表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

5座


******


五番目の星座:ホールスは悲劇の星

愛した夫との間に双子をもうけた、一方は王座を約束され一方は神となることを約束されていたが、双子は互いの座を羨んだ。父はそれを見てならば約束された座を剥奪させようとした、座に執着しなければ双子は双子でいられるはずだとそう考えた、がそれを知った双子は父さえいなければと、殺してしまう。それに嘆き悲しんだ五番目の星座:ホールスは双子を殺めてしまったという。



*******


痛いなぁ…なんでこんなに痛いのかな…?肺も痛いし頭も痛い…腕も足も

それにすごく寒い──

「あれ?わたし死んじゃった…?」

「だいじょうぶだ、もう少し休め」

ルーナの声だ…相変わらずいい声してるなぁ

「……でもね体中が痛いの、それに…すごく暗い」

「移送方陣が発動して扉をくぐるときに痛めた、暗いのは使わぬほうがいいから布を巻いているからだ」

「あとね、すごく寒い」

「…ふむ。これで少しはましだろう?」

ふんわりと包まれた、少し体勢はきついけど──うん。あったかくなってきた

「しゃべりすぎてるぞ、眠れ」

「──ここは安全?」

「ああ」

そっか…じゃあいいかな…眠っちゃおう──それで起きたら何か食べ物を調達して──新しい住みかをみつけ………



「………眠ったか?」

「うるさい、黙れ、この塵屑騎士。」

鬼のような形相で睨む男はどうやら先程まで魔女にしたがっていたルーナという猫らしい…今は私の前で魔女を抱え込んでいる。相当に大事なのか少しでも手当をと思い近づいた時など食い殺すぞなどど脅してきていた。

今でさえ、甲斐甲斐しく魔女の世話をしている。魔女はどうやら美しい使い魔が好きらしい、ルーナという使い魔の美しさといったら…艶のある滝のような黒髪は座っていてなお床に流れを作り、黒の柳眉、黒の黒曜石色の瞳は切れ長だ。ときおり魔女の頬をすべる指は雪のように白く悩ましいほどに優雅だ。

それにしても、迂闊なことをした。ドアを破壊しようと爆発させた衝撃で自分まで移送に巻き込まれてしまうとは……移送された先はどうやら空家のようで、強い衝撃を受けた魔女は怪我を負ったらしくぐったりと横たわっていた…殺すなら今しかないと剣を抜いたが躊躇してしまった──何故と問われても自分でもよくわからない。ただ今殺すのは違う気がしたのだ

「おい塵屑騎士。お前はさっさとここを去れ。俺に食い殺される前にな」

「……食い殺す、ね…今わたしがここを出て行ったとして聖十騎士を連れて戻ってきたらどうする?」

恐るべき美形の口の悪さと言ったらない……

「ふん。もし戻ってくることができたらお前の靴でもなめてやろうか?」

口端を上げ、目を細めたところをみると挑発しているのだろう、やれやれと腰をあげて分厚いカーテンをかき分けたところで

「さあ行くがいい。そして死ね。」

「なるほど……ここはどこなんだ?」

窓から見たところ、私が知りもしない土地らしい、真っ白な銀世界だ。しかも見事に視界すら白い雪で覆われている。

「ここから3日ほど歩けば村がある、そこへ行って聞くがいい」

やはり死ねということか。

「潔いほど私を憎んでいるな、それもそうか主を殺そうとしているのだからな」

「────」

「一度聞いてみたかった、なぜ人を騙し、陥れ、憎み、殺すのかと」

壁に背を預けて、使い魔に問いかけてみる。使い魔ごときでは答えられぬかもしれないと思いつつも。

「師に問うた事があった、何故悪魔はそうするのかと、すると師は悪魔とはそういう性質で生まれてくるからだと答えた──では何故」

「何故何故とうるさいやつだな。お前には物を考える脳がないのかそれとも人間にはそういった思考をもつものが産まれぬのか」

「──何?」

「ではお前に問おう、何故人とは悪魔を殺すのか、実際にその目で悪魔が人を攫う所を見たか?殺す瞬間を?血にまみれて歓喜しているさまを?

