それはこの手の話題に(うと)い私の耳にも入っていたのだから、相当に有名な話だったのだろう。




 そしてそれが他人事(ひとごと)ではなくなったらしい。




 どういう訳か、大人気のブリトニーの心を最終的に射止めたのがデニスだという。


 私はたった今、彼が『時の人』になっているとシンシアに教えてもらったところだ。




「えぇぇっ! それ、本当なの!?」


「残念ですが……」


「……でも、教えてくれてありがとう」




 私は気不味(きまず)そうで心配そうな、何とも言えない表情のシンシアに苦笑を返す。


 でもまぁ、デニスは私の中では幼なじみの弟分のような存在だ。


 いずれ結婚すると認識していても、胸がドキドキとか、キュンとするとか、そういった現象は今の今までまったく、これっぽっちも起きなかった。


 だから急にこの噂を耳にしても。




「なんだ。それならそうと、早く言ってくれたら良かったのに」




 そういう感想しか出てこなかった。


 ただ私たちは、今度の新年の王宮舞踏会で社交界にデビューするのが決まっている。


 その時には婚約者にエスコートしてもらうのが慣例なのに、今から別の人を探すとなると間に合うかどうかギリギリで……。


 その点で困った事態に陥っている。


 そのほうが私はよっぽど腹立たしかった。




「とにかく私、デニスにちゃんと確かめてくるわ」




 そういうことで、私は放課後にデニスを探し回ることになる。




 * * * * *




 やっとデニスが見つかったのはカフェテラス。


 彼はブリトニーとお茶をしているところだった。




「ご歓談中に失礼。デニス、ちょっと聞きたいことがあるのだけど、いま少しだけ良いかしら?」


「やぁ、ステファニー。いきなりどうしたんだ?」




 私の突撃訪問にもデニスは動じることなく、隣にブリトニーが寄り添っていることに悪びれた様子も無い。


 どちらかというとブリトニーを驚かしてしまったみたいで、彼女は居心地悪そうにモジモジしている。




「えーと、不躾(ぶしつけ)で申し訳ないのだけど、お二人はお付き合いなさってるのかしら?」


「「え?」」




 単刀直入(たんとうちょくにゅう)過ぎたのか、二人は驚いて固まった。


 でもみるみる顔が赤く染まって目が泳ぎ、これはどう見ても恋人同士だって気が付いた。




「あ、良いのよ。私は確かにデニスの婚約者だけど、正式な手続きをしたってわけじゃないもの。だから二人の邪魔をするつもりは無いの。安心して?」


「え? 良いのか?」


「もちろんよ。ただ、私にも予定ってものがあるんだから『もっと早く言ってくれたら良かったのに』とは思ったけど?」




 私は冗談めかしてそう言った。


 聞きたいことが聞けた以上、あとはもう私には関係ないし、もうお(いとま)しよう。




「私の社交界デビューのエスコート。デニスはできないって、おじい様に言っても良いか、それが知りたかっただけなのよ。じゃあ……」


「あぁ、そうか。ごめん、そこまで気が回らなくて……」


「気にしないで? 今はブリトニーさんのことで頭がいっぱいなのでしょう?」




 そう言ったら、デニスは真っ赤になって照れていた。


 そんなに好きな相手に出会えたなんて、幼なじみとしてはホッコリした気分になる。


 仕方ないから色々な不手際は許してあげよう。




「私の用事はそれだけなの。お邪魔してごめんなさいね」


「あの……ステファニーさん。ごめんなさい。私がデニスを好きになっちゃったから……」


「いや、悪いのは俺だよ。俺がブリトニーを好きになったから……」


「デニス!」


「ブリトニー!」




 新たな茶番が始まってしまったようだ。


 私のことは眼中に無いようだし、二人には勝手に盛り上がってもらおう。


 見てるコッチが恥ずかしくなってきて、私はその場をそそくさと退散した。


お読みいただき、ありがとうございました。

よろしければブックマークや下の【☆☆☆☆☆】をタップして、応援いただけたら嬉しく思います。

今後もみな様に気に入っていただける作品作りを心がけようと思っていますので、よろしくお願いします。


本日は複数回投稿を予定しています。

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