6座
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六番目の星座:エリダニは水を吐く醜い姿のヘビ
まだ星が未熟であったころ六番目の星座:エリダニは哀れと思い星に命の源である水を吐いて与えた、なみなみと注がれた命の水から生命が生まれ星を潤した。皆が六番目の星座:エリダニを神として崇めるようになると、とある星座が尋ねた、皆が崇めるのだから姿の一つさえ現わしてはやらぬのかと、六番目の星座:エリダニはそれに従い姿を現したがあまりに醜い姿だったため殺されてしまった。六番目の星座:エリダニは悲しみの涙で星を覆いすべての生命を殺してしまう。
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ふう…まったく上手くいかない!この幻想的な場所でならどこでだってテンプが作れるってルーナに聞いたのに…何がいけないのかまったく作れなくなってしまっている──それでこそ最初のうちは“力”が戻っていないのかも、とか手順が違ったのかそれとも場所?タイミング?どれも試したが一度も作れていない…これじゃそのうち餓死する!
なんせ食いぶちが一人増えてしまったのだから──しかもよりにもよってわたしを殺そうとして家まで木端微塵にしてくれた男……いついてから一週間たつがいまだに名前を呼べてない…昨日の敵は明後日の?……なんちゃらって言うけど、そんなのは日本じゃないここでは通用しない。特にわたしには。
どこかに捨ててきてやりたい気持ちでいっぱいだったけど、男がわたしを育ててくれたザードの息子というのもあって無碍にも出来ないでいるのが現状……彼が持っていたパーディナルの剣も“魔力”も“力”どちらも使いきってしまったためか、いまや扉の一部になり果てているので現時点で彼はわたしたちには手出しができないというのがルーナの考え
でも彼ならわたしの首を素手で折ることも出来るだろうし、あの調理包丁でめった刺しにすることだって出来るはず
要はまったく信用できない人間。
「私の事は信用できなくて当然だ、むろんこれからも信用などしてくれなくて結構だ……悪魔を殺したいと思う気持ちはまだ私の中に強くあるのだから──」
そういって薄い毛布一枚抱えて地下に降りたときなど
「おおいい心がけだ、ついでに朝が来るまで閂もかけてやろう」
ルーナは本当にそうした
「なんだその顔は……いいか若い男と若い女が屋根を共にすると大概の男は獣に化ける。あのように好青年づらしたやつでもな。
マナ、お前は用心というものが欠けている。だがちょうどいい年でもあるからな教えておこう……男が女を揺すって」
前右足と前左足をぱむっと叩き合わせて見せる
「結構です!!」
思いだしただけでもおぞましい……破廉恥猫になんでそんなこと習わなくてはいけないのか。わたしだってそれなりの知識くらい持ち合わせている──
「あっ!」
まただ……すくいあげた水に“力”を込めてもぱちぱちと弾けるだけでまったく固まらない。世と世の間だというここでは“迷いの森”の泉とは違って“魔力”も“力”常時、交錯してる、ということはやっぱりわたしに問題があるんだ
「…もう…!」
水にやつあたりをしてみても、仕方がない…服はすでに水びたし、今日もこのまま収穫なしで帰らなきゃいけないのかな
いやっもう一度……!両手でそっと水をすくって銀の盆に入れる、そこで手をかざして“力”を込める。パチパチと火花が散るが水は水のまま
「“魔力”ですよ~」
「!?」
突然、目の前に現れた人に驚いたせいで手元が狂ってしまった、雷が落ちたような衝撃とともに盆の水がはじけ飛んでしまった、おかげでわたしは全身びしょぬれ──
「……あなた誰?人間では、ないよね…」
「そうですね、ここに普通の人間は来れないんじゃないじゃないでしょうか?それにしても……いや、それよりほら“力”じゃなくって“魔力”をこめてみてごらんなさい」
白髪を肩先で揃え、目も覚めるような色とりどりの服を着た男は上空を舞う鳥のようだ、全身水浸しでなければ見惚れる所だけど──もっともわたしがいま失敗したせいだけど。
「…わたし“魔力”は使えないんだ、でもあなたのおかげでどうやってお金を稼いでいいのか解決策がわかった、ありがとう」
「ええそうなのですか?“魔王”になるべき人が“魔力”を使役できないとは…う~ん。せっかく“魔王”の気配を感じてここまで来たんですけど、まだ早かったかな?」
なんだかすごくがっかりさせてしまったみたい
「申し訳ないけど…わたし“魔王”にはなれない…というかなる気はないのよね」
「………じゃぁ次世の“魔王”を待つしかないということでしょうか~それは残念」
ごめんと言いかけたときには男は消えてしまっていて、水場にかすかに波紋が残るだけだった。
「初めて…悪魔に会った……心臓が飛び出るかと思った…」
“魔王”なわたしに“悪魔”は危害を加えないということはルーナから聞かされていたけど、さすがに本物を目の前にすると怖かった。考えれば“悪魔”ってわたしに一番近い存在で“家族”に一番近いのかも?
「はっ!そうだそれより……!」
手早く道具をかき集めると家に向かった。玄関先の庭はきれいに雑草が処理されさっぱりと手入れされた木は、クルトいや居候がやったことなんだけどこれがまた、いい仕事する
料理も掃除も洗濯だってお手の物…おかげで家は小奇麗に。ただ物自体は不足している状態で毛布だって足りないし、服にいたっては最悪な事に一枚しかないために洗濯して乾くまで毛布にくるまっているしかない……そのてんで言えばルーナは猫のままでいるので気楽なものだ。