ああ文献でも読んだか?ではそれは誰が書いたものか…そいつをどこまで知っている?盲信的に信じるほどの者か?」

「…………そこの魔女は実際私の父を籠絡させたではないか!」

「籠絡!これは面白いことを言う。お前の父がどうしてマナを助けたかその事実さえしらんというのに……くっくっ」

「何だと……」

脇の剣を握る。こんな悪魔どもに私の何がわかる!叫びたい思いをぐっと飲み込む。

か細い声が使い魔の腕の中からこぼれると、何か話したのかまた魔女は眠りだしたようだ、どうしたかと気にするのも癪だ…だが怪我を負わせてしまったという自責の念もないわけではない…いずれ殺す事になるだろうが、私は人間だ。人間は戦えぬ者をむやみに殺したりはしない…それこそが騎士道だ

「魔女は……具合はどうだ…」

「黙れ、しゃべるなお前の声は毒になる。」

確実にいま私の忍耐力が試されている…聖女よ御護りください!



*******


「ん……」

寝返りを打ちたくて体をひねるけど上手くいかない…それにやっぱり身体中痛いところばかりみたい。ずいぶん狭いベッドに寝かされてるみたい、となるとここはどこの空家だろう?

「マナ起きれるか?」

「…ルーナ──うん大丈夫、起きられる」

無理やり身体を起こそうともがいてみるけど、どうにも上手くいかない。これってわたし今どんな状況なのかな──目が見えないってこんなに不安になるものなんだ

「無理するな、“力”が使えそうであれば扉を移動したい。コロナクの扉だけ残して他は閉じてしまったほうがいいだろう」

「そうだね…」

わたしも扉は閉じてしまう法がいいと思ってた、あそこにはもう戻れないと覚悟したから大事な本をカバンに詰め込んだ…けど実際もうあそこには戻れないと口に出すのには勇気が必要みたい。ザードとの最後の思い出が残る家だもの…

「“力”はもう回復してると思う、試してみる──わっ」

突然の浮遊感、怖い!手短な毛布を握った…ん?毛布じゃない…これって髪?

「マナあまりひっぱてくれるな痛いぞ」

「ええ!ルーナ?!人になってるの?」

ということはわたし今ルーナに抱っこされてるってことだ──とんでもない…あの美貌が見えない状態でよかった…顔面凶器が近くにあるってだけで嫌な汗が出そう

「マナもずいぶん育ったものだな、腕も脚も折れるかとおもった」

「悪かったわね育って……ってわたしが寝てたのってルーナの……?」

鼻で笑われた所をみると予想的中みたい…恥ずかしいいい年してずっと抱っこで寝てたなんて涎でも流してたら目も当てられない!

「わかるか、ああそこだ」

ひんやりとしたドアノブに手が触れる、ちょうどいい高さに調整してくれたらしいルーナは実際わたしの重さなど感じていないんじゃないかというほど軽々とわたしを持ち上げている

「やってみる」

じわりと“力”が流れる感じはするけど、上手くいっていない気もする…

「やはりまだ早いか───」

やっぱり上手くいってないんだ、“力”が詰まった感じがする無理やり血管を絞められたような気持ち悪さがある、大概こういうときってルーナが人に戻ってるときに起きやすい──絶対にルーナには言わないけどね…わたしって自分で思ってる以上に美形に弱いのかも

「…なぜだろうお前が食べたものはどこへ行っているんだ?」

「はい?」

「いや確かに育ってはいるが、なぜこうも必要ではない箇所ばかり育つのかと、とくにほらここなど赤子のように……」

器用に二の腕をたぷたぷと叩かれた…気にしてたから余計に腹が立つ!

「この………破廉恥猫!!」

行き場のない怒りがドアノブに伝わったのか急に紋様が浮かぶ時の音が聞こえてくる

「おお、おお。見る間に移送方陣ができたな、ではコロナクへ」

「じゃぁ…ついでに他は閉じてしまうね」

「それがいいだろう」

さようならと心の中でお別れをして扉を閉じる、かたりと音がしたような気もしたけどルーナが何も警戒しないところからみるとただの者音だったらしい、ちょっと気が高ぶりすぎているのかも…つい先ほどまで殺されるという状況にいたせいだ

「──どう?ルーナ」

「ふむ…人の気配はない。周辺も見て回ってくるからここにいろ」

ソファにおろされたらしいわたしの頭を一撫でしたルーナは

「ローヴも借りていくぞ、あと金もな。なにか腹に入れないと……」

「贅沢しないでよ?これからもっと必要になってくるんだからね」

「うまくやるさ。大人しくしておけよ」

そんな釘をささなくともこんな状態で何もできない、したくとも。気をつけてといったわたしの声が届いたのかどうかわからないがルーナの気配が消えたので出て行ったに違いない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