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オロチ  作者: yamato
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俺の名前はやまと、どこにでもいる平凡なサラリーマン。


年齢は25歳、現在彼女募集中である。


俺は25歳になるこれまで、霊などとは遭遇したこともなく、また、その存在も信じてはいなかった。


あの日までは・・・


今朝は寝不足でイライラしていた。


昨夜寝ていたら、胸に重さを感じた。


目を開けると、長い髪の女が、俺の上に乗っかって顔を覗き込んでいる。


眠りを邪魔された俺は、女の髪を鷲掴みにすると、そのまま引きずって、窓から放り投げてやった。


女はヒーとか言いながら落ちて行った。


いい気味だ。


朝飯に玉子焼きを作ろうとして、卵を割ったら中から大量の髪の毛が出て来た。


昨晩の女の仕業か?次に来たら、きっちりカタにハメてやるからな。


それにしても、セコい仕返しだ、そんなヒマがあったら、もっと人を怖がらせる練習をしろ。


ふと、テーブルの下を見ると、頭から血を流したハゲオヤジが、体育座りをして俺を見上げている。


咄嗟に、オヤジの顔面に蹴りを入れると、「ケヒッ」とか言ってひっくり返った。


床が血だらけになったので、オヤジの着ていた背広を脱がせて掃除させた。


悪い事をしたような気がしたので、オヤジにパンの耳をやったら、嬉しそうに消えて行った。


もう二度と来んなと思った。


出勤のため、車に乗って足元を見ると、床から左手首が生えていた。


思いっきり踏んづけてやると、足の下でジタバタするのが面白くて、つい、会社に着くまでずっと踏んづ


けていた。


足を離したら、紫色に腫れ上がっていた。


ちょっと可哀想な気がしたので、会社から湿布を持って来て貼ってやった。


ついでに缶コーヒーも持たせてやったが、口がないから飲めないかも知れない。


後から考えると、少々酷な事をしたかも知れない。


職場に着き仕事を始める。


ふと、机の下を見ると、朝のハゲオヤジが、また体育座りしている。


しつこい奴だ。


襟首を掴んで、今日休んでいる、吉田の机の下にぶっこむ。


明日吉田が来るまでそこにいろと脅すと、涙目でうなずく。


昼飯の時に、玉子焼きとおにぎりをやったら、少し笑った。


キモい。


昼休みが終わって、PCの電源を立ち上げたら、貞子が浮かび上がった。


圧縮してメールに添付、吉田のPCに転送。


吉田のPCから課長のPCに送信。


暫くして、課長が悲鳴を上げていた。


今日は早退するらしい。


顔が真っ青だった。


相変わらず胆の小さい野郎だ。


デスクの引き出しを開けると、右手首がいた。


接着剤で固めて拳にしてやった。


使い勝手がいいので、文鎮として使う事にする。


仕事が終わったので、ハゲオヤジに、先に帰ると伝えると、お疲れさまでしたと挨拶してきた。


なかなか礼儀正しい奴だ。


残ったおにぎりと、お茶をやったら嬉しそうに笑った。


キモい。


車に乗ると、もう手首はなかった。


缶コーヒーも空っぽだった。


飲んだのか?どこから飲んだのだろう?


不思議だ。


家の近くの駐車場に車を止めて、家まで歩いていると、大きなマスクを付けた女が、「私綺麗?」と聞い

て来た。


「マスクをしてちゃワカラン」と答えると、マスクを外した。


口が耳まで裂けていた。


大怪我じゃないか!


気の毒になったので、携帯で救急車を呼んでやる。


女が慌てて逃げようとするので、押さえつけて救急隊員に引き渡した。


女は迷惑そうな顔をしていた。


人の善意が分からん女だ。


家に帰り、ビールを飲もうと冷蔵庫を開けたら、昨夜の女が中に入っていた。


しつこい女だ!


ムカついたけど、あんまり寒そうだったので、風呂に入れてやる事にした。


お前の髪結構臭いから、しっかりシャンプーとリンスしろよって言ったら、顔を真っ赤にしてうつ向い

た。


女に言う事じゃなかったなと、自分のデリカシーの無さを少々反省した。


俺のパジャマとバスタオルを置いて、着てた物は洗濯するから、洗濯機に入れておけと言うと、か細い声

でスイマセンと言った。


どうでもいいから、肩まで浸かって100数えろ。


ビールを飲む気が失せたから、食事の支度をする。


二人分。


出来上がる頃に、女が風呂から出てきた。


テーブルの上の食事と、俺の顔を交互に見ているので、俺がうなずくと嬉しそうに席についた。


テレビをつけるとお笑いをやっていた。


お笑い見て笑ってんじゃねーよ。


飯食ったら帰れよ、と言ったら、着て帰る服がないと言いやがる。


そうだった、洗濯中だった。


仕方ないから、今晩だけは泊めてやる事にする。


俺は眠くなったから先に寝る事にする。


いいよ、好きなだけテレビ見てろよ。


俺はソファで寝るから、お前はベッドで寝ろと言うと、悪いから一緒に寝ようと言う。


幽霊と一緒に寝れるか!


