俺の知らないサイドストーリー
がしゃんと重い足音が響く。
足も胴もすべてが極彩色をした男は、目玉のついていない顔を横に向ける。
そこにはかすかな粒子だけが舞っており、しかし目玉のついていない男にはまったく異なる景色が見えるのだろうか。うやうやしく格式ばったお辞儀をして、無礼な姿をみせられないのか全身の形状を変えてゆく。
しばらく経ったあと、そこにはピンクではなく人の肌をする者が立っていた。
長い髪と切れ長の目は先ほどまでの色であるが、これであれば人間と出くわしても向こうが驚くことはあるまい。
「人にお会いするなど歴史的に見ても珍しいことですな。私はまだ貴女の顔を見たことさえないのに」
何者かの声が響いているのだろうか。
わずかな空気の震えしか常人には感じ取れないが、長い獲物を腰に差した男はひとつ頷く。
「いやはや面目ありません。まさか私が素通りを許すとは。明らかに異質ですな。武器を持たないどころか私に気づいてもいないようでした。それで、あの幽鬼のような小僧を気に入られたので?」
先ほどと同じように空気の震えが起こる。しかし先ほどよりもずっと早い振動であり、どこかまくしたてている気配があった。
しばらく聞いていた男は、真っ暗闇の迷宮をぐるりと見渡しながらくぐもった声で笑う。
「まあ、そういうことにしておきましょう。ですが私としても務めがありますので、あやつが再び立ち入ることがあればこの剣を振るいます」
反応を楽しもうとあえて挑発的に言ったのだろう。だが、男は意外な顔を見せる。思っていたのと正反対の言葉を投げかけられたのか、しばし黙ったあとに「ふっ」と笑う。
どうやら挑発をし返されたらしい。
笑みにはどこか凄みがあり、ふ、ふ、と繰り返し男は笑う。
「では、ご期待に応えて。あわよくば魔剣をこの世から消し去り、閉ざされたこの世界に永劫の秩序を与えましょう」
不穏な言葉に、相対する者は何と答えたのだろうか。
それはだれにも分からない。