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オロチ  作者: yamato
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夜、自宅で寛いでいると、携帯が鳴った。




―もしもし、私リカちゃん…―




「えっ!?マジかよ?」




「待てよ、なんか声が違う、男の声っぽい」




「誰だお前は?くだらないイタズラはやめろ!」




―あっ、バレたっすか?


お久しぶりっす、元気してたっすかぁ?―




このふざけた喋り方はアイツだ、金髪霊能野郎だ!




「なんの用だ?」




―いやぁ、実はちょっと頼みたい事があるんすよ―




「断る!」




プチッ。




また携帯が鳴る。




「しつこいぞこの野郎!断るって言ってんだろうが!」




―話す前から切らないでくださいよ、酷いっすねえ!


話くらい聞いてくれてもバチは当たんないっすよ、


いや、聞かないとむしろ当たるかも…―




「ふ、ふん、脅しには乗らねえぞ!


ま、まあそこまで言うんなら聞いてやってもいいけどな」




―電話じゃなんですから、


どこかで会えないっすかね?


この間のファミレスでどうっすか?




明日日曜日だし、午前10時ってことでよろしくっす。




そんじゃ!―




「おい、待てコラ!俺の返事は無視かい!」




プチッ、ツーツーツー




「あの野郎切りやがった、


全くふざけた野郎だ、


まあ明日はどうせ暇だし話くらいなら聞いてやるか」




これが、そもそもの間違いだった。




迂濶に奴の誘いに乗ったばかりに、


あんな恐ろしい目に合うとは予想もしなかった。




思えば、あの時キッパリと断っておけば良かったと、


俺は今でも後悔している。




翌日、俺はファミレスに入って行った。




お客はまだ5、6人ってとこか、


カップルと家族連れ、


それにスーツを来たサラリーマンが一人本を読んでいる




「あっ、やまとさんコッチっすコッチ!」




金髪、でかい声出すな!




見りゃあわかる!




立ち上がってぶんぶん手を振るんじゃねえ!




恋人を待ち侘びる彼女さんかお前は!




俺はうつ向きながら、金髪の席に着いた。




この野郎、もうチョコパフェ三杯も食ってやがる。




どんだけ甘党さんなんだよ!


金髪野郎の名前は、久能小次郎。




身なりに似合わないカッコいい名前にちょっとイラッとする。




ゼッテーに名前なんか呼ぶもんか!




金髪って呼んでやるからな!




「で、話ってなんだ?


金ならないぞ、


恋愛相談も無理」




金髪は、パフェのスプーンを弄んでいるばかりで、なかなか話を切り出そうとしない。




いい加減イライラしてきた所で、金髪はおもむろに口を開いた。




「実は…、やまとさんに俺の仕事を手伝って欲しいんすよ」




即座に断って帰ろうとしたが、金髪の様子がおかしい。




あのヘラヘラした笑い顔はなく、深刻な顔でじっとスプーンを見つめている。




「手伝って欲しいって?


素人の俺に何が出来るって言うんだよ、俺には霊能力のれの字もねえんだぞ!」




「それは違うっす、やまとさんは自分の力に気が付いてないだけっす」




力?何言ってるんだコイツは!?




「力なんてなんにもねえよ、


霊だって半年前に初めて会ったんだからな。




それに、あれ以来霊らしきものは見てないし、


雰囲気すら感じねえよ




口からでまかせ言ってんじゃねえよ!」




「でまかせじゃないっす、


やまとさんは見えてるのに気が付いてないだけっす。




生きた人間のように霊がはっきりと見えるから、


勘違いしてるだけっすよ」




「そんなバカな話あるか!


お前がなんと言おうと俺には見えねえんだよ!!」




「そっすか?


んじゃあ、あそこのテーブルにスーツ来たサラリーマンがいるっすよね?」




「ああ、それがどうした?