断る!


爆睡していると、夜中に携帯に着信。


出ると、「わたしリカちゃん。今コンビニにいるの」


うるせーよ、切る。


また着信、「私リカちゃん今近くの公園」


しつけー、切る。


リカちゃんの話は知ってんぞ、次は電話ボックスだな。


ムカついたから、外に飛び出して電話ボックスまで走る。


リカちゃんはまだ来ていないようだ。


待ち伏せしていると、リカちゃんがやって来た。


電話ボックスに入ろうとしたところを捕まえて、近くの電柱にぶらさげてやった。


ついでに携帯を出して、写メを撮ろうとしたら、許し


てくださいと泣いている。


ぜってー許さねえ!


誰かが俺の肩を叩くので、振り返ると冷蔵庫女がいた。


「妹を許してやってください!」とかぬかしてやがる。


お前ら姉妹かい!


アホくさくなったので、リカちゃんを下ろしてやって、家に連れて帰る。


二人して、泣いて謝るので怒る気も失せた。


リカちゃんにも飯を食わせる。


食ったらとっとと寝ろ!


このバカ姉妹が!


朝起きたら、誰もいなかった。


俺のパジャマとバスタオルは、洗濯してきちんとたたんであった。


朝飯の用意が出来ていて、部屋も綺麗に掃除してあった。


洗い物も済んでいる。


食事や掃除はありがたいが、黙って出て行くな!


お礼の一言はないのんかい!


礼儀知らずのバカ姉妹にイライラしながら、車に乗る。


発進させようとしたら、また左手首がいる。


手に缶コーヒーを持って俺に差し出す。


この野郎なかなか気がきくじゃねーか。


ちょっと機嫌が治る。


途中コンビニに寄って、ハゲオヤジの朝飯を仕入れる。


会社に着いて、吉田のデスクの下を覗き込むと、いた、オヤジ、律義に体育座りしている。


オヤジに朝飯やって、「お前もういいよ、朝飯食って帰れ」って言ったら、弁当を大事そうに抱えて、消

えて行った。


ふと机の上を見ると、左手首が付いて来ていた。


俺が昨日接着剤で固めた右手首のゲンコツを、必死で開こうとしている。


「なんだ、お前ら対かよ!」


仕方ないから、給湯室でぬるま湯につけて戻してやった。


「お前らも帰れ!」


仕事が終わって帰宅。


玄関を開けると、シチューのいい匂いがしてきた。


なんでだ!?


リカちゃんが「お帰りなさい」と走って来た。


冷蔵庫女はキッチンで料理している。


お前ら帰ったんじゃねーのかよ、勘弁してくれよ!


冷蔵庫女は、「お帰りなさい、お風呂にする?それともご飯?」などと聞いてくる。


テメエは俺の女房か!?


ウザい、キモい。


でもまあ、折角だから風呂に入る。


リカちゃんも入れてやる。


この野郎、ジタバタするんじゃねえ、シャンプーが目に入っただと?


辛抱しろ!


こら、泡を流さないで湯船に入るんじゃねえ、タオルを浸けるな、変な歌うたうんじゃねえ。


石鹸箱をタオルでくるんで、石鹸をこすり付けて、フーッと息を吹き込むと泡がブクブク。


ほら、これで遊んでろ。


風呂から上がったら、飯の支度が出来てた。


冷蔵庫女がビールを持って来て、「お疲れさま!」だと。


だからぁ、お前は俺の女房かっつーの!


こら、リカちゃん、食べる前はいただきますしろ!


三人?で飯食ってたら、電話がかかってきた。


出ると、病院から、昨日病院に送った女が、所持金もなく、身寄りもないから、俺になんとかしてくれだ

と!?


「ふざけるな、そんな事知るかよ!」電話を叩き切った。


冷蔵庫女とリカちゃんが、心配そうに俺を見てる。


そんな目で俺を見るな、コンチクショー。


イライラするから、タバコを買いに表に出ることにする。


冷蔵庫女、飯もう一人前用意しとけ。


口裂け女を車に乗せて自宅に戻る。


冷蔵庫女とリカちゃんと口裂けは、抱き合って泣いている。


あなたたちは三姉妹だったのですか!?


