川岸にて
川岸に腰を下ろし、クーラーボックスを地面へ置いた。
シャツの袖をまくり、左手で水面をバチャバチャとたたく。
強弱をつけ、音を立て、大きく波を起こす。
そうしていると、水中をゆるゆると泳ぐ影がこちらへ近づいてくる。
徐々に、徐々に、近づいて、手に触れる――寸前水から手を引き抜く。
その手を追って影が水面から顔を出す。
すぐさま首根っこをつかみ、水中から引っ張り出した。
それは『エキゾチックショートヘア』というネコだ。
とても独特の顔つきをしている。
その顔は不満でもありそうにも思えたが、この品種自体がそんな顔だった気もする。
地面にゆっくりと下ろすと、ネコは、プルプルとカラダをふるわせて水をはらう。
ネコにたいして、クーラーボックスへ向かうようにうながす。
観念した様子でニャーと鳴き、クーラーボックスへとスルリと身をしずめた。
ボクはふたたび水のなかへ手をツッコんだ。
さきほどと同じことをしていると、二匹目はすぐに現われた。
今度のエモノはゆったりとした動きで近づいてくる。
余裕をもってつかみ上げるが、水を吸った体毛がとても重い。
長毛のキジトラ、見た目に雑種のように思えた。
強くなでつけるように体毛の水を絞ってやり、クーラーボックスに近づける。
先住のエキゾチックショートヘアと数秒顔を見合わせると、仲良くクーラーボックスにおさまった
――あともう一匹ぐらいほしいな。
最後にもう一度、水中に手をいれて水面を大きく荒らげる。
警戒され始めてしまったのか、 3匹目はなかなかにきてはくれない。
しばらくして、ようやく影が近づいてくる。
いままでの二匹よりもはるかに大きい、大きすぎる。
速度は遅いが、この大きさは手に負えないかもしれない。
――つづけるべきか、止めるべきか。
そんなボクの迷いを感じ取ったのか、影は速度を上げて、一気に距離を詰めてくる。
おどろき、すぐさま手を引き抜く――と、同時に鋭いツメが横薙ぎに空振った。
大きく後ろに飛び退いたボクの前に、それが姿をあらわす。
それはライオンだった。
幼獣と言う時期は過ぎているが、成獣と言うにはまだ幼い。
ライオンとボクはにらみ合いの形となる。
ボクは、目を合わせたままゆっくりと、後ろへと下がる。
ライオンも、ソロリソロリとこちらへ近づいてくる。
しかし、ライオンの歩みはクーラーボックスへ向かっていた。
先住の二匹と鼻を突き合わせたかと思うと、クビの裏側をくわえて二匹をクーラーボックスの外へと放り出した。
ライオンは両前足をクーラーボックスへと突っ込む。
つづけて後ろ足もいれようとするが、ツメの先ほどしかスキマはなかった。
がんばって押し込もうとするが、クーラーボックスがミシミシと音を立てるばかりだ。
追い出された二匹はライオンの周りを回りながら、
『自分のサイズを考えろ』
『壊さないでよね』
と、責めるように鳴き立てる。
「それは無茶じゃないかな」とボクも言う。
ライオンは、シュン……としてうなだれてしまう。
クーラーボックスから出ると、身をひるがえし、悲しそうに水中へともどっていった。
その姿を見送り、ボクはひとまず安堵のため息をもらした。
いつのまにか二匹のネコも、クーラボックスへともどっている。
なんだかどっと疲れてしまった。
――今日はこれぐらいにしておこう。
「じゃあ、帰りますよー」
とネコの頭をなでつけながら声をかけた。
返事をしているかのようにネコが鳴いて答える。
しかしその鳴き声は、一方のネコは『ヤメロー』と、もう一方のネコは『ヤレー』といっているように思えた。
そのとき、ボクはすぐに気づくべきだったのだ。
背後から、ボクの首筋をかみ砕くべくせまり来る強靭なキバに――