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異世界に視る目をもって降り立ったのに全くモテません!

作者: 伊空 その

「あなたの聡明なキラキラした目に惚れこみました! お付き合いしてくださいませ!」

「……っ」

 相手がハッとし少し思案する様子を感じ取れたが、すぐに言葉を返される。右手を差し出していたがその手が握られることなく宙に浮いた手がむなしいまま答えを聞くことになった。

「申し訳ありませんが、カナ様とお付き合いすることが出来ません」

 あぁ、またか。と苦々しさを感じるがそれ以上に胸がスッキリとした。

 告げないままだと胸が切なく締め付けられとても苦しいのだ。言わない後悔より言う後悔が良いとはよく言ったものだけれど、私はかなり即効性をもって解消される。


「ふぅ…………」

 ただやはり乙女としては悔しいものは悔しいのでいつもストレス発散のため側仕えのオリーに話を聞いてもらっている。オリーは返事はそっけないようでいてきちんと話を聞いてくれるので話しやすい。異世界に来てすぐの頃も不安を沢山聞いてもらいありがたかった。今日もそうしようとあてがわれた自室へ向か戻ろうとすると……。



※※※


「オリー.......!!」


 パタパタと走る音がした。『来る』と思うと同時にドアがバーンと大きな音をたて開かれ女性が飛び込んできた。顔を赤くして目をうるうるとさせ部屋に入ってきたのは異世界からいらしたカナ・ササキ様。とても可愛らしいお顔立ちに黒髪黒目が神秘的でその表情は大層お美しい。

「また、ですか」

「またとはなによ……まただけど今度はもっと本気と思ってたのにー!!」


 そう、お美しい容貌ではあるが非常にアレなお方なのだ。



※※※



「それでね!この前のパーティで知り合ったオリバー子爵令息の気遣いがとても素晴らしくて、壁の花だった女性にさりげなくお話してさらりとエスコートした姿がもうきゅーんとしちゃって......この前のハウズバン男爵令息も領地経営に関する認識を少し語る姿がカッコよかったたけれど...あぁもう素敵な男性が沢山いるのに私はなんで誰にも好かれないのよー!!」


 ティーカップを中の紅茶がこぼれない程度にだがカチャリと乱雑に置きながら叫ぶ。


 軽いなぁと思いつつも名前を挙げられていく令息たちが侮れない。カナ様は一切意識していないが、気に入られた令息たちは誰もかれも能力が高い。国内で、いや世界で上位1%の何らかの分野に優れた存在なのだ。

 勿論一般的に出来る男というのはオーラがあるものだが、能ある鷹は爪を隠すというようにお家事情によったり本人の希望により能力を隠しなるべく地味に見せているが実は功績のある者までも見染めている。調べても全く功績を残していないものも王命により召喚し問いただしたり試練を課すことで何かしらの分野で秀でていることが判明しつつある。


「まぁ、カナ様は告白が軽すぎますからね。今度は出会って何日でしたっけ?」


「一週間」

 ぷくーっと頬を可愛らしく膨らませふてくされた顔で答える。


「早いですって」

「だってキラキラ輝いて見えてこれは一番の恋! と言わざるを得なかった!」


 彼女には男性がキラキラと輝いて見える、そしてその想いを告げなければ身体的にどんどん苦しさが増していくらしい。 

「元の世界にいたときはこんな風にときめいた事なんてなかったのよ? こんな風に男性を素敵!なんて想えるのはこの世界だけかもしれない……そう思うといてもたってもいられなくって」

 彼女はこのキラキラと見えてそれを言わざるを得ない状況をそんな風に環境と自分の内面の変化によるものと解釈しているらしいが、じつは違う。ごく少数しか知らされない極秘事項だが、これは異世界からやってきた彼女がもつ能力だ。

 キラキラと輝くものは実際に特に秀でた能力のある者。彼女のキラキラしているという事実を通達せねばならない苦しさの限界が能力の高さ、つまり告白が早いものほど能力が高いのである。キラキラおよび通達は一人一回まで、通達が終わるとまた新たな人物が輝きだして見える。


 現在彼女に伝えられていないのはその輝きの発見からの通達・告白までの純粋な期間を計測したいからである。我が国に降り立つ異世界人のこの能力についてわずかながらの文献から知られていたが詳細は判明していなかった。その点の正確な計測のために隠しているのだ。

 彼女に秘匿し利用しているが、悩み苦しませたいわけではない。この能力を持つ彼女の機嫌を損ねて使えなくなると困るという点からもどこかで何かおかしいと気づかれ悩みだしたなら即座に教えるようにも命令もされている。

 即座に教えるのであれば、おかしいと気づくとしてまぁ2、3人も告白すれば何かおかしいと気づき伝えることになるだろうと見ていたのだが、まったく気づく気配も無く疑いもしないままなんと50人に告白を済ませている。既知のもの隠しているもの貴族も平民も含め50人の優秀な人材を発掘できたことはこちらとしては大変喜ばしいがそんなに気づかないのだろうか、そこも純粋で可愛いが。


 そう、50人にもフラれている。

 これも王命で『こちらにとって愛の告白に聞こえる言葉をいうかもしれないが、それは異世界人のカナとしては友人への誉め言葉として発言するので真に受けずに告白を断るのがあちらの正式なマナーであるのでそのようにするように。こちらのものから口説く行為も禁止とする。またこの命令により異世界人に気を使わせてはならないのでそれについても話題にしてはならぬ』という旨のお触れが出ている。勿論王命に逆らえば即お家取り潰しレベルの厳罰なので、異世界人としての利用価値を見出したり、彼女自身ががどんなに可愛くて好感が持てる性格で是非にお付き合いをと考えたりしても断ることしかできない。