もう勝手にしやがれ!


俺の部屋は、三人姉妹に占領されたので、リビングで寝ていると、夜中にまた携帯に着信。


「もしもし、私メリーさん、今近くの…」


プチッ


畜生、今度はメリーさんかい!


何ですか?


この無限ループは?


あれですか?


連絡取り合ってるんですか?




あなた達はグルですか?


頭に来たから、部屋を飛び出し、電話ボックスまで走る。


待ち伏せしていると、何も知らないで、メリーさんがのこのこやって来た。


ボックスの陰から飛び出して、メリーさんの前に仁王立ち。


「私めりーさ…、きゃっ、ちょ、何するのよ離してよ!」


完全無視、メリーさんの腕を掴み、ずんずん歩く。


「私メリーさん、ちょ、何すんのよ!離してよ!バカ!変態!」


と、ぎゃあぎゃあ騒いでうるさい。


やかましい!ぎゃあぎゃあ騒ぐな!ロリコンの変態が女の子を拉致ってると勘違いされるだろうが!


後頭部をひっぱたくと、前のめりにコケやがった。


足が痛いと泣いている。


流石に後悔したので無理矢理背中に担ぐ。


「きゃ、ちょ、何すんのよ!私メリーさんなのよ」


なんてぬかしてジタバタしている。


やかましい!


メリーさんは分かってんだよ!


無視しておんぶして歩く。


しばらくすると大人しくなった。


寝てんじゃ~ねえよ!


自宅に戻ると、リカちゃんと口裂けと冷蔵庫女が出てきて…


「メリーさん!」


「お姉ちゃん達!」


お前ら四人姉妹かい!


最近、イライラすることばかりで、仕事があんまり捗らない。


課長に俺だけ残業を命じられた。


くそっ、今度課長に口裂け女を派遣してやろう。


しばらく残って仕事をしていたが、飽きたので帰る事にする。


残った仕事は自宅で適当にでっち上げよう。


帰って、みんなで食事、風呂はリカちゃんとメリーさんと一緒に入る。


こいつら、ワーワーキャーキャーうるさい!




こら、洗ったらすぐに湯船に入らないと風邪ひくだろが!


リカちゃん、ちゃんとリンスしなさい!


メリーさんを見習いなさい!


何?もうすぐアニメが始まる?


分かったよ!今日は50数えたら上がっていいから騒ぐな!


風呂から上がって一服してから、残りの仕事をでっち上げることにする。


パソコンを立ち上げて、まずはメールの確認。


吉田からメールが来てる。


ーーーやまとさん、俺のPC使っていたずらしないでください、課長に物凄く怒られました、やまとさん


の好きなおげれつ画像をあげますから、もうやめてください。ーーー


あの野郎、証拠もないのに人を疑うんじゃねえよ!


まあ、俺がやったんだけどね。


吉田の奴気が利くじゃあねえか!


ドキドキして添付ファイルを開くと、画面一面砂の嵐。


なんだりゃ?


と見ていたら、画面奥の古井戸から女が這い出て来た。


こりゃあ、貞子じゃあねえか!


しまった、吉田の野郎俺の性癖を巧みに利用しての、高度な戦術を駆使して報復をしてきやがった。


「くそう、来るなら来いやあ!」


いざとなったらこっちには都市伝説の手練れがいる。


負けはしねえ、いや、冷蔵庫女は無名だが、あの三人の姉だ、きっと陰の番長に違いない!


貞子が画面から出て来たが、何か様子がおかしい、きちんと正座してじっとしている。


俺が黙っていると、おもむろに話し出した。


「あのう、こちらに妹と姉がお世話になっていると聞いたのですが…」


貞子、お前もか!


それから、五人で大騒ぎ。


何ですかこれは?


あの人に会いたい、感動の年末スペシャルですか?


もう、勘弁してください。


仕事にならんから、みんなでリビングに。


「貞子おねえちゃん今日はリカと一緒に寝ようね!」


「だめ~今日はメリーと寝るんだから!」


「ほらほら、喧嘩しないの、今日は5人で一緒に寝ましょう!」


と冷蔵庫女がしきる。


「お前ら勝手に盛り上がってんじゃあねえよ!出て行けよ!」


貞子は


「あら美味しそう」


何て言って、残った料理をぱくついている。


「貞ちゃん、これも美味しいわよ」


と冷蔵庫女は、自分で漬けた漬物を勧めている。


「ちょ、お前ら人の話を聞けよ!冷蔵庫女!口裂け!」


「嫌っ、ひどいわ、口裂けなんて呼ばないで!」


「わたしも冷蔵庫なんて嫌!」


「じゃあ、なんて呼べばいいんだよ!」


「私は、アイスドール、略してアイちゃんって呼んで」


と冷蔵庫女。


何がアイちゃんだ!


