俺、こんな国嫌だ!!~世界の危機より、俺の危機~
勇者に選ばれた男を待ち受ける絶望とは...
スーパーで長芋を手に取った時に降りてきました。
...最近、疲れているのかもしれないです。
俺は今、すぐにでもここから逃げ出したい気持ちで一杯だった。
否、ここからではなく、この国から逃げ出したい。
理由はなぜか?
それは、目の前にこの国の王様がいるからではなく、謁見の間でエラい人達に囲まれているからでもない。
相手や場所が問題ではなければ、何が問題か?
連れて来られた経緯か?
否、それも違う。
確かに、俺の優雅な朝(昼過ぎ)を台無しにされ、叩き起こされた事や、連れてこられる際、理由も聞かされず、ガチムチの騎士にお姫様抱っこで連れ去られ、念入りにボディチェックをされたが、今は些細なことだ...。
ーーーー嘘です。町中の人に俺がお姫様抱っこされているのを目撃されました...。
もう、お婿に行けない...。
確かに、絶叫した俺が原因だよ。
叫ばなければ、あんなに見られる事は無かったかも知れない。
でも、無理じゃん。
ドア破壊のモーニングコールで目覚めたら、おっさん達に囲まれてるって、叫ばない方が無理じゃん。
...もう、あの町には帰れない。
「おお!! 勇者よ。勇敢なる者よ! この武器と共に旅立ち、魔王を討伐するのだ!!」
王様の声で、現実に引き戻された。
落ち着け、俺!
今はこの状況を脱する事だけを考えろ!!
そう。俺は勇者に選ばれたらしい。寝間着で寝癖頭のまま、あほ面晒すこの俺が勇者だ。
別に勇敢でもなければ、魔王にこれといって恨みはない。
よくある物語のように、勇者が嫌だから逃げようって訳でもなければ、戦うのが恐い訳では...少なくとも今、俺の置かれている状況に比べれば魔王とのタイマンなんて些細なものだ。
「さぁ! 受け取るがよい!!」
問題はこれ、さっきから王様が執拗に俺に押しつけようとしてくる武器だ。
別に檜の棒で旅立てと言われてる訳でも、曰わくのある武器と言うわけでもない。
檜の棒だったら、どれだけ良かったか...。
ある意味呪いの武器だ。
昔見た邪神の封じられた魔剣が可愛く思える程...。
それは持ち手から先端に掛けて緩やかに膨らみ、ゴツゴツとした質感を持つ打撃武器...棍棒のようーーーー
「ーーーー我が王家に代々伝わる伝説の自然薯を!!」
ーーーーそう、自然薯だった。
別にこの王様がボケているわけでも、ドッキリでも、俺が憎くて武器を渡したくないからでも...残念ながら、誠に遺憾ではあるが、ない。
この自然薯には由緒正しき由来があり、それにあやかって勇者であるこの俺に授けようとしているのだ。
ーーーーこんな国、滅べ。
この自然薯に関する逸話はこの国を建国した初代国王の時代まで遡る。
山々に囲まれた自然豊かなこの国は、資源を求めた隣国からの侵略を度々受けていた。
戦争初期こそ、恵まれた土地だったこともあり、物資は潤沢だった。
しかし、それも永くは続かなかった。
この国の王都に近い山脈でミスリルの鉱脈が見つかったのだ。
ーーーーミスリルの武器を渡してくれよ...お願いだから。
瞬く間に、その噂は広がり、各国が王国に向けて宣戦布告、ほとんど言い掛かりに近いものだったという。
そして、兵站は尽き、戦線には僅かな食料が届けられるだけだった。
そして、戦線が保てなくなるというとき、何を思ったか、初代国王が食料として自然薯を大量に送ったのだ。
考えられる理由としては、当時からなぜか王国の領土の山では質のいい自然薯が大量に自生していたからだろう。
...戦線が保てなくなる程の食糧危機になるまで送らなかったのは、本当に最後の手段だったのだろう。
餓えている時に、送られた物資が自然薯だったら、俺なら、謀反起こすわ。
その戦争がどうなったか、それはこの国が生き残り、大陸に覇を唱えている事からも見て取れるだろう。
...生き残ってしまったのだ。
彼等は...。あの化け物達は...。
自然薯が支給されるようになってからは、なぜか軍の内部でカップルが乱立。
お互いがお互いを守り、支え合う究極のツーマンセルがこの国に誕生した瞬間だった。
以来、この国では自然薯を王家の象徴とし、軍は常に二人単位で構成されるようになり、負け知らずの軍事大国となったのだった。
「勇者様!! 我らと共に魔王を打ち倒しましょうぞ!!!!」
振り返ると複数のペアで形を組んだ騎士達と俺をここまでお姫様抱っこで連れてきた騎士が自然薯片手にサムズアップして眩しい笑顔を見せていた...。
「俺、こんな国嫌だ!!!」
滅べ!! こんな国!!
...やっぱり、疲れているのかもしれませんね。
暗いニュースばかりですが、これを読んだ人が少しでも、笑顔になれば幸いです。