 そんな王命でカナは全員にフラれ続けている。

 50人に断られ続けているのに告白を続けるのはなかなかの強メンタル。これが選ばれし異世界人というものなのか。


「はぁぁーなんでこんなにフラれるんだろ、元の世界でも特にモテてた訳じゃないけどさ……好きな人に好かれたいよね」

「そうですね」

いつもは「あーつらい!! でもオリーの紅茶最高! ちょっと甘いものも追加で! シェフにはお菓子最高と褒めておいてね!」と元気に発散するのに今日はいつもより落ち込んでいるようだ。記念すべき50人目だからだろうか。



「……オリーはどんな人がタイプ?」

 彼女が男性にそのような質問をするのは初めてだ。いつも輝きを見るとひたすら猪突猛進とばかりに好意を示しだすのに。

「……どういう意図で……」

「んー異世界のひとの好みしっとこうかな? とか恋バナ楽しいし? とか……いややっぱいいや」

 いつもの調子で話そうとするが、そうする元気が出ないのかあきらめて真剣な顔に切り替わる。



「ほんとはさっきこの部屋に帰ってくる前に陛下に呼び出されて聞いたの。知ってたんだね」

 主語がないが、その悲し気な様子から何についてなのか伝わる。

「はい」

 陛下はどのように、どこまで話されたのだろうかと冷や汗が出る。私はずっと秘密に加担していた。彼女に、嫌われただろうか。


「その、どのようにお聞きになりましたか?」

「50人、予想以上に私が気が付かなくて視る目の能力の範囲とか測定のサンプルが十分に集まったから、って教えてくれたの」

 そういうことか、カナ様に伝えるならこっちにも言えよと思うが所詮は末端役人。そういう報連相が行き届かないこともままある。

「そういう経緯だったのですね…………」

「そしてそのために私の様子を観察する者を常に誰か付けていたことも」

「はい……常にカナ様の能力で見定められた者を確認その様子の報告などを……」

「いつもより歯切れが悪いね。王様の命令だから仕方なかったんだろうけど、私に関わる大事な話が秘密にされていたのは寂しかったな……」

 泣くのを堪えている表情。悲しかったことは伝えたいが、私たちを必要以上に責めたい訳ではないのだろう。


「申し訳ありません」

 仕事なので遂行していた。今までもこういう少し後味の悪い任務も行ってきたがカナ様の朗らかさに優しさに申し訳なさが日々積もっていたのだ。気持ちを込めてできるだけ丁寧に頭を下げる。


 カナ様は緩やかに首をふる。

「んん、仕事でやってたのに謝ってくれてありがと。許すよ、私もいっぱい迷惑はかけてきたしね」

「有難うございます」

 悲しかった気持ちを超えて、私たちの立場を思いやって言葉をかけてくれる。やはりカナ様はお優しい。にこりと許してくれたが、また少し瞳を閉じ一息つきながら思案すると両手で顔を覆い隠す。

「でもあぁ……許すんだけど! 恥ずかしいの!」

「恥ずかしい、ですか?」

「だって、あのキラキラも胸の苦しさも恋じゃなかったって! それも見分けられてない、ひたすら猪突猛進に告白しかできない私はどんだけ恋を知らないお子様なのよー!! それを!! オリーとか周囲みんなに! 結構多くの国民にも知られてるなんて!!!」

 恥ずかしさをなんとかしてかき消すためか叫ぶ声が大きくなる。たしかに恋愛偏差値の低さを多くの人に知られるというのは辛いかもしれない。

 告白の仕方から随分と異世界人はシンプルで直球だなとは思っていたが、そこもカナの世界のスタンダードということでもないらしい。

 恥ずかしがっている姿、自分もそのことに加担していたことからどう答えればよいか少しうろたえるが、何よりもカナ様を安心させるのが先だと思う。

「……大丈夫ですよ」

 珍しくも二コリとほほ笑みカナ様の頭を撫でる。そんな風に触れるのも初めてだ。カナの能力を発揮させるためにも不必要な接触を避けていたのが無意識に緩んだのだろう。


***


 カナ様はいつも元気だ。笑顔で溌剌とお出かけになるしパーティでもさらりと大勢の方とお話になる。決してふわふわとした表情や泣きそうな目など弱い姿を見せない。オリーの前以外。

 オリーはひたすら仕事はできるし顔も良いが無表情だ。不要なことも話さない。優しそうな瞳を見せるのも、こんな風におろおろと狼狽えながら相手のことを想うのも、カナ様の前だけなのだ。


 そう、壁と同化している私は何を見せつけられているのだろう。

 異世界人であるカナ様と側仕え兼異世界人行動調査係の一人オリーの2人の会話を

ずっと見守っていたメイド兼異世界人行動調査係の私からモノ申したい。


『お前らとっととくくっつけよ!』


 はたからみていて確実に両想い。無自覚両片思いというやつだ。告白を受けてはならぬ両想いになってはならぬという命令も王がカナ様に能力について説明した時点で意味をなさない。なんならきっちり王様に確認取ってくるから!

 後日王に確認を取ると『うん、もうカナちゃんの秘密解除だから、能力を使った目利きの仕事はしてもらうけど恋愛OKよ』と軽い返事を頂いた。解禁されたことが広まればこれまでに関わった上位1%の優秀な殿方たち、カナ様への恋心を隠されていた分爆発して押し寄せますよ。無自覚すぎて教えることもはばかられる状態でどうしようもない。無自覚両片思いの2人のむずむずとしたやりとりから一向に進まず中途半端なイチャイチャを見せつけられる日々。

 幸せそうな2人の顔を横目に特命メイド係の受難は続くのであった。



ご拝読ありがとうございました。

初投稿なので★とかつけてもらえたら励みになります、よろしくお願いいたします!

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