「私は、セクシーリップ、略してハニーさんって呼んで」


と口裂け。


やかましいわ!


何がハニーだ!


第一略してねえ!


呆れたし、なんだか疲れたから、先に寝ることにする。


戸締りだけはしっかりと頼むぞ、最近物騒だから。


まあ、こいつらがいればセキュリティは万全か。


翌日、出勤途中で近所の人に会う。


最近、オタクに変な噂が立っているから、お気をつけなさい。


と忠告される。


なんでも、俺が夜中独りで、


誰かをおんぶするふりをしながら、


ブツブツ言いながら、歩いているのを見たとか、


一人、部屋で楽しそうに、談笑していたのを見たとか…


まずい、これはまずい、


なんとかしなければ俺は痛い人間の烙印を押されてしまう。


会社の残業時間に、どうするか思案する。


これはお祓いをするしかないな。


お祓い屋をタウンページで探してみる。


ないだろなそんなもん。


えっ!?


あった!


あるんかい!?


凄えタウンページ!


なになに、


「浮遊霊、自縛霊、怨霊祟り、なんでもござれ、一発消去のOIS」だと!?


なんだこれ?


ふざけてるのか?


少々不安になりながらも電話してみる。


「は~い、お電話ありがとうございまぁす、只今トクトクキャンペーン中のOISでえっす!」


ふざけた口調だ。


駄目だここ、他を探そうと受話器を置きかけると


「ちょっと待ってくださいよお、あなた今霊に取り憑かれてるっしょ?それも超強力なやつ」


「なんでわかるんですか!?」


「あははは、言ってみただけっす」


ふざけるな!


やっぱり駄目だここ。


「あ、待ってくださいよお!


今ならトクトクキャンペーン中ですから、


格安料金ですよ!


それにご成約の方にはキラキラ光る護符ステッカーが貰えちゃうんすよ!」


キラキラ護符ステッカーに釣られて、近くのファミレスで会うことにした。


ファミレスで待っていると、来た!


おおっ!


なんかそれらしい雰囲気がある人が入って来た。


黒のスーツ、サングラスをかけて、背が高い。


テレビで見る秘密機関のエージェントっぽい。


これは、期待出来るかも。


立ち上がって迎えようとすると、俺を華麗にスルー。


「??」


俺の近くに座っていたギャルの席に着いた。


続いて、また誰か入ってきた。


これは違うな、いや、違って欲しい。


金髪で鼻ピアス、本人はダメージジーンズのつもりだろうが、ボロジーパンをはいている。


やめろ、こっちに来るな!


と思っていると、おれの傍に立って声をかけてきた。


「やまとさんすね?OISから来ました」


「人違いです」


「また、またぁ、冗談キツイっすよお!」


と言いながら、俺の向かいに腰を下ろした。


勝手にチョコレートパフェを三つも注文してやがる。


「OISって何の略ですか?」


「お化け一発消去っす。


センスいいっしょ!?」


大丈夫かここ?


おちょくってるのか?


それに、そのふざけた喋り方なんとかならんのか?


俺は観念して事情を説明し始めたが、コイツは夢中でパフェを食ってやがる。


人の話を聞け!


「分かったっす、やりましょう」


即決かい!


「で、料金は?」


「100万円っす」


無理だ!高すぎる。


「高いっすか?」


「はい…」


「じゃ、一万円でいいっす」


なんだこの激烈ダンピングは!?


「いいんですか?」


「いいっす、100万円は言ってみただけっすから」


ふざけるな!


「んじゃあ、ご成約ってことで、これを」


金髪は、キラキラ護符ステッカーとカードをくれた。


「このカードは?」


「ポイントカードっす、100ポイントでお祓い一回無料になるっす」


バカ野郎、100回も取り憑かれてたまるか!


もし、そんな事があったら、それはもう祟りだ!


ってか100回達成までに絶対死んでる。


「じゃ、行くっすよ」


「えっ、もう?


準備とかは?


霊を退治する秘密兵器とかはないのか?」


敬語を使うのがアホらしくなったので、タメ口に格下げ変更する。


「やまとさんテレビの見過ぎっすよ、


んなもんある訳ないっしょ、


大人なんだから、しっかりと現実を見つめないといかんす」


お前に言われたくねえよ!


「除霊は霊とじっくり対話して、


霊を十分に納得せせる事が肝心なんす、納得しさえすれば、浄化なんて簡単っす、


オイラはその手助けをするだけっす」


おおっ!


やっと専門家みたいな事を言った。


コイツ、もしかしたら出来る奴かも知れん。


俺と金髪野郎はファミレスを出て、俺の自宅に向かった。


奴は車内で、勝手にお土産に頼んだファミレスのケーキをぱくついている。


なんでも、除霊にはかなりのエネルギーを使うらしく、エネルギーの補充には、甘い物が一番いいそうだ。


嘘つけ!


そんな話聞いた事ないぞ!


只の甘党さんなだけだろが!


こら、金髪、ケーキぽろぽろこぼすな!


車の窓からナンパするんじゃねえ!


挙句の果てには寝ちまいやがった。


ったく、緊張感のない奴だ!


自宅に着くと、金髪は霊が逃げないように、


結界を張るとか言って、


適当にそこら辺の太い雑草を引っこ抜いて、


家の四隅に立てた。


「おおっ!なんかそれらしいな!」


と言うと。


「何にもしなくても構わないんすけど、お金貰ってるし、


それっぽく雰囲気出してみたっす」


とかぬかしやがる。


やっぱり遊んでやがるコイツ。


金髪は家の玄関に立つと、


何やら奇妙な踊り、ってか踊ってやがる。


呪文かと思ったらラップを歌ってやがる。


コイツ完璧遊んでやがる。


「お前なあ…」


と言いかけたら、黙って家の中に入って行った。


おお!ついに除霊か!頼むぞ!


しばらくすると、家の中から、ドスンバタンと音がして騒がしい。


幽霊と闘っているのか!


?大丈夫か?


「ん?」


なんか様子が変だ。


耳を澄ませると、笑い声や、もう一杯!とか、イッキ!イッキ!イッキ!とか聞こえる。


「あんのヤロー!宴会やってやがる、幽霊にたぶらかされてんじゃねえ!やっぱダメだあいつ、使えねえ!」


ムカついたから、中に入って金髪をぶっ飛ばそうと思ったら、金髪が真っ赤な顔をして出てきた。


「お前なあ…」


「終わったっす」


「へ!?」


「終わったっすよ」


「お、終わった!?」


「凄え!


やるときゃやるもんだな!


俺は信じていたぞ!」


「彼女達には分かっていたっすよ、除霊される事…そんで、最後に、やまとさんに挨拶がしたいそうっす」


金髪がそう言うなり、姉妹が出てきた。


「こんな私に優しくしていただき、ありがとうございました。


あなたの事は絶対に忘れません」


と冷蔵庫女、いや、アイちゃん。


「荒んだ心が、あなたのお陰で癒されました。


ありがとうございました」


と口裂け、いや、ハニーさん。


「姉と妹達がお世話になりました。私も…もっと一緒にいたかった」


と貞子さん。


「お兄ちゃん、お風呂楽しかったよ、大好きだよ!」


とリカちゃん。


「お兄ちゃんのこと、ずっと見守っているからね、さよならお兄ちゃん」


とメリーさん。


「さっ、もういいっすか?」


と金髪が、懐から五羽の折り鶴を出して、


一羽一羽に息を吹きかけながら、


一人一人に飛ばす。


折り鶴は一人一人を吸い込み、空高く舞い上がって行った。


漆黒の夜空に五つの星がきらめいた。


「行っちまった…」


「っす」


「それにしても、お前ちゃんと除霊してたんだな、


俺はてっきり遊んでるとばっかり思ってたよ、すまん」


「遊んでたっすよ」


「は!?」


「だから、遊んでたっすよ、


あの子達は、とっくに納得してたから、あんまり早く終わったら、


除霊っぽくないっしょ?


だから彼女達とお別れ会やってたっす。いやあ、楽しかったっす!」


俺は呆れて物も言えない。


「プッ、あははは、全く喰えない野郎だよ、お前は!」


「じゃ、また霊に取り憑かれたら、よろしくっす!」


「そうそう取り憑かれて堪るか!」


金髪野郎が帰って、一人リビングで寛ぐ俺。


「あ~せいせいした…」


「俺のリビングって、こんなに広かったんだなぁ…」


「あれ?目が悪くなったかな?


今日はやけにテレビの画面がぼやけてにじんで見えるな…」


おれは、そっと目をぬぐった。


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