まさか、あのリーマンが幽霊だとでも言うのかよ!」




「そのまさかっす」




「おいおい、いい加減にしろよ!


んな事あの人に聞かれたら気ぃ悪くすんぞ、


やめろよな!!」




「じゃあやまとさん、あのリーマンのテーブルに、コップとかオシボリとか置いてあるっすか?」




「いや…ないけど、ウェイトレスが下げたんじゃねえの?」




「終わった食器なら下げるっすけど、


お水のコップは下げないっしょ」




「確かにそうだけど、リーマンがコップも下げさせたとか…」




「んじゃあ、もう少し見てたら分かるっすよ」




「マジか!?どう見ても普通の人間だぞ!」


暫くリーマンを見てたら、若いお兄ちゃんの二人連れが入って来た。




二人はリーマンの席に相席した。一人はリーマンの隣に、もう一人は向かいに座った。




「なんだよ、連れを待ってたんじゃねえか、分かったか、あれは人間!」




「もう少し見てるすよ、今に分かるすから」




コイツ強情だな、まだ認めやがらねえ。




再びリーマン達を見ていると、ウェイトレスがお冷やとオシボリを持って来た。




若いお兄ちゃん達だけに、お冷やとオシボリを置いて注文を聞いて行った。




「!?」




そして、お兄ちゃん達だけにコーヒーが運ばれて来た。




待て待て、リーマンは時間がかかる物を注文したのかも知れん、まだだ。




お兄ちゃん達はコーヒーを飲みながら、楽しそうに談笑している。




と、その時、お兄ちゃんの横で本を読んでいたリーマンが、煩そうな顔をしてお兄ちゃん達を睨んだ。




リーマンは立ち上がるとそのまま歩いて席を後にした。




隣に座っているお兄ちゃんの体を通過して。




リーマンがお兄ちゃんの体を通過した瞬間、お兄ちゃんはぶるっと身震いをして、寒そうに肩をすくめた。




リーマンは反対側の空いているテーブルに着くと、また本を読み出した。




「あ、あ、あ…」




俺は口をパクパクするだけで、声も出ない。




「ねっ、見たっしょ?あのリーマン三年前に死んでるっす」




「ここで休憩してる時に、心臓発作を起こして死んだんすけど、本人は自分が死んだ事に気づいていないんっすよ」




「だからああやって、ここで毎日本を読んでるっすよ、信じてくれたすか?」




俺はこくこくと頷くしかなかった。




金髪の言ってる事は本当だった。




俺にはリーマンが、普通の人間にしか見えなかった。




「俺も霊能力者ってことか、マジですか!?」




「マジっす。それもハンパない力っす、人間と区別つかないくらい見える霊能力者なんて、この日本中探しても、いいとこ五人くらいしかいないっすよ」




「やまとさんは、日本で三番目に強い霊能力を持った人す」




俺が日本で三番目…




「んじゃあ、一番と二番は誰なんだよ!?」




「二番はオイラっす、一番はオイラの親父っすよ」




はい、出た、コイツのホラ話出ました、確かに霊能力は認めるけど、そんな凄い奴が無名な訳ねえだろがよ!




「そんなに凄かったら、もっと仕事じゃんじゃん来て、テレビにも出て大儲けだろが!嘘つくな!」


「オイラの一族は、霊能力を使って金儲けしたら反動というか、報いが凄いっすよ」




「それに、オイラの一族はご先祖代々の掟と契りで表には出ないっすよ」




「掟?契りって?」




「掟は色々あるっすけど、金儲けしちゃならんってのも掟の一つっす」




「契りは、一族を守護し奉る神に忠誠を誓って、その使徒としての勤めを果たす事っす、契約とも言うんすけどね」




「で、掟を破ったらどうなるんだよ?」




「酷い事になるっすよ、最悪死ぬっす」




「死ぬのか、ヤベエな、で、お前は破っちゃいないんだろ?ピンピンしてるもんな」





「破った事あるっすよ」




「破ったんかい!でも、なんともなさそうじゃねえか?そうか、小遣い稼ぎ程度だったんだな」




「いや、かなり儲けたっす」




「いくらくらい?」




金髪は黙って人差し指を立てた。




「百万?」




金髪は首を振る。




「1000万!?」




金髪は首を振る。




「い、一億!?」




「そんなとこっす」




「すげえ、どうやって?」




「競馬っすよ、一族秘伝の式鬼を使ってレースを支配したっす」




「式鬼って?」




「この前やまとさんに憑いた霊を成仏させた時に、霊の乗り物に使った折り紙の鶴、あれも式鬼の一つっす、まぁ形は色々っすけどね」




「で、報いは受けたのか?なんか見た目には何とも無さそうだけど」




金髪は黙って左目に指を突っ込むと目玉を取り出した。




「うげっ、義眼かよ?気が付かなかったぜ、良く出来てんなぁ!」




金髪は更に左腕を外して見せた。




「えっ!?左腕も義手?でも今まで普通に使ってたし、義手には全然見えなかったぞ」




「これも式鬼の力っす、この力を借りて本物と同じ機能をさせるっすよ」




「他にも左足も義足っす、あと、腎臓と肺を一個ずつ、肝臓と大腸を半分、胃と脾臓は全部無くしたっすよ、あはは」




「あははって、笑い事じゃねえぞ!良く生きてるな普通なら死んでるぞ!恐え~!!」





「オイラは運が良かったっすよ、命があっただけまだマシっす」





「だなあ」


「でもさぁ、能力を金儲けに使っちゃダメなんだったら、お前はどうやって食ってんの?何かバイトとか?」




「競馬で食ってるっす」




「競馬かい!懲りねー奴だな、大丈夫かよ?報い貰うぞ」




「生きて行く上で、必要最低限の金を稼ぐためなら差し支えないっすよ」




「なんか都合がいいな」




「守護神も優しいとこあるっす」




「どうなんだろ?厳しいように思えるけど」




ここまで聞いて、何だか金髪が気の毒になってきた。




それに詳しく聞いといて、じゃあなバイバイってのも気が引けるし…。




この俺の甘さが、俺自身をこの後、人生最大の恐怖に陥れようとは、これっぽっちも考えなかった。




「で、今回のお前の仕事って?」




「やっと聞いてくれたっすね、てことは手伝って貰えるってことっすね!?」




「話によっちゃな、ま、話してみろよ」




「O市の西園寺家って知ってますか?」




「おお!知らいでかい、日本でも五本の指に入る超金持ちじゃねえか。




あそこからの依頼かい?お前って凄えんだな!」




「依頼って言うか、尻拭いって言うか、貧乏くじって言うか」




「なんだそりゃ?」




「西園寺家には、一年前位から異変が起きてたらしいんすけど、最初は気のせいだろって放置してたんす」




「その内、お嬢様の様子がおかしくなって来て、どんどん痩せてくる、終いには寝たきりになったっすけど、医者に見せても体には異常はない」




「しかし、日に日に衰弱してくる、これは何かの祟りかも知れないってことで、有名な霊能力者を呼んで、お祓いをしたんっすけど」




「けど?」




「失敗して、霊能力者は死亡したっす」




「マジかよ!?おっかねえ!!」




「それで、これまでに30人の霊能力者を呼んだらしいんすけど」




「ほうほう」




「ことごとく失敗、30名中15名死亡10名廃人5名はやる前に逃亡」




「げ~っ、しかし逃亡って情けねえな、逃亡した5名は、大したことない霊能力者だったんだな」




「その逆っす、逃亡したのは日本でも指折りの、超一流の霊能力者だったっす」




「超一流だからこそ、自分の力と相手の力を冷静に判断できて、難を逃れる事が出来たっすよ」




「そうなのか。で、残りの奴らは大した事なかったって訳か